Unknown③ 先輩を追いかけられなかったあの日──僕は、呆けている間に赤へ変わってしまった信号がもう一度青くなるまで待ってから署に戻った。
そこに先輩は居なかった。少なくとも、僕の視界に入る範囲には。
きっと署の何処かには居たんだろう。だけど僕は探さなかった。
そしてそのまま、その日の勤務を終えた。
家路の中で、何度も思い出していたのはあのとき、先輩が僕に言ったこと。
先輩は好きな人がいると言った、そしてその相手は、状況から考えて、僕だ。
知らなかったなぁ、と、歩きながら自然と声に出して呟いていた。
先輩は、僕が好きなのか、そうなのか。
それ以上進まなかった思考がほんの少し動いたのは、家で眠る直前だ。
今僕は、どういう気持ちなんだろう。少なくとも嫌ではなくて、むしろ多分、嬉しい。だけどそれは、嫌われるよりは好かれる方がいいっていう、概ね大多数に対して抱く感情と同じなのか、それとも。
そもそも僕はどうして聞いたんだろう、先輩に、悩みでもあるのかって。
それは様子の変化が目についたからで、放って置けなかったのは不安の芽は早めに摘み取るべきだと考えたから、で、間違いは、ない。
だけど、やっぱりそこに、少しの違和感。
これはあのとき、先輩と話している間にも感じたものだ。
先輩は、苦しそうだったり、嬉しそうだったり、そして、悲しそうだったり。
笑っていてもそれぞれ違う色を、あの短時間に次々と浮かべて、そして、それを見るたびに僕は、どんどん息苦しくなっていった。
あれはどうしてだったんだろう。
この疑問に関しては出来る限り早く理由を知って、対処するべきだ。
僅かな違和感も見逃すべきじゃない。
あのとき無視したものが今、確実な思考の妨げになって眼前に立ちはだかっている。
正面から向き合って考えよう、僕自身が抱えているこの違和感の、正体について。