おかいもの ポップな音楽が流れている店内。
ジャガイモの山に「本日の店長のおすすめ!」と赤い字で書かれた札が突き刺さっている。どうしても札の前で一度立ち止まらざるを得ない。なんて力だ、店長。
日曜日の午前だから客入りも多く、肩を寄せ合って二人は陳列棚を物色していく。
「ニンジン、ネギ、シイタケ、あ、キャベツが安い」
「キャベツは鍋に入れないだろ」
「鍋には入れないけどサラダにでもなんでも使えるよ」
シンが真剣に野菜の山を睨んでいる横で、カートを押しながらアブトがあれこれ意見を出す。
「肉は大目に買っていいよな」
「あの二人は遠慮なんてしないだろうからな。奮発してやろう」
「…魚、高いなぁ」
「あっちのスーパーの方が良かったか…」
車回すかどうか考えているアブトの横顔を見てシンは笑う。
「…なんだよ」
「別に?」
不自然ににやけそうになるのを誤魔化すために、シンは他の棚に目を走らせる。
こうして食材の買い出しをしているだけで、どうしてこんなにふわふわした気分になるのだろう。
これまで一緒に出掛けて買い物をすることはあったが、そうしたショッピングとは全く違う。
二人の毎日の食卓ために、一緒に選んで買うことが夫婦っぽくて。当たり前の、世界中で行われている何でもない日常の一幕のはずなのに。
ジャガイモを片手に持ちながら、変な笑みが浮かびそうになる。
これは朝食に使える、これは晩酌に出したら喜ぶかな。
食卓に並べた時の雰囲気まで想像しながら見て回るから、カートの中のカゴがあっという間に一杯になる。
「この辺でいいだろ。早く準備しないとあいつらが来るのに間に合わない」
「え~。足りるかな」
「また買いにくればいいだろ」
何でもないように言われる「また」に胸のカゴがいっぱいになりそうだ。
ふと、店内にいるすべての客に注意が向いた。当たり前に、誰もがカゴをいっぱいにしていく。その当たり前の光景が、とても尊く目に映った。
シンは笑顔で隣のアブトを見る。
「分かった。早く帰ろう」
「あの二人に会うのも久しぶりだな」
何でもない会話をしながら、肩を並べて会計のレジに並ぶ。
順番待ちをしながら、このふわふわした気持ちを何と現すのが最適か考え、すぐに答えを思いつく。
「ああ、そっか。そうだよな」
突然の独り言に、不思議そうな顔をしたアブトを見て微笑んでやった。
これが幸せだ