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    キツキトウ

    描いたり、書いたりしてる人。
    「人外・異種恋愛・一般向け・アンリアル&ファンタジー・NL/BL/GL・R-18&G」等々。創作中心で活動し、「×」の関係も「+」の関係もかく。ジャンルもごちゃ。「描きたい欲・書きたい欲・作りたい欲」を消化しているだけ。

    パスかけは基本的に閲覧注意なのでお気を付けを。サイト内・リンク先含め、転載・使用等禁止。その他創作に関する注意文は「作品について」をご覧ください。
    創作の詳細や世界観などの設定まとめは「棲んでいる家」内の「うちの子メモ箱」にまとめています。

    寄り道感覚でお楽しみください。

    ● ● ●

    棲んでいる家:https://xfolio.jp/portfolio/kitukitou

    作品について:https://xfolio.jp/portfolio/kitukitou/free/96135

    絵文字箱:https://wavebox.me/wave/buon6e9zm8rkp50c/

    Passhint :黒

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    キツキトウ

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    2021/7/18

    書きもの/「Wisteria」
    書き溜まっていたものを、ポイピクに縦書き小説機能が追加されたので置いていきます。ポイピクの仕様上、「濁点表現」が読みづらいかもしれません。そしてもし誤字脱字がありましたら生暖かい目で見守っていただけると幸いです……。

    ※創作BL・異類婚姻譚・人外×人・R-18・異種姦・何でも許せる人向け。

    #創作
    creation
    #小説
    novel
    #創作BL
    creationOfBl
    #BL
    #異類婚姻譚
    marriageOfADifferentKind
    ##Novel

    Wisteria(8)「Wisteria」について【項目 WisteriaⅡ】「蛙飛び込む池の蓮」閑話1 「鱗痕」閑話2 「殻落ちる音」「Wisteria」について異種姦を含む人外×人のBL作品。
    世界観は現実世界・現代日本ではなく、とある世界で起きたお話。

    R-18、異種恋愛、異種姦等々人によっては「閲覧注意」がつきそうな表現が多々ある作品なので、基本的にはいちゃいちゃしてるだけですが……何でも許せる方のみお進み下さい。
    又、一部別の創作作品とのリンクもあります。なるべくこの作品単体で読めるようにはしていますがご了承を。

    ※ポイピクの仕様上、「濁点表現」が読みづらいですが脳内で保管して頂けると助かります。もし今後、ポイピクの方で綺麗に表示される様に成りましたら修正していこうと思います。
    【項目 WisteriaⅡ】
    「蛙飛び込む池の蓮」
    閑話1 「鱗痕」
    閑話2 「殻落ちる音」



    「蛙飛び込む池の蓮」

     自分達が元居た場所と比べたら、どのくらいの時が過ぎたのだろうか。此方に来てから随分と経ったかもしれない。生活にも慣れて、神社の主に比べたらまだまだだけれど、時折来る依頼にも少しづつ対応出来る様になってきた。
     ……けれど未だに、番って変わった体が〝それ〟に慣れる事が無く、思った通りの事が出来ずにいた。


