Wisteria(7)「Wisteria」について異種姦を含む人外×人のBL作品。
世界観は現実世界・現代日本ではなく、とある世界で起きたお話。
R-18、異種恋愛、異種姦等々人によっては「閲覧注意」がつきそうな表現が多々ある作品なので、基本的にはいちゃいちゃしてるだけですが……何でも許せる方のみお進み下さい。
又、一部別の創作作品とのリンクもあります。なるべくこの作品単体で読めるようにはしていますがご了承を。
※ポイピクの仕様上、「濁点表現」が読みづらいですが脳内で保管して頂けると助かります。もし今後、ポイピクの方で綺麗に表示される様に成りましたら修正していこうと思います。
【項目 WisteriaⅡ】
「外へ出るのが…?」
閑話1 「神社」
閑話2 「横取り」
「外へ出るのが…?」
外は良く晴れ、降り継ぐ光は二人を照らす。
此方へと移り棲み、ようやくあの荷物の山を崩し終え、必要な物を買い足す為に散策も兼ねて街へと足を運ぶ。
(来たのは良かったのだけど……)
歩き慣れておらず、今まで遠くへ出る事が出来なかった藤は目的の店に着く前に既に息が上がっていた。流れる風景も、店先に並ぶ商品も、過ぎ去って行く多くの者達も。見た事がないものも多く、好奇心で彼方此方と見て回ったのもあるかもしれない。
藤が膝に手をつき、胸を押さえてふっと息を吐いた。
「疲れたか? 藤」
「ん、……大丈夫」
「息が上がっているぞ」
「でも……もう少しで着くみたいだし、大丈夫だよ」
そう言って笑う顔が少し辛そう見える。
人の姿で共について来ていた朽名が見かねて当たりを見回す。二人から少し離れた場所には休憩が出来そうなベンチが佇んでいた。
「移って来てすぐだしな。気疲れもしているんだろう。彼処に座れそうな場所があるぞ。其処で待っていろ」
「え? 待ってろって」
「私が行ってこよう」
「大丈夫だよ。まだ歩けるから……」
「まぁ休んでいろ。何かあれば鈴を鳴らせ」
「あ……」
言うや否や、止める間もなく目的地に向かって行ってしまう。仕方なくすぐ傍にあったベンチへと腰を掛けた。
別れてからそんなに時間は経っていない筈なのに、何だか落ち着かない。
「まだ…そんなに経ってないよね……?」
自分を落ち着かせたい心情とは裏腹に、どんどん不安感に浸食されていく。
(もし……もし、このまま戻らなかったら……?)
サッと顔が青くなり、そんな事は無いのだと言い聞かしてぎゅっと手を握る。
何時だって一人の時に恐怖は襲ってきた。暗い場所で耐える藤の元へ、怖いものは何時も外からやって来た。贄として来る前は屋敷からは出して貰えず、その後は村里の人に見つかるのを避けて神社からは出てもいなかった。殆ど遠くへと出た事が無い藤は、こうやって街を歩くのは初めてにも等しい。
(早く戻ってこないかな……)
落ち着かなくて当たりを見渡すと、街には幽霊達や其処に棲む者達が往来している。当たり前だが見知った顔なんて一人も居ない。
(本当に色んな人達が居るんだ……此処には)
人の姿を持つ者、人とは違った姿を持つ者、……そして幽霊達。この街では様々な者達が楽しそうに会話したり、いそいそと歩いていたり。
(前に居た所も、色んな人達が居たんだろうな……)
自分が暮らしていた〝人とは違った者達が生まれ始めていた世界〟を想う。
塞がった筈なのに、あの時の恐怖を思い出しそうになる。朽名と共に居る時はそんな事を感じなかったのに、今は怖いと感じてしまう。
良い人間達に出会った経験が乏しい為に、無意識に外は怖いものだと藤の中で刷り込まれてしまっている。だが、その不安の理由さえ気づかず、もやもやと藤の中に影を落とす。
(早く戻って来てよ……)
不安に押し潰されそうで、藤が俯く。
すると、
「どうしたの? 大丈夫?」
そんな声が聞こえた。
