Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    時緒🍴自家通販実施中

    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
    無断転載禁止。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😻
    POIPOI 192

    結婚式にボディガードで参加する行動課のお話。

    #PSYCHO-PASS

    大切にします、だから全部ください 海外調整局の職員の結婚式があった。特別捜査官という肩書きがあるとはいえ、潜在犯の俺には関係のない話だが、結婚した職員は花城の古くからの知り合いで、なおかつボディガードが必要なレベルの男だった。だから花城は俺たちをその結婚式に出席させ、身辺警護をさせたのだった。
     結婚式は退屈なものだった。花嫁は美しく眼福で、振る舞われる食事も美味かったが、ブライズメイドたちの陰口には辟易したし、俺を潜在犯と知らずに声をかけてくる無知な女たちは気の毒だった。でもまぁ、式というものはそういうものだ。天井から下げられたシャンデリアに絡みつく白い花々はひらひらと花びらを落とし、それを拾った子供たちはきゃあきゃあと駆け回って遊んでいる。ウエディングプランナーだけは警備にあたる俺たちのことを知っていて、恐ろしそうにこちらを見ていた。きっと潜在犯が怖いんだろう。ここ出島じゃあ、珍しくもないはずだが。
    「狡噛、酒の飲み過ぎだぞ」
     何も起こらない結婚式でシャンパンを飲み続けていると、同じく夫婦の警護にあたることになっていたギノがそんなふうに声をかけてきた。グレーのスーツは花城の見立てらしくいささか華美で、俺はそれが結構好きだった。ギノはあまり派手な格好を好まないが、美しい顔立ちとすらりとしたスタイルからして、そういった彼の嫌うものが似合うのだ。ちなみに俺も花城に見立てられた服を着ている。鍛えすぎた身体がテーラーを悩ませて、結局カジュアルなワイシャツだけになったが。
    「こうでもしてないと誰かにプロポーズしちまいそうでな」
    「は?! 何を言って……」
    「あっちを見ろよ、結婚式で再会した男女がいちゃいちゃしまくってる。結婚式でこれじゃあ二次会はもっと酷いぜ」
     笑って冗談を言うと、ギノは唇を噛んで悔しそうに俺を見た。でも怒りはしない。このままプロポーズをしても受けてくれそうな態度だ。
    「だからってプロポーズだなんて、俺の仕事を増やすなよ。お前に秋波を送る女なんて絶対トラブルメーカーに決まってる。公安局の時みたいな目にはあいたくないんだ」
     ギノはそう言って、俺からシャンパンのグラスを奪い取り、それを口に含んだ。それはメディカルトリップでもない本物の酒だった。出島では珍しくない。
    「別に全部断ってる。もうパートナーはいるってな。なんなら紹介してもいいんだぜ? この日のために指輪を作ってもよかった」
     ギノの腰に手をやり、ぐっと引っ張って耳元に囁く。すると彼は俺の足を笑ってしまうくらい強い勢いで、女が気のない男にするように踏みつけた。流石に結構痛い。
    「俺は仕事とプライベートは分ける主義なんだ。そんなことを勝手にしたら部屋にはもう二度と入れないからな」
     ギノはそう言って去ってゆく。彼はああ言っていたが、警護中に声をかけられるのはギノの方が多かった。でも彼は頑なにパートナーがいるとは言わない。理由は分からない。まだ俺たちの関係を迷っているのか、それとも俺では不十分なのだろうか。
     
     ブーケトスが終わって二次会に移る時も、俺たちはボディガードとしてついて行く羽目になった。その頃には酔っ払った女たちのひそひそ話が大声で聞こえて、俺たちは誰が誰と付き合っていたか、花城の知り合いの職員のこれまでの恋愛関係を知るところになった。どうやら派手な男だったらしい。これは彼女も誘われているな、そうは思ったが真実は分からない。
     花嫁が花婿とともにリムジンに乗り込む。客人たちはタクシーに乗り込み、俺もそれに続く。すると、花城がやって来た。俺の働きが不満なのだろうか? 笑ってはいるが、何か含むようなものがある気がする。
    「お疲れ様。ずいぶん女の子たちから迫られてたじゃない。こんな日くらいパートナーがいるってバラしてもいいのに。宜野座と何か取り決めでもしてるの?」
    「仕事にプライベートを持ち込むのを嫌がるんだよ。煙草を吸っても?」
     花城はうなずく。俺は煙草に火をつけて、甘い香水を漂わせる彼女の側でそれを吸った。ギノが俺をパートナーと紹介するのを嫌がるのは、一体なぜなのかは分からない。何度もプロポーズらしきことをしたし、それには応えてもらえた。でも、ただそれだけだった。なのに指輪みたいなものの形はない。それが義手を理由にしたものなのか、形にするのが嫌なのかは分からない。
    「そうだな、二次会のスピーチで愛してるって告白するよ。指輪があればよかったんだけどな」
     そう言うと、花城は子供たちから貰ったらしい、花でできたブレスレットのようなものを俺に渡した。「今日はこれが仮ってことでどう?」そんなふうに言って。俺は想像する。ギノが顔を真っ赤にして場を取りなすためにそれを受け取るさまを。そしてさらに迫る俺の頬を、初めての結婚相手との喧嘩として左腕で殴るのを。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖😍❤🙏🙏🙏🙏🙏🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
    1852

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
    3531

    related works

    recommended works

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAINING児童養護施設で子どもたちに本を読んであげる宜野座さんのお話。
    800文字チャレンジ39日目。
    童話の王子様とお姫様(スノーホワイト) 仕事で児童養護施設を訪れた時、ギノがスーツの裾を引っ張る子どもたちに、童話を読んでやっているのを見たことがある。彼は長い髪を少し垂らして、ぼろぼろになった、今では珍しい紙の絵本を読んでやっていた。絵柄はディズニーの白雪姫。美しい白雪姫と、幼い頃に彼女と出会い、王妃に捨てられてしまった思い人をずっと探し求めていた王子様のストーリー。毒林檎を食べて仮死状態になってしまった白雪姫が、王子様のキスで目覚めるストーリー。いつの日にか王子様が来てくれるその日を私は夢に見る。
     ギノの落ち着いた語り口に、子どもたちはもっと、もっとと絵本を持ち込んで、その様は花城が呆れるくらいだった。私はあなたを子守役として雇ったんじゃないんだけど? とは彼女の弁だ。俺もそう思ったが、普段ドローン任せにされている子どもたちは、人間の大人に興味津々だった。結局この日は残りの俺たちが職員に聞き込みをして、ギノは子どもたちにかかりきりだった気がする。それでも優しい、慈しむような彼の表情は、俺にとって素晴らしいものだった。もしこんな仕事をしていなかったのなら、彼はあんな表情を多くの人々に向けただろう。そう思うと、胸が少し痛んだけれど。
    1024