視点 完 見せてよ「悠仁、結婚しようか」
左手薬指に通した指輪とその言葉に、大粒の涙を流して喜んでくれる彼。本当に愛おしい。
僕がこんなプロポーズの言葉を持ち合わせていたなんて、きっと誰も想像できなかっただろう。自分でも驚いている。
僕を変えてしまうくらい、僕の中で彼の存在は大きかった。
「もう!先生大好きー!」
数年前に聞いたその台詞。卒業式のときに逃してしまったそな台詞を、やっと捕まえられた。
「ずっと側で見ているよ」
と薬指の指輪にキスをする。
潤った瞳から、また溢れそうになる雫を堪えて笑う彼は、朝から幸福感を満たしてくれた。
◻︎◻︎◻︎
彼と再会したその時に、もう手放さないと決めた。
ずっと欲しかったんだ、こんなチャンスは二度とない。
それからすぐに同棲して、おはようからおやすみまで過ごしてみれば、もっと確かなものが欲しくなった。
それは自分とは縁の無いものと決め付けていた"結婚"の二文字。
人は相手を想い過ぎると、その二文字が浮かぶのだと実感した。
誰かに誠実になってなったことはないし、反吐が出ると思っていた僕が、こんなにも人を想う時が来るなんて。可笑しかった。
「本当、悠仁のこと好きなんだな」
こんな歳になるまで知らなかった感情を、漸く知った。
そして、やっと手に入れた彼の想いに、自分の気持ちが冷めるどころか増すばかり。もっと悠仁に僕の気持ちを示したい。形にしたい。そう思えば、この選択肢しかなかった。
小さな小箱には、小さなサファイアの付いた指輪。
サファイアの意味…「成功」「誠実」そして「慈愛」。彼と片時も離れたくない。少しでも彼を見ていられる様に、その気持ちが彼に伝わる様に。僕には悠仁だけだよ。そんな考えでサファイアを選んだ。
悠仁の指で輝くサファイアも、嬉しそうに輝いている。もう一つの僕の瞳。
「俺…すげぇ幸せ…」
頬を赤くして、うっとりとする彼を朝から食べてしまいたくなる。
お揃いのスエットも、毎日一緒に食べる食事も、どんな物より価値がある。
特別な日に、特別な場所でプロポーズをしよう。そうも思った。
だけど、彼と過ごす日常の中で、彼に伝えたかった。きっと彼もその方が驚く。
僕が見たかったのは、まだ見たことのない悠仁の姿なんだから。
「僕も幸せだよー!」
「わぁ!苦しいって!」
目一杯の力で抱きしめる。
好きだ、好きだ、好きだー!
こんな気持ちが心の奥底から湧き上がってくる。
「先生、ずっと一緒だからね!一生ね!」
「当たり前。離さないから!」
不意に重なった唇に、胸が高鳴った。
「俺も、初めて見る先生ばっかり。これからも色んな先生見せてよ!」
琥珀色の瞳が僕を見つめる。
こんな近くで見ることが、漸く許された瞳。
ずっと欲しかった僕だけの視線。