顔を上げ、視界を前に向けると其処には白と黒のハーフ髪で、見た目は少年位の子が居た。手には荷物を抱えている。
「顔色悪いけど、……具合でも悪いの?」
そう言い、覗き込む様に頭を傾ける。
「あ、えっと、大丈夫。一緒に来た人も居るから」
「あれ? その人はどこに居るの?」
「すぐ近くのお店に行ってて。……二人で買い物に来たんだけどこっちに来たばかりで……今日この街に来たのも初めてなんだ。色々なものを見て回ってたら疲れちゃって」
「あっ、だから休んでたんだね!」
「うん」
藤がこくんと頷く。
「ボクも買い物に来たんだ。家族と来てたんだけど買う物が多かったから手分けすることにして。そしたら君が俯いてここに居たから……」
目の前の人物がよいしょと荷物を抱え直す。
「つい声かけちゃった」
あははと軽快にその人物は笑う。
(あ、心配かけちゃったんだ……)
「ごめん、俺は大丈夫だから。声かけてくれてありがとう」
相手を安心させる為、笑みを浮かべ伝える。だが、声をかけてくれたその人物の心配は払拭出来なかったらしい。
「でも、まだ顔色悪いよ? ……何だか不安そう?」
「うん……」
(そっか……俺、不安を感じてたのか……)
自分の中に疼く不安感に気づき、また一つ表情が暗くなる。そんな藤を見かねて目の前の人物は一つ提案をした。
「……その人が戻ってくるまでボク一緒にいようか?」
「え?」
「近くのお店ならすぐに戻って来るでしょ? お話でもしてたらすぐだよ」
見ず知らずの人物に声をかけたのに、なんて事は無いと言う様に笑顔で答える。
「でも、君も待ってる人居るんでしょ?」
「むつは大丈夫! というかたぶん、今戻ってもボクの方が待つことになると思うし。その間のお話相手になってくれると嬉しいな」
「いいの?」
「うん」
藤が遠慮がちに尋ねると、少年はまた笑顔を浮かべ了承する。それを見てると胸にあった不安感が少し薄れた様な気がした。
「じゃあ、お願いしても良いかな? えっと……」
「あ、ボクは101。周りからはトウアとかトーアって呼ばれたり、トアって呼ばれたりもしてる。君は?」
「俺は」
自分の名を伝えると、トウアがそっとベンチへと腰を下ろす。それによって、休む為の止まり木は満席になった。
❖ ❖ ❖
「そうなんだ! 神社っていうのがあるんだね!」
「うん。元居た所では〝誰かの為にあった場所〟なんだけど……まだ来たばかりでどうしていくか決めてなくて。でも、前の様な場所でいるのは……」
もう朽名は誰の神様でもない。ただ一人だけの神様だ。
気の乗らない神様に、前の様に多数の誰かの願いを叶えてと願うのも嫌だし、言いたくない。神様の為に在る場所だったのに、もう誰かか朽名に願う場所にしたくない。
うーんと藤が悩む。頭を抱える様子に、見かねたトウアが口を開いた。
「ゆっくりと考えていってもいいんじゃないかな。ここは時間が曖昧だし。自分のペースで過ごせる場所。だから藤も居たいように居ればいいんだよ」
「居たいように……」
そっと藤が呟く。
自分はどうしていたいんだろうか。初めて街まで来た時も朽名と共に居た。その時までは楽しく見て周っていたのだ。でも、今は傍にはいない。一人で居るのが怖く感じてしまう。
「俺……外が怖いのかも。来たばかりの時でも、朽名と居たらこんなに不安じゃなかった。一人で外に居るのが……怖い。朽名と離れるのが怖い」
「だからさっきも顔色が悪かったの?」
「……多分」
藤の様子を見て、元気よく「じゃあ!」と口を開く。
「〝離れたくないから一緒に居て〟とか〝一緒に行きたい〟ってお願いしちゃうとか」
その提案に、「あっ」と驚いた眼で自分よりも小さな相手を見据える。ハッキリと言ってしまえば良かったのだ。「行かないで」と。
我儘を言う事に慣れていない自分はそれを言うのも躊躇ってしまった。
「お願い……してもいいのかな……?」
