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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    なんとなく続くシリーズ(狡宜)。

    #PSYCHO-PASS

    いつからなんて覚えてやしない ギノを好きになった時のことは覚えてはいない。彼はずっと初めて出来た親しい友人で、俺を担当した気難しい哲学教師にも狡噛くんにもついに親友ができましたか、と言われたので、そうかようやく親友が出来たのか、と思っていた。あの哲学しかやって来なかった先生がどうして俺たちの関係を親友と表したのかは知らないが、あの先生は俺に親友が出来ないことを心配していたらしく、そこにギノが収まったことでホッとしたようだった。何でもできる狡噛慎也。友人は広く浅く。けれど自分が悩んだ時に頼れる誰かはいない。秘密を話せる誰かはいない。先生はそれを知っていて、ギノを親友と評したのかもしれない。それくらい俺は友人がいなかった。語り合うクラスメイトがいなかったわけではないが、気がつけば俺は人混みの中でいつも一人だった。
     
    「あなたたちっていつからなの? ちなみに私が最後の男と別れたのは三ヶ月前よ。雨の日でイヤリングを落としちゃったの。その男は新しいのを買ってあげるって言って泥水で汚れたのを拾わなかった。だから別れたの。で、あなたたちはどういう理由で何年も付き合ってるの?」
     花城はパスタを綺麗に口に運びながらそう言った。と言われても、いつからなんて覚えてやしない。最初は親友になって、そこから段々と深く愛し合うようになった気がするが、具体的な時期や理由は覚えていなかった。それよりこの複雑な状況を説明すると、休みを取った須郷の穴埋めで使いっ走りをした俺たちに花城がランチを奢ってくれているのだが、出島はいつも通りうるさく、彼女の声もなかなかに聞き取りにくかった。
    「いつからって、いつからだ?」
    「嘘嫌だ最低じゃない。二十年近く一緒にいてそれ? 宜野座、別れを考えた方がいいわよ」
    「いいんだ、俺も似たようなものだし。一緒にいるのは事故みたいなものだ」
     ギノがオニオングラタンスープを飲む。俺はコーヒーを一旦飲み干して、空いたグラスをウエイターに渡した。
     ギノが好きだと気づいたのは、やっぱりはっきり覚えていない。でも出会って数ヶ月するとキスをしていたし、手も繋いでいたし、寝てもいた。セックスをするために同意は取ったが、花城が求めるような、ロマンチックコメディのような恋愛の台詞は口にしたことがなかった。
     花城は顔を顰めて俺を見ている。俺は頭をぐるぐると脳みそ自体をひっかき回しながら、やっぱり思い出せないなぁとぼんやりと思った。ギノを好きだと思ったのはいつ? あの哲学教師はまだ在籍しているか? 彼にカウンセリングを頼みたい。雑賀先生は直接的すぎるから。
    「俺が好きになった時を覚えてたらそれでいいんだ、課長」
    「へぇ、あなたは覚えてるのね。それってどんなの? 聞いてもいいもの?」
    「初めてのセックスが終わって、シーツ越しに抱きしめられて、泣かれた時に愛してるって気づいた。昼からする話じゃないかな」
     俺はギノの言葉に驚いた。そういえばそんなことがあった気がする。狡噛大丈夫だ、痛くないから、お前と繋がれて嬉しかったから、そうギノは言って、でも俺はギノが辛くて仕方なかった。ギノの身体が痛いのより、心が痛いのが辛かった。父親のこととか、母親のこととかを、かさぶたが剥がれ落ちるように知って、俺はその新しくなった皮膚に触れて、あぁ、俺はこの男を愛していると思ったのだ。秘密を知って愛していたと気づくなんて馬鹿らしいだろうか? でも同じ時に、秘密を話したあの時にギノも俺を愛していたと気づいてくれたなんてとても嬉しかった。
    「別に。私たちは大人だもの。私も初めてを告白してあげる。それこそ昼間には相応しくないもの。それにはワインが必要ね。ごめんなさい、メニューを頂戴」
     花城が笑ってウエイターを呼ぶ。俺はコーヒーを受け取って、それにまた口をつけた。ギノは何もかもわかってるって顔で、とても落ち着いていた。ここから離れたら、話をつけないといけない。そして心から愛していると告げなければ。
     愛してる、愛してる、愛してる。秘密を聞かねば気づけなかった俺を笑ってくれ。けれどお前の献身が俺に愛を気づかせたのだ。それは分かってくれてもいいだろう?
     出島のカフェは今日も暑く汗が滴る。ワインが運ばれてくる。花城の話が始まる。そうね、何から話しましょうか? あなたたち、年齢が離れた男女の恋愛ってどう思う? 昔あったじゃない、そんな映画。
     花城は楽しそうにワインを啄む。啄木鳥がグラスを叩くように、ピンクの口紅がグラスを彩る。俺は例にあげる映画を探しながら、ギノと目くばせをして、足だけを絡めたのだった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    TRAINING怪我をした狡噛さんとそれ以来悪夢を見るようになった宜野座さんの話。
    一人で乗り越えられるけど一緒にいたいな〜という感じのお話です。
    800文字チャレンジ6日目。
    昨日見た夢(花の銃弾) 夢見が悪くなったのは、狡噛が俺を庇って怪我をした日からだった。怪我自体は大したものではなかった。ただの銃弾のかすり傷だ。だがその場所が問題だった。こめかみ、もう数ミリずれていたら、失明どころか命さえ危うかったところ。狡噛はこんなのは紛争地帯じゃ日常茶飯事だと笑っていた。しかしそんな場所を知らない俺にとっては、やはり恐怖でしかなかった。
     夢の内容は色々だ。狡噛が死んでしまうものが多いが、彼がそもそも俺の人生に存在しなかったものもあった。その世界では俺は無事に監視官を務め上げて厚生省の官僚となっていた。ただ父と和解することは最後までなく、彼は現場で死んでいたが。夢の話は狡噛には話さなかった。ただでさえ縁起が悪いし、それほどまでに弱っていると見られたくなかった。もちろん花城にも話していなかったのだが、彼女はどうしてか目の下にクマを作った俺を呼び出すと、よく眠れるサプリメントよと、私も使っているのと錠剤を渡してくれた。俺は眠るのが怖いんだ、と言った。花城はそれを聞いてこれは重症だといった顔をしたが、それ以上追及しなかった。狡噛と話し合え、ということなのだろう。
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