    「ん……」
     薄い瞼がゆっくりと開かれる。
     自分が横たえる寝具には陽が差し、藤を目覚めさせていく。怠さを含む重たい体を起こして隣を見やるが、共に寝ていた人物は居らず、自らに視線を移すと案の定その肌に何も纏ってはいなかった。艶やかな褐色の肌には色濃く鱗の痕が残る。
     辺りを見渡して昨夜着ていた物を探してみるが、自分に鱗を残していった犯人によって何処かへと葬られたらしい。陽の差し方を見るに、明るくなってから大分経っているだろう。また早く起きる事が出来ず、一つ溜息を藤は漏らした。
    「はぁ…また早く起きれなかった……」
     落胆を飲み込んでから身を捩り、寝具から立ち上がろうとする。だが――
    「゛いっ」
     腰に鈍い痛みが走る。
     やはり蛇に合わせると翌日はこうなるのか……。少しづつ慣らされた体でも、抑制も無い蛇を受け入れるのはそれなりに負荷が掛かるのだろう。以前には一日中起き上がれなかった記憶もある。
    (しかも契ってから……前より感じる気がするし……)
     思案する頭が沸騰し、一気に顔が赤らむ。そんな事に気づきたくなくて、ぼふりと近くに落ちる枕へと顔を埋めた。
    「……そんな無防備にしていると食べるぞ?」
     がばっと顔を上げると其処には意地悪そうな笑みを浮かべた朽名が居た。驚きのまま抗議の声を上げる。
    「なんでいつも音もなく入ってくるのっ!!」
    「お前の驚いた表情かおが見れるからな」
     人の姿で藤の横へと腰を掛けると、寝具がぎしっと声を漏らす。
    「体、痛むのか?」
    「……うん」
    「激しい夜だったからな」
     すかさずぺしりと相手の腕を叩く。叩かれた本人は気にも留めずに笑っていた。
    「動けないのは困るよ……」
     はぁ、と溜息を吐くと再び枕に顏を埋める。それを聞いた朽名は身を寄せ、横たえる藤へと近づく。
    「たとえこの先動く事が出来なくなっても、私が全て世話してやろう。お前の何から何までな。願うなら、離れたくないと思うくらい甘やかす事も出来るぞ」
     色のある声が藤の耳を染めていく。
     獲物を狙う様に細めた目を向け、指先を藤の項に乗せてつっと尾てい骨までなぞり上げて遊んでいる。ぞくっと藤の背に何かが走り抜け、咄嗟に起き上がると枕で盾を作り身構えた。
    「っ! やだよ!」
    「ははっ冗談だ」
     だが、そう笑う蛇の目はさっきと変わらずに何かを含んだままだ。微かな悪寒と共に喉元が小さく嚥下する。
    (冗談に聞こえない……)
    「まずは風呂に行くか?」
     藤の返答も聞かずに抱え上げる。
    「自分で行くからっ」
    「体が痛いのだろう? こうした責任もあるからな。連れて行って洗ってやろう」
    「いいよっ、降ろしてっ――つっ」
     抵抗しようと身を動かすが痛みが走り体を強張らせる。自分を持ち上げ抱えるその相手が、にこにこしながら此方を見ている事に気づき、諦めて運ばれる事にした。


              ❖     ❖     ❖


     朽名が用意していた食事を共に食べて一息つく。体の痛みは風呂場で洗われながら朽名に治されてしまった。……思い出しても恥ずかしい。
     すっかり戻った体を持ち上げ、食器を片づけていると背後から気配がする。だが、振り向く間もなく腕を回されてしまい、襟元から手が侵入してきた。
    「今日はもうしないからっ」
     ぐぐっと腕を外そうとするがびくともしない。それでもぎゅっと手を掛けている藤を、楽しそうに蛇は見つめる。
    「今日は依頼が無いだろう?」
    「……今日はトウアが来るって言ってたから、そろそろ――」
    「来るかもしれない」と言葉を続けようとしたその時、藤の言葉に応える様にして境内の鈴がガラガラと音を立てた。


    「朽名…もう離して」
    「……ボク達お邪魔だった?」
    「全然!」
     ぶんぶんと藤が頭を振る。後ろから抱きつき、くっついたままの朽名を連れ、藤は境内の拝殿前まで出て来ていた。にこにことした朽名が腕を解く。
    「この姿だと久しぶりだな、トウア」
    「うん、久しぶりにその姿見た」
     あははと少年が笑う。と、後ろからひょこっと赤毛の少年が出てきた。藤はその少年と目が合う。
    「その子は?」
    「こっちはルカ。ボクの友達で運ぶの手伝ってくれたんだ」
    「こんにちは!」
     藤達へ明るく笑いかけ、元気に此方へと手を振る。元気で明るい少年に藤も思わず笑顔で言葉を返した。
    「こんにちは、はじめまして。俺は藤っていって、こっちが」
    「朽名だ。此処で藤と共に暮らしている」
    「うん、トウアから聞いてるよ。神社ごとこっちに来たんだよね」
    「うん。でも、母屋の方は此処に来た時に新しく建てたから庭はまだ手をつけてなくて。それで、この前植物園に遊びに行った時に綺麗な花を見かけたから、トウア達に頼んでおいたんだ」
    「そうそう、それでこれが頼まれてたお花。大きいのはまた今度むつと持ってくるね」
    「ありがとう」
     花を付けた苗が、幾つかの箱に詰められて置かれている。水滴を付け、瑞々しく咲きながらそよ風に揺れる花達が、まるで早く広い所へ植えてくれと言っている様だった。
    「庭の方へ置いてこよう」
     それを見ていた朽名が重ねた箱を持ち上げ、庭の方へと歩き出す。
    「ありがとう、朽名」