「うん。だって、聞いてみないと分からないよ。もしかしたら〝いいよ〟って言ってくれるかもよ?」
にっと曇りのない笑みで「駄目だったらまた考えよう」と、真っすぐに此方を見返してくる。その笑顔が元気を分けてくれたのか、そっと藤の顔が緩んだ。
「顔色、だいぶ良くなったね」
藤の顔色を確認して、安心した様にうんうんと頷く。
「ありがとう、トウア。きっと声を掛けてくれなかったら今も不安なままだったかも」
お礼を言われて、「どういたしまして」と少し照れた顔で言葉が返ってきた。
「藤と一緒にここへ来た人はどんな人?」
「人……というより蛇なんだけど」
「蛇?」
不思議そうに首を傾げると二色の髪が揺れ、楽しそうに足をゆらゆらと揺らす。
「そう。人の姿にも成れるけど本来は蛇なんだ。俺に……居場所をくれた人」
藤の頬がほんのり赤く染まる。
「大切な人?」
「うん」
「ボクもね、むつと……大切な家族とこっちに来たんだ。今は一緒に植物園で花屋をしてるの」
「お花屋さん? どんな花を売ってるの?」
「いろんな種類があるよ。色鮮やかだったり可愛らしかったり、よく見かけるのとか珍しいのとか。植物園でも育ててるの。いろんな世界も廻って旅とかもして、きっと藤が知っている花もあるよ」
楽しそうに話すトウアにつられて、藤の瞳が好奇心で輝いていく。
「この前はね、鍵屋に頼まれてウィスティリアを運んだよ。青紫色でとてもきれいな花。人に贈るって言ってたかな」
「そうなんだ。どんな花なんだろう」
「風が吹くとゆらゆら揺れてね。植物園にも植えてあるんだ……そうだ! 今度見に来る?」
「いいの?」
「もちろん! いつでも遊びに来て。……藤はもうボクの友達だね!」
「えっ」
その言葉に驚き、目を見開く。友達なんて言われたのは初めてだった。思わず戸惑ってしまう。
「嫌だ?」
藤の様子を見るよう首を小さく傾げる。だが、その言葉に藤は首を横に振った。
「ううん、嫌じゃない。俺も友達だって言っていい?」
「楽しいを共有出来たらもう友達だよ」
あははと嬉しそうにトウアが笑う。釣られて藤が嬉しそうに、けれど照れた様に言った。
「そっか……こっちに来て、初めてできたから嬉しい」
「それは良かった!」
そうして此方に来てから初めて出来た友達との会話に花を咲かせていると、遠目に此方へと足を運ぶ人物の姿が見えてきた。
❖ ❖ ❖
「またお話しようね! 今度二人で遊びに来て!」
「うん」
そうしてトウアは立ち上がると鍵を取り出し、空で捻って目の前に扉を作る。取っ手に手を掛け、バイバイと手を振り扉の中へと消えていった。そして、
「朽名! 朽名! 友達出来た」
とても嬉しそうに藤が声をかける。目を輝かせ、今にも歓喜で飛び跳ねだしそうだ。
「良かったな」
楽しそうに話す藤を見て、微笑ましくなりつい頭を撫でる。朽名の動作で、自分が勢いよく声を上げたのに気づいて恥ずかしさを覚えると、かぁっと顔が赤くなった。
(……居たいように……居ても良いのかな?)
少し躊躇ったがやがて藤が口を開く。
「俺、朽名を待ってる間不安になっちゃって……それで心配になったトウアが声を掛けてくれたんだ」
「……そうか」
此処は隠世とはいえ、確かに見知らぬ土地に一人で置いていったのは良くなかったかもしれない。此処は時間が曖昧だ。だから共に立ち止まり、また一緒に歩き出せば良かったのだろう。
蛇は思いながら藤の言葉の続きを見守る。
「我儘かもしれないけど……俺、朽名が側に居ないと嫌だ。外で……何処だったとしても、遠く離れるのは嫌だ……」
友達がくれた明るい笑みに助けられてお願いを口にする。言い慣れていない〝我儘〟で、目を合わせて言葉を紡ぐのに精一杯だった。
「俺も一緒に行く。側に居るから……置いていかないで」
上目で、頬を赤くしたままの泣きそうな藤が、ぎゅっと朽名の袖を掴む。
(っ…!)
