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    nayutanl

    @nayutanl

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    nayutanl

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    『SEE THE WORLD』向け展示だったものです
    直してもらった後のホワイトと、仮眠明けのフィガロのお喋り
    フィガロが自分の科学者としてのルーツ(※捏造)を振り返りながら今やこれからのことを少し考えたり、ホワイトが甘やかしながらも言うことは言ったりしてる
    傷から始まった変化と、求めていたものの話。

    #まほやく
    mahayanaMahaparinirvanaSutra
    ##北師弟

    空想科学少年 なぜ科学者を志したのかと、以前はよく訊かれたものだった。インタビューにおける鉄板であるし、配信番組においては話のフックとして丁度いい。それゆえ尋ねられることは明らかだったので、フィガロはそう訊かれたときには決まって家で飼っていたペットロイドの話を出していた。
     しかしそれは大衆向けの答えである。嘘というわけではないが、決め手となった出来事は然るべき年頃に然るべき経験をして、学んでおくべき場面で失敗したことだろうか。そのときの傷がきっかけのひとつだった。もしかすると家庭環境も影響していたかもしれない。でもいまとなってはよく分からないし、そんな些末なことはもうどちらでもよかった。
     大事にしていたペットロイドはもうとっくに壊れてお別れしてしまったし、好きだったあの子に至っては名前も顔も思い出せない。
     人の気持ちはうつろうということを疎んでいながら、自ら体現してしまったのは皮肉なものだと思ったが、過ぎた時間は戻らない。たとえ、その先どうなるのだとしても、そのときに必要なものはそのときに得ないと意味がないのだ。
     だから、失くしたものや得られなかったものをしつこく欲しがったり、いまさら技術や頭脳を駆使して作ったりしたいとは思わなかった。
     