    「ルカは今日お手伝い? 何時もは何処に居るの?」
    「俺、水葬駅で駅員してるんだ」
    「水葬駅?」
    「うん。誰かが来たり、幽霊達を見送る駅」
    「あっ、駅の方にはまだ行ってないかも」
    「駅までは〝扉〟を使って渡るから、用でもないと来ないと思う。でも、普段は静かで過ごしやすいし、気分転換したい時は良いかも」
     トウアが何か思いついたのか「あっ」と声を上げた。
    「じゃあ、天気も良いし、このまま何処かへお出かけしない? 色んなところ案内してあげる」
    「行きたい! 皆でお出かけしよう」
     トウアの提案に、藤が嬉しそうに答えた時だった。
    「ん? お客さんかな……?」
     ルカが気づき、三人が其方へと視線を向けると、鳥居をくぐって此方へと向かう人物が見える。藤がその人物に尋ねた。
    「何かご依頼ですか?」
    「物を直す依頼を受けているのはここか?」


              ❖     ❖     ❖


     依頼をしに来た竜胆と名乗る男はがたいが良く、髪が互いに絡まり合い、個々が綱の様な束状になってみえる。だが、一見怖そうな見た目に反して物腰は柔らかかった。
    「俺は主に薬師等が必要とする材料を集める薬種問屋をしている。だから棲家を開けることもあるんだが、そこにある古池の柵が壊れてしまって幽霊や妖怪達が落ちるらしいんだ」
     一呼吸間をあけると竜胆は再び口を開く。
    「……落ちた者達を心配すると言うよりはな、池に咲いている蓮が綺麗で、俺はそれを存外気に入っているらしい……誰かが落ちることで花を傷つけたくないし、葉が破れるのもな。だからここまで来たんだ」
    「じゃあ、その柵を直せばいいんですね」
     藤が確認する為に竜胆へ尋ねるが、
    「ああ。だが、問題なのがな……」


    「これは……随分と距離があるね」
     トウアがそれを見ながら口を開く。
     四人と一匹は竜胆に案内され、竹林のあるお寺まで来ていた。目の前に広がる池は、見ただけでも外周の距離が長い事と分かる程に広く、柵は所々壊れており、話の通り池の中には蓮の花が咲いていた。
    「それで、なんでお前は距離を開けているんだ……?」
    「気にするな」
     藤に寄っている蛇の問いに竜胆が答える。なぜか程良い距離を開けて、この場所まで三人と蛇を案内していた。池を目の当たりにしたルカが藤に問う。
    「藤、この池結構周るの大変そうだけど……大丈夫?」
    「う、うーん……」
     慣れてきたとはいえ、何時もの依頼とは違い柵の一つ一つを修復していくとなると、さすがに自分にこなせるのか不安になる。そして距離を歩く事に慣れていない自分が、果たして直しながらこの距離を周りきれるのか……。それでも、大丈夫だと口を開こうとした時――
    「私が一緒に周ろう」
     すっと蛇が姿を変えると一つ提案をする。
    「代わる代わると交代すれば疲れ切る事もないだろう」
    「でも……今日中に終わる?」
     トウアが疑問の声を上げ、その疑問にうーんと辺りが静かになる。するとルカが「じゃあ」と提案した。
    「二人がそれぞれ半周づつ周るのは?」
     それを聞いた竜胆は良い提案なのではと思った。だが、
    「それだと二人が離れちゃうけど……」
     トウアが朽名と藤を見て確認する。藤がごくりと息を飲むと不安そうに目を伏せる。
    「離れちゃうの、嫌?」
     ルカが藤の様子を見て声を掛ける。聞かれた藤は小さく頷いた。
    「俺…朽名と離れるの怖いんだ……」
     言いづらそうに藤の言葉が淀む。
    「……まぁ、そのな。何か事情があるなら別にすぐに直してくれとは言わない。何回かに分けてもらっても良いしな」
     不安に顔が強張っていくそんな藤の様子に、見かねた竜胆が口を開いた。すると蛇が再び言葉を発する。
    「いや、私が全て直して周ろう。昔から直して周るのは慣れている。少し時間が掛かるだろうが、急げば今日中にも終わるだろうし、藤とも離れずにすむ」
     其々の様子を見ていた蛇が、自分が周ると告げるとその言葉に藤はハッとした。
    「駄目だよ、俺が受けたんだからちゃんと俺もやる」
     悩み、少しの間黙っていた藤だが、やがてゆっくりと言葉を続けた。
    「大丈夫、俺出来るよ。それに、池に落ちちゃう人も居るなら早く直した方が良いから。半分づつ周ろう? 朽名」