言葉を詰まらせ、袖の端を掴まれたその相手は片手で顔を覆い、そのまま暫く静止してしまう。そのまま微動だにしない朽名に藤がそわそわしだした。
数舜、ゆっくりと顔から手を外していくと一つ息を吐く。そうして動かなかった人物は蛇の姿に身を変えると、するすると藤へと登り始めた。
「これなら離れないだろ。外に居る時はこれで居よう」
「良いの?」
「私もこの姿の方が落ち着くしな。必要なら変われば好い」
嬉しくて、更に赤くなった顔と潤んでいた瞳を消す為に、藤は新しく出来た友人の話をしようと言葉を紡ぐ。
そうして帰路を辿る為に、藤は歩き出した。
閑話1 「神社」
自分達と共に来たこの神社は、誰かの願いを聞き、叶える場所だった。だが、此処に居る神様はもう誰の神様でもない。ただ一人だけの神様だ。
神様としての姿を押し付けられて、居たい自身を抑えてまで多数の誰かの願いを叶え、それを続けていくのも見るのも、そしてそれを自分が願うのも嫌だった。そのままの神様で居てほしい。
(だけどこの場所が……信仰が、俺に居場所をくれるきっかけにもなったから。だから……亡くしたくない)
「だから俺がこの場所で、壊れたものを直していく依頼を受けようかなって……思ったんだけど」
「ふっ……ははっ、律儀だなお前は。此処はあの場所とは違うのだから、好きに暮らせば好いものを」
自分なりに考えてみた事と、折角神社として持って来たのだから自分が此処の仕事をすると告げると、満面の笑みでそう言い、その後もくっくと笑い続けている。……おまけによしよしと頭を撫でられてしまった。
笑いながら頭を撫でられて、何だか子供扱いされている様な気がしてくる。
「出来る範囲でやるよ。朽名みたいに怪我や病を治す事は出来ないから。……それに、もう朽名は俺の神様なんだし」
にっと反撃する様に笑みと言葉で返すと、目の前の神様が僅かに目を見開き驚く。だが、すぐさまふっと笑みを浮かべると藤の腰を引き寄せ、いきなり口を捕られ吸われてしまった。
「っ…! んっ」
突然の事に驚き、ポンポンと胸元で抗議する。
叩かれた相手はその抗議に口の端を上げると、艶の増した口唇を開放する。解放された藤の口からは大きく息が吐き出された。
「では私は神として。お前を見守らなければな」
神様の顔がまた近づいてくる。目をぎゅっと瞑り構えると、今度は首にその口を落とされた。
「ちょ、ちょっと!」
「だがお前の番でもあるだぞ、藤。私の相手をするのも忘れるなよ」
赤い顔で固まったまま動かない藤に、にやっとした笑みで言葉を差し向けた。
閑話2 「横取り」
自分が依頼を受けると決めてから幾日かが過ぎていた。
空き室を依頼品の管理をする為の保管庫に変え、藤が隅に置かれた座卓に向かって依頼品と睨めっこする。
(出来た……!)
合わせた手の中には和櫛が納められている。大切な櫛の歯が欠けてしまい、欠けた歯と共に直してほしいと依頼されたものだ。その櫛も、今は藤の掌中で元の姿を取り戻している。
和櫛を保管箱に入れ、自分の横へとそれを静かに置いて息を吐く。
(次は)
疲れを息と共に吐き出し、別の依頼品を手に取ろうと未修復品を置いてる場所へ目を向けると――
「?」
其処には何もなかった。「あれ?」と思い、きょろきょろと辺りを見回す。
「ああ、終わったぞ」
窓際で寛いでいた朽名が、ひょいと煙管で向こうを差す。
「え?」
示された其処へ目を向けると、品々が並ぶ背後の棚には修復された依頼品達が〝済み〟と札を携えて綺麗に並んでいた。
(うっ…さすが……)
「これで私に構えるな」
「俺の仕事なのに……」
にっと笑みを向けてきたその人物は、この神社の主だけあって仕事が早かった。藤が懸命に一つ二つと修復している間に残りを片付けてしまったらしい。そして数個修復しただけで消耗する自分の未熟さに溜息が出た。
「他で力を使い果たし、疲れ切ってしまったら私に構えないだろう。お前はもっと私に甘えるべきだな」
「そう言われても……甘えてばかりは嫌だよ」
「かまわん、甘やかした分だけ私に構ってもらうからな」
言うや否や煙管をしまい、ぽんぽんと膝を打つ。
「取り敢えず、今の分は相手してもらおうか」
「うっ……」
「まぁ、甘えるのが嫌ならば私より早く出来る様になるしかないな」
言われた藤は「うぅ」と呟き、その膝に座る事にたじろいでいると、目の前の神様は「ほら」と促しまた膝を打つ。そうして話し相手へ視線をじっと向けていると、やがて観念したのか静かに歩み寄り、その場所へちょこんと座る。
窓から入り込む春に似た陽の光を浴びながら、待ち時間分の暇を消していく様に二人の会話に花を咲かせていった。
- 了 -