     ―どうせ作るなら、これまでの自分から縁遠かったものにしよう。
     そして、いまの自分が欲しいと思うものをテーマにしよう。
     
     そう決めたときの夢を見た。
     久しぶりにスノウとホワイトが自分の傍らに揃ったからだろうか。仮眠の最中に自分の原点をみたようだった。懐かしいが、スノウとホワイトを見れば嫌でも思い出す自分の心と記憶の傷口がうっかり開きそうになって、寝起きの気分は最悪とはいわないまでもなかなか具合が悪い。
     仮眠用のベッドの上で深く息を吐き出しながら、フィガロはゆっくりと瞬きを繰り返した。仮眠のつもりだったが寝過ぎたらしく、頭がぼんやりする。
    「どうして起こしてくれなかったんです……?」
    「起こすように頼まれた時刻、そなたの眠りが丁度深くなってきた頃合いでのう」
     ベッドの縁に腰かけて、自分の頭を撫でているのはホワイトだ。損傷箇所を直して各所点検、フルスキャンという大型メンテナンスを経て復帰した彼は、最初に自分が設定したときよりもずっと過保護になっている気がする。
     一時的なものかもしれないし、そもそもの設定がスノウ、ホワイト共に『無責任に甘やかす』という記述になっているので、半分はプログラムが正常に動いている証だ。もう半分は気のせいか、或いはカルディアシステムの学習によるものか、定かではないがどちらでもいい。
    「叩き起こしてくれていいのに」
    「どうせあまり寝ておらんのだろう。ちゃんと休まないとコスパ下がるよー」
    「それは困るかな……」
     最適な加減で頭を撫でてくれるホワイトに困り笑いを浮かべながらも、フィガロは制止することなく好きにさせていた。作業に戻るにしても、いまの頭の状態ではつまらないミスを誘発する。どうせ少し経てば覚醒してくるだろうから、それまでは徐々に遠ざかっていく自分の原点を見つめながらセラピーを受けることにしたのだった。
    「ホワイト様」
    「何じゃ」
     アシストロイドは安心と信頼の人類の友達 とは言うものの、実のところ人類がアシストロイドに求める関係性というものはひとつに留まらない。友達の他だと家族の代わりにというケースも多いし、とてもではないが口にはできないような目的をもって迎える人間もいないわけではない。
     自分はどうかというと、世界中を探せば同じような動機でよく似た設定をオーダーする人間もいそうなものだろうとフィガロは考えていた。それに自分が作ったシステムを搭載してプロトタイプ運用しようと考える人間がいるかというと少し怪しいけれども、所詮は人間の考えることだからどこか似通ったものにはなる。
     短い学校生活を過ごす間だけの友達や、自分の学力や才能や容姿ばかりを愛してトロフィーのように扱ってくる親ではない―たとえば同じくらいの年頃の幼馴染みとか、血縁者ではあるが自分に大した責任を持たない立場の祖父母とか、荒んだ心を束の間癒してくれたが壊れてしまったペットロイド。そういったものの都合のよい部分を組み合わせながら整えていったのが、スノウとホワイトである。
    「アカデミアに入学する前、俺は未来では科学が理想の世界を作って、もしかしたら将来的に世界から人間はいなくなってロボットだけが残るんじゃないかって思ってたんです」
     この分野に踏み出すルーツを振り返るのは、自分の弱さや傷を直視することだ。しかし、この半分寝ているような状態なら痛みも然程ではない気がしたし、ホワイトを復帰させたいま一度刻んでおきたかった。初心に還るとでもいったところかもしれない。
    「人間はそのうち生身の体を捨てるんだと思ってたんですよ。対人コミュニケーションや、それによって傷つくのが嫌になって、感情を捨てるんだって」
     でも、未来の蓋を開けてみるとそんなことはなくて、感情も体も自分以外の誰かへの期待も捨てることなく、それでいて信じることも失うことも傷つくことも怖いという思いを拗らせていた。それがいいことなのか悪いことなのか、科学の最先端に立ってしばらく経ってもまったく分からない。
    「それなのに、未だ人間は人間のままでいたいみたいなんですよね……。どうしてでしょう?」
    「うーん……。いまから心理学でもやる?」
    「やりません。人間にはそんなに興味ないし、心理学って生身のコミュ必須じゃないですか。ストレスで死にますよ」
    「それは困るのう」
     まったく困っていなさそうな顔をして、ホワイトは言う。しかし、これくらいの気軽さと無責任さがよかった。これが欲しくて何日も、何時間も費やして考えて設定を組んだことを思いながら、フィガロはホワイトの言葉に耳を傾ける。
     カルディアシステムによって設定当初の人格とは多少違ってきてはいるかもしれないが、いまのところホワイトもスノウも大筋からは逸れていなかった。
    「まあ、自分は変わりたくないのじゃろうな。自分を変えるつもりがあったら、アシストロイド文化なぞ花開いておらん」
    「自分が作り上げた理想に刺されて致命傷負うのも初めてじゃないですけど、そういう堪えるのはちょっと……」
    「これはすまんのう。刺したつもりはまったくないから、許してねっ」
    「でも本当、そんなものでしょうね」
     自分を変えるつもりもなければ、変わる余地ももうないと思っている。自分への信頼値が低いのだ。だから他人に期待する。すべて身に覚えがあった。
     対人関係において他人を変えるのは非合理的かつほぼ不可能である。ゆえに、円滑な人間関係へ至る近道は自分が変わることなのだが、みなそれは嫌なのだ。自分だけが強いられているとでも考えるのかもしれない。実際のところ人間関係とは相互関係が基本だが、相手によってはそれが保証されているとも限らないので、繊細な人々にとっては充分な脅威となりうる。
    「俺たちは傷つくことも失うことも、信じることさえ怖いから」
     だから人類は自分が変わることも他人を変えようとすることもなく、最初から自分に理想的な接し方をしてくれるアシストロイドを作ったのだ。
     もちろん、そういった人為的な関係を好まない人間もいるし思うことは特にないという人間もいる。しかし、いまはまだ道の途中、そして進化の途上だ。この先の未来、遠くないうちにできる分岐点のことをふと思うことがあった。
     
     このままの関係が少しずつ変化をしながら続いていくか、人間が『自分』を生きることさえ放棄して何もかもを手放すか。
     科学者を志すと決めたころのフィガロ少年が思い描いたような未来が来るのかどうかという答えの出るわけがないことを、疲労が極まってスノウとホワイトに『神経系の再起動』を食らうときなどは落ちかけの意識のなかで考えるのだ。
    「失うのが怖いから、作り生み出すのじゃな」
    「そうなのかも……そうだったらいいな。それなら、自分に価値があるって勘違いしていられるし」
    「……まさかそなたほどの者が分かっていないとは思っておらんが、カルディアシステムはあくまで心であって頭脳ではない。人間には人間のなせることがある。アシストロイドにしかなせないこともあるように」
     いまの一言が気に障ったのだろう。頭を撫でていたホワイトの小さな手がするっとフィガロの顔の輪郭を一撫でしたかと思うと、直後雑に頬をつねった。怒るだろうと思って口にした甘えだったが、こうも予想通りになると嬉しくなる。痛いと訴えるとすぐにやめてくれるところも、何とも言い難くいとおしい。
    「まったく、しょうがない子じゃの。疲れてるようだし今日のところは見逃してやろう」
    「よかった」
     次はきっとスノウと誘い合わせて説教でもするのだろうなと思いながら、フィガロはつねられた頬をわざとらしくさすって笑った。でも、人工知能の分野も大分発達してきているので―などとは言わずに。
     本当はこういった話も人間の同業者とすべきなのだろうが、そういったことは双方が相当に気乗りしているか三徹ほどした後で狂っているかしていないと難しい。この職の人間に対人交流好きな者などあまりいない。メールやチャットでさえ億劫がった極めた連中なのである。
     もちろん、自分自身もその中の一人なので偉そうにすることはできないけれども。
    「ただ、傷つくことも失うことも、信じることさえ怖くてもそれが悪いことだとは思わぬよ。よくある話じゃ」
     こういったものは巡りあわせなのだとホワイトは言う。スノウにしてもホワイトにしても、自分で作っておきながら時々想像もしていないようなことを口走ることがあり、その度大変なシステムを作ってしまったと思っているが、今回も例外ではなかった。ここまでくると、本格的に人間とアシストロイドの区別がつかない。何となく予想していたことだったが、想像と体感はまったく別の話である。
    「優秀だからとか、生み出すことができるからとか……そんなことでひとの価値は決まらぬ。何にもできなくたって、そなたはそなたじゃ」
    「本当に?」
    「ここで嘘や気休めを言う理由など、我にあると思うか?」
    「……いえ」
    「いい子じゃ」
     これだから心という不確定要素を諦めきれないのだ。フィガロは、微苦笑を浮かべた。もし、こんな言葉をもっとずっと前にかけてもらっていたなら、何か違ったのだろうか。いまとなっては分からない。
     しかし、自分を無責任に愛してくれる存在―スノウとホワイトに責任を持ちたい。そう思うことができる程度には自分は変われた。それだけは、少年時代の自分に対して確かに誇れる。
    「それなら、まだ人間でいてもいいかな」
    「人間じゃなくなっても大丈夫じゃよ? ちゃんと認知するし、責任もって最期まで一緒じゃ」
    「うわあ、重……」
    「オーナーに似たんですぅ」
     なぜ科学者を志したのか。それは、傷つきたくないからでも永遠が欲しいからでもない。ただ、自分自身を認めてもらいたかった。安寧が欲しかった。そして、自分自身を信じたかった。
     それだけで、それがすべてだった。
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    nayutanl

