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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

    狡噛さんの隠していたおはじきやビー玉を見つけてしまった宜野座さんのお話。

    #PSYCHO-PASS

    希望に似たものを集めて愛でる 狡噛の部屋に清掃ドローンを入れて、そのごみを念のため確認していると、小さなガラスで出来たおはじきと、ビー玉が出て来た。いったいどこに隠していたのだろうそれは、俺がつまむときらきらと輝いて、窓ガラスから差し込む光にもその小さな身体を光らせた。水色、オレンジ色、緑色、白い筋が入ったものや、丸い点が入ったもの。それらはこの何もない部屋には不釣り合いだったが、不思議と懐かしくなった。狡噛が幼い頃遊んでいたものなのだろうか? それをここまで持って来たのだろうか? 俺はそんなことを考えて楽しくなり、それらをポケットに入れるともう出勤していった狡噛の帰りを待った。彼が帰ってきたらこのおもちゃの出どころを尋ねよう。そんなことを考えながら。

     狡噛が帰ってきたのは時計の針が翌日に変わる、夜も遅い頃合いだった。それについては別に怒っちゃいないが、彼のために用意した、天然食材を使った料理は冷めていた。狡噛は悪いと言ってそれを温め、食べていたが、味は不味かったのかそれとも仕事で疲れていたのか言葉は少なかった。俺はパジャマを着てダイニングテーブルに座って酒を飲み、そんな狡噛を見つめた。ポケットには今日見つけたばかりのおはじきやビー玉があった。それはずっしりと重く、秘密の匂いをさせていた。今訪ねようか? これはどこから持ってきたものなんだって。でも俺はそれが出来ずに、彼と一言二言交わして、寝室にへと行った。そしてそこでセックスをしようとする段になって、狡噛が俺のポケットの中身に気づいた。ひんやりとした夏の匂いがするおはじきとビー玉。狡噛はそれを丁寧に取り出すと、どこにいったかと思ってた、と言った。どうやら探していたらしい。酔っ払っていじってでもいたのだろうか? それでなくした? 狡噛は上半身裸になったままおはじきとビー玉を見つめている。手のひらの上で転がしながら。
    「清掃ドローンを入れたら見つかったんだ。きれいなものだから、お前が小さい頃遊んでたものじゃないかと思って」
     そう言うと、狡噛は笑って俺の言葉を否定した。そんなことあるわけがないって、どこか自嘲的に。
    「違う、違うんだ。これは俺が子供の頃に使ってたものじゃなくて、放浪中に子どもたちからもらったものなんだ。村を助けた時に女たちは宝石を捧げようとして、いくら何でも対価には重すぎると断ったら、子どもたちがこれを俺にくれたんだ。大切なものですからあなたのためにって。女たちは止めなかった。俺もそれを受け取った。翡翠のネックレスより価値があるように思えたから」
     狡噛はそう言って、手の上でおはじきとビー玉を転がした。セックスを始めようとしていたのにそれをさえぎられて俺は不思議な気分だったが、彼の秘密を知った気がして、それはそれでいいと思えた。狡噛が助けた多くの人々。救いのかわりに宝石を差し出す人々。でも狡噛が選んだのはそれだった。何の価値もないガラス玉だった。
    「見てもいいか?」
     俺は狡噛の手のひらを撫でて、ビー玉を一つ取り出した。幼い頃、祖母は俺にこんなビー玉をくれた。ほら、逆さまに映るでしょう、不思議ね。本当だ、不思議だね。俺はビー玉を目元にやる。そうして景色が逆さまになったのを見て、狡噛に返した。
    「もういいのか?」
    「いいんだ。これはお前のものだし。誰かを助けてやってもらったんなら、俺が持つものじゃない。きっと子どもたちも他のビー玉で遊ぶ時、お前のことを思い出すよ。俺だってこんなものを持ってたんだぜ? 懐かしいな、昔のおもちゃだって祖母に聞いてさ」
     すると、狡噛はうつむいてから俺を見つめた。一体何があったのだろうと思うと、彼は何かを語り出そうとしているのだった。でも何を話そうとしているのだろう。俺には分からなかった。彼がこんな風に身の上話をするような瞳をするのは、本当に少ないことだったから。
    「こうやってビー玉やおはじきが増えていくたび、お前に会えるような気がしていた。天国への捧げ物みたいなさ。このきれいなガラス玉が手のひらでいっぱいになったら、お前が夢に出てきやしないかと思ったりもした。まぁ、そんなことはなかったんだが。セクシーな夢は見られなかったよ」
     狡噛が笑う。俺はそれに笑って、そして狡噛に寄りかかってビー玉をなぞった。そうやって俺を愛してくれたのが俺は嬉しかった。こんな小さなものに気持ちをかけて、そして生きて帰ってきてくれたことが俺にはとても嬉しかった。
    「お前が日本に帰ってきたのも、案外このビー玉のおかげかもしれないし、これから俺がしてやることもビー玉のおかげかもしれないぜ?」
     俺はそう言って狡噛に口付ける。そして彼のデニムをくつろがせて、下半身をそっと撫でた。狡噛は少し困惑する。けれど野生的な匂いがして、目も青色が深くなる。
    「降参だよ、ギノ」
     狡噛が言う。俺は彼が今度こそおはじきとビー玉を無くさないように祈った。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    TRAINING雨が降った日の狡宜。宜野座さんが傘を壊してしまって……?
    800文字チャレンジ24日目。
    雨のち晴れ(相合い傘) 出島は雨が多い。朝晴れていても、昼過ぎにはもう雨が降っていることも多い。そんなだったから、俺は仕事用の鞄に折り畳み傘を入れる癖がついた。元々何かに備えるのが好きだったからか、それとも同僚が、いや恋人がそう言う備えをしないタイプだったからか、俺は雨傘を余分に仕事場に用意していた。あいつに言わせれば、少しくらいの雨なら走ったら終わりなのだという。でも、それでもスーツが雨でよれてしまったら修復させるのが大変だし、かつてとは違ってスーツに金をかけなくなった今でも、別の意味で(主に鍛えた体型のせいで)オーダーメイドに頼らずにいられない俺からすると、やはり雨傘は必要なのだった。
     けれど突然の雨はあるし、雨傘が悪くなっていることもある。今回はその両方が重なって、昼から突然雨が降り出し、手持ちの折り畳み傘はいつの間にかボロボロになってしまっていて、職場の雨傘も穴が空いてしまっていた。花城はピンクに薔薇模様の派手な傘を提案してくれたが、流石にそれをさすのは恥ずかしくて、俺はかつて友人が言った通りに官舎まで走ることにした。こういう日に限ってあの男がいないのがムカつくのだが、あれはもう帰ってしまったのだろうか? だとしたら要領がいい。俺は少しあの男にムカつきながら、雨の中走ることにした。
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