デイドリーム(白昼夢のその続き) 頭の中で俺とギノは抱き合ってキスをしている。白い教会で常守たちに花を散らされて、その中で俺たちは一生の愛を誓う。ギノは白いタキシードを着ている。俺も同じ格好をしていて、左手の薬指にはプラチナの指輪がある。彼は義手だが形式上左手の薬指に俺と同じようにつけて、生身の指にはぶかぶかだろうそれは後でネックレスに仕立て直してもらおうと二人で話し合った。
『おめでとうございます!』
『幸せになってくださいよね! ご祝儀包んだんですから!』
『慎也くん素敵よー』
『あら、宜野座もなかなかのものよ』
誰彼ともなく好き勝手言うのが聞こえる。幸せだなぁ、とぼんやりと思う。ギノが花束を投げる。それが花城の腕に落ちたところで目が覚めた。現実では花城が俺に意見を求めていた。
「どうしたの? この犯人の地理的プロファイリングについてあなたの意見を聞きたいんだけど、集中出来ない? ちゃんと寝てるの?」
俺はそれを誤魔化すように煙草に火をつけ、ブリーフィングルームの中で小さくふかした。
「分かってる。それじゃあこの犯人の生い立ちから言って……」
「さっきは散々だったじゃないか。どうしたんだ?」
朝の仕事が終わってテラスでランチ(というほど豪華なものでもない)を取っていると、ギノがやってきて俺の向かいに座った。手にはパスタのプレートがある。俺はカレーうどんだ。変わらないなと最初のうちはからかわれたものの、貫き通していたら何も言われなくなった。
「短い夢を見ててな。俺はそこでギノと結婚式をあげていて……」
「は? んっ、ゲホッ、嘘だろ、お前はどこまで幸せな頭をしてるんだ」
そう言われても夢なんて自分の自由にはならないんだから仕方がない。でもそれでも綺麗だったと言えば、彼は咳払いをして瞳を細めて馬鹿を言えと俺に毒づいた。
「みょうにリアリティがあって、しばらく本当のことかと思ったよ。そういえば監視官時代にはよく結婚式について話し合ったなと思ってさ」
「それは……。それは、今でも変わらないだろう。もう俺だって潜在犯なんだし」
ギノがパスタを口に運ぶ。俺は何が起こったのかとっさに分からなくて、カレーうどんの汁を跳ねさせた。
「こら、狡噛。スーツが汚れる」
「す、すまない……」
彼はどうしてあんなことを言ったんだろう。潜在犯同士の結婚は実は珍しくない。なんだか頭がぼうっとする。白昼夢は、どうやら真実になるかもしれないらしい。そんな世迷いごとを考えて、俺はカレーうどんの続きを、恋人の顔を眺めながら食べたのだった。