              ❖     ❖     ❖


     藤はトウアとルカと共に、朽名は竜胆と。互いに背を向け柵を直す為に歩き出す。

    「……本当に離れても大丈夫だったのか? 早く直る方が嬉しいが、事情があるなら日を改めても良かったぞ?」
    「……問うならばまず近くに来たらどうだ? というよりなぜさっきから距離を取るんだ?」
     さっさと終わらせようと急ぎ足で柵を修復していた朽名に、問うべきか迷った竜胆が、離れた位置から意を決し口を開く。
    「俺の事は気にするな。まぁ、答えづらいのならいいんだが……」
    「……」
     暫くの間二人は黙る。
     再び音が生まれたのは手元の柵が綺麗な姿を取り戻し、始まりから三分の一は過ぎた場所で息を吐いた時だった。
    「藤は外に出るのに慣れてないんだ。……いや、慣れてないというより、今までの経験からか、怖い者は外から来るんだと無意識の中に刷り込まれているんだろうな。だから人一倍に、外に一人で居る事を怖がる」
     暗い夜の夢、或いは過ぎ去った遠い記憶か。何かを思い出しふーっと蛇がまた息を吐く。
    「此方に移って来るまでずっと。敷地外に……自由に外の世界に出るという事が出来なかったからかもしれん。他者に会う事が極端に少なかったからな」
    「お前は良かったのか? ……傍に居たかったんだろ」
    「私は何時だって離れる気は無い。少しの間だって不安を抱かせたくはないからな。……だが、藤が頑張ると決めたんだ。少しでも外に慣れておいた方が良い事もあるだろう」
     粛々と告げ、次の柵へと手を掛けると顔を上げる。
    「縛りつけたい分けでは無いからな」
     相手に聞かせる為に吐いた言葉は、何処か陰った自身にも言い聞かせる様に己の中で飲み込んだ。


     予定の場所まであと少し。長い距離を歩き慣れていない藤の息が少し上がっていた。
     二人と会話をしながら、抱く不安を見ないふりしていたが、やはり自分に負荷をかけていたらしい。直してきた疲れと不安で藤は押し潰されそうになり、壊れている柵の前で藤の歩みは止まる。
    (もう少しなのに……)
     あと少しなのに届かない。不安が体を蝕み、動けない自分に情けなくなり、段々と瞳が潤み始める。すると――
    「大丈夫だよ藤」
     藤の様子に気づいたトウアがぎゅっと藤の手を握った。そして共にルカが藤を励ます。
    「うん、あとちょっと。もう少しで朽名達と合流できるよ! ちゃんと一緒に居るから。だから大丈夫」
     二人の手から、言葉から。温度を感じる。
    (二人も居る。大丈夫。この先には朽名も居るんだから)
     不安に潰され、泣きそうだった感情をぐっと息と一緒に飲み込んだ。

