Unknown②「あのときは驚いた」
むず痒そうに目元を手で隠しながら言った先輩に、驚いたのはこっちですけど? と返す僕は多分、にやにやしてるんだろうな。
「いや、まぁ、そうだろうが……俺としては普段どおりにしているつもりだったんだ、それなのに、自分でも意識していなかった変化に、よりによって、お前が、気付いていたから、戸惑って──」
しどろもどろなその様が面白くていじらしくて、そして可愛らしくて、僕はただうんうんと頷いていた。
「だから……もしかしたらお前も、と、期待してしまって……それでだな……」
それなのに、僕が相も変わらずお悩み相談の体を崩さなかったので、慌てて逃げた? と聞いてみたら
「……もうやめてくれないか?」
確認のつもりだった質問はどうやら追撃になってしまったようで、先輩はとうとうテーブルに突っ伏してしまった。かろうじて見えている耳が先の先まで真っ赤っ赤。
ごめんなさい、揶揄ってるつもりはないんです、ただ懐かしいのと、それから──うん、そうだな、嬉しいんですよ、僕は。
伝えながら撫でた先輩の髪は、洗った後だからさらさらで、だけど僕より少し硬め。
この手触りも、先輩のこんな、しおらしい姿も、あのときは知らなかった。
僕と先輩が、こういう関係になるまで、あれから少しの期間を経ていた。