    DONE月花Webオンリー展示
    年長者と強絆のゆるめの話です。
    アーサーの疑問から始まる四人のあれやこれやです。アーサーが外見年齢12~13歳くらいのイメージ。自分が絵で見たい話を書いた形かも。
    公式にない設定が一部ありますが、雰囲気でふんわり読んでください。書いた本人も雰囲気で押し切りました。
    9/9追記:追録書きました(https://poipiku.com/3138344/7470500.html)
    和やかな城 ある日の桜雲街、竜の住まう城の一室で青い目をした天狗の子どもが尋ねた。
     
    「スノウ様、ホワイト様。おふたりは大人なのにどうしてこのようなお姿なのですか?」
     
     この城でそのようなことを尋ねるのはこの子―アーサーだけであろう。スノウとホワイトは一度顔を見合わせてからふたりしてにっこり笑った。
     もう随分長く生きている彼らはこの城の主である。今でこそオズに譲るが強い力をもち、気が遠くなるほど昔からずっと竜族の頂点に君臨している。ここ近年は「早く隠居したい」が口癖で、どうにかオズかフィガロを後継者にしようとしているものの、ふたりにその意志はなく聞き流されてばかりだった。そんなものだから、このところはオズが助けて以来この城にホームステイしているアーサーが後継者になってくれたら……とオズに牽制をかけているが、本気ではないと思われているようである。とはいえ、アーサーが後継者に向いているという直感と竜の住まう城の主が天狗でよいかどうか、そしてアーサーの実家である天狗の一族の事情はそれぞれ別の問題なので、スノウもホワイトも食い下がったり押し付けようとしたりといったことはしない。ただ、隙さえあれば隠居したいと思っているだけで。
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    nayutanl

    DONE紫陽花見ながら話してるホワイトとフィガロの話
    ホワイトから見たスノウとフィガロのこととか、フィガロから見たホワイトのこととか
    ほんの少し生きた心地がしないけど、気のせいかと思うくらいのあったかさはある つもり
    あと、文末に話に関するちょっとしたことが書いてあります。
    ハイドランジアの幽霊師匠と植物園を散策―などといえば聞こえはいいが、実のところは連れ回しの刑である。フィガロは曇り空のもと美しく物憂げな色彩の花を咲かせるハイドランジアに目をやりながらこっそりとため息をついた。
    ホワイトがやってきて「ハイドランジアの花が見頃だから出掛けよう」と誘われたのだが、あまり良い予感がしなかったので一度は断ったのだ。断ったのだが、今回の誘いはこちらに選択権がないものだったらしい。有無を言わさず連れてこられてこのとおりである。

    「そなたら、また喧嘩したじゃろう」
    「喧嘩とはいえませんよ、あんなの」

    少し先をいっていたホワイトが戻ってきて、ごく自然に手を繋いできた。こんなことをしなくても今さら逃走なんてしないのにと思ったが、これは心配性なのではなくて物理的な束縛だ。都合の悪い話をするつもりなのであろうことは断った後の出方で何となく察していたが、切り出されるとやはり身構えてしまう。いいことでも悪いことでも、心に叩き込むようなやり方はホワイトの得意とするところなので、分かっていてもわずかに寒気がした。
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