     目的の場所で最後の柵へと触れると、新しく建てたかの様にそれは修復されていく。そしてくすみ一つなく、其処に佇んだ。
    「終わった……」
     だが、てっきり先に着いていると予想していたその人物が未だ見当たらない。先に直した柵のすぐ横は壊れたままだ。不安と疲れで荒い息を上げて藤が座り込み、顔を伏せる。二人が心配そうに背を撫でてくれるが顔を上げる気力が出なかった。
     だが、そうしていると遠くの方からじゃっじゃっじゃっと砂が擦れる音が聞こえ、突然パシリと手を取られる感覚があった。
    「大丈夫か? 藤」
    「くちなぁ……」
     顔を上げ、声の人物に気づくと泣きそうな声を吐き出す。
    「すまん、途中見かけた橋の敷板が貫けていてな。直していたら遅れた」
     此処に来る間に遠目で座り込む藤が見えたらしく、急いで駆け付けたらしい。直す筈の柵は未だ壊れたままだった。
     見ていた二人はホッと息を吐く。が、見当たらない人物に気づきルカが尋ねる。
    「あれ、竜胆さんは?」
    「藤は甘いものが好きだと教えたらな、『寺に菓子があるから天気も良いし、景色が良い所で休憩するか』と言って取りにいったぞ。すれ違いになったら困るから予定の場所に居ろとも言ってたな」
    「そっか、じゃあ此処に居たほうがいいね」
     トウアの言葉に頷くと、すくっと朽名が立ち上がる。
    「残りを直してくるか」
    「俺がやる」
    「藤は休んで居ろ」
    「大丈夫だよ、もう朽名が居るから……何時もみたいに側に居て」
     未だ泣きそうな顔でぎゅっと袖を引き、此方を見上げて言う藤の言葉に蛇は息を飲む。頭を撫でると藤を安心させる為に蛇へと変化した。
     するりと藤に登り、巻き付く。何時もの様に、僅かに半透明な長い胴が肌に触れて染み込むと、何だか元気が湧いてきた気がして安堵する。ふわりと小さく笑みを浮かべると立ち上がった。
    「疲れたらちゃんと交代するんだぞ」
    「うん」
     残りを直す為、放り出されている壊れた柵へと向かった。


              ❖     ❖     ❖


     さて、あと一つ二つで全て直るぞという所で、遠くの方から此方へ向かう人物が見えてくる。トウアがその人物に向かってぶんぶんと手を振って声を掛けた。
    「りんどーさん! こっち!」
     声を掛けられた人物はその元気な呼びかけに気がつき、風呂敷に包まれた荷物を持って三人の元へと向かう。
    「菓子を持って来たから皆で休憩しよう」
    「どんなお菓子?」
     わくわくとしたトウアが竜胆に尋ねる。問われた竜胆は菓子が入っている包みを目を輝かせるその相手へと手渡す。
    「カステラだ。あられと煎餅もあるぞ。茶も持ってきたからな、景色の良い所にでも……」
     言葉を止めると、何かに気づいたのかきょろりと辺りを見渡しながら三人に尋ねてくる。
    「あいつはまだ来てないのか?」
     まだ遠くで直しているのかと思い、池へと近づいて探る仕草で遠くを見ようとするが、
    「此処だ」
     突然発せられた声に気づき振り返る。と、藤の側に居た蛇が相手へ良く見える様にと近くまでにゅるっと顔を前に出す。てっきり人型で居ると思い込み、存在を見逃していた竜胆の視覚に、突然蛇が現れた。
    「う、わぁっ」
     目を大きく見開いて飛び上がり、後ずさった竜胆が、最後の壊れかけた柵に手を掛け体重を乗せてしまう。バキッと音がすると同時に、後ろへと倒れていく竜胆の姿が三人と一匹の目に映り込んだ。

     ルカが「あっ!」と声上げた時にはもう手遅れだった。
     バシャッ、と大きく水音が上がり、三人が駆け寄って池を覗き込むと、蓮の葉を沈めて水面に浮かぶ一匹の蛙が其処には居た。
    「……お前、蛙だったのか」
     朽名が呆れ問うと何かを言っているのか、蛙の口元からはブクブクと泡が立った。



    閑話1 「鱗痕」

     その日は何時もと違い、昨夜戯れたにも拘らず早朝に起きる事が出来、重い体を持ち上げて喜々として浴室へと向った。
     普段と同様に戸を開けて脱衣所に入る。眠たい目を擦りながら服を脱いでいると、すっと足元に何かが触れ……たと思うとするりとそれが上って来た。
    「――っ、朽名っ、変な上り方してこないでよ。くすぐったい……」
     期待した反応だった様で、蛇がにやりと笑った気がした。
    「もう……」
     呆れながら浴室へと足を運ぶ。
     体を洗おうと鏡の前に座ると、真っ先に目に映るのは昨晩の情事と鱗の痕だ。記憶が過り、まだ湯も浴びていないのにほんのりと頬が赤くなる。気にしない様に記憶を振り払い、湯で体を流そうと桶に手を掛けた。
     すると突然、背に残る鱗の痕を指でつつっと辿られる。突然の事に驚き、「ひゃっ」と声を上げると同時にびくっと背が伸びた。
    「今朝は随分と痕が残ったな。それとも肌が蕩けるほど気持ちが良かったのか?」
     揶揄う様に問いかけてくる声の方へ向くと、蛇から姿を変え、寝衣のままの朽名が立っていた。
    「っ! ……はぁ、そのままだと濡れるよ朽名。お風呂場から出てい――」
    「よし、私が洗ってあげよう」
     藤の言葉をかわすとふふっと笑い、石鹸を手に取り泡立てる。
    「いや、話聞いてよ。ん」
     問われる蛇は構わずに滑りの良い手で艶を纏う背に触れる。
    「安心しろ、しっかりと隅々まで綺麗にしてやる」
    「自分で、あっ、っ出来るから! っ、いいって!」
     わざとそう触れているのか、敏感な肌から内へと響く感触が藤を悶えさせていく。声を上げる藤の背を一通り洗うと、鱗の痕を辿り指を前面へ這わせる。
    「ひぅ、んっぁっちょっと! そんなっ、触り方しないでよっ……っ――」
    「お前は…本当に感じやすいな。……ああ、ここもか」
    「んっ、や、あぁっや、め」
     脇から腹を伝い胸元まで手を持っていく。膨らみを辿るとその頂点にある小さな突起を摘み上げた。そのままくりくりと捻る様に指先で泡を立てる。そんな風に擦られる刺激に合わせて身体が跳ね上がった。
    「いやっそこばかりいじらないでっ」
     胸の小さな突起はすでに赤く熟れている。だが、手は止まず、何かに気づいたのか蛇は口を開いた。
    「ここにも痕がついてるぞ」
     脚にも付け根近い場所に濃く痕が残っていた。弄る手とは反対の手をそこへと辿り這わせていくと、すりすりと指が痕を擦る。
    「んっ」
     走る刺激から逃れようと体を捻るも、がしっと両腕で抱きしめ、捕まえられている為にうまく抜け出せない。
    「こっちも綺麗にしないとな」
    「っ! ぁ、や…あっ」
     脚の痕を辿っていた手が後ろへと回る。後ろに控えていた口に指を掛けると縁を広げられ、昨夜の残りに任せてぐっと中に飲み込ませていく。差し込まれた指が動き回り、時折良い場所に触れると、昨晩の液と共に抑えきれない声を藤が零し始めた。
    「っあ、ん」
     声を抑える為に手の甲を口に当てるが、それに反して藤のものが勃ち上がっていく。
     ふっという声と共に、吐息がかかる感覚を耳が味わう。そして中を擦り上げる指が藤の中の良い所を連続して突き始め、ついでにと胸の突起を摘み引くとカリっと爪先で引掻いた。
    「――っ、ん、ぁっ、……っや…ァ、ンんっ、ぁあ、う……ふぁっ、んっ……んん」
    「気持ち良いか? 大丈夫だ。出してしまってもちゃんと綺麗にしてやる」
     連鎖する藤の反応に、熱の籠った息を吐き出す。耳朶に触れる程に口元を寄せると、囁く様にして言葉を差し込んだ。
    「だから安心して身を任せるといい。なぁ、藤」
    「ひっ、ぅ…――っ」
     大きく体を震わせる。その身から共に白濁とした液体を勢いよく吐き出した。

     吐精し、蕩け切った表情のまま力が抜け、後方の朽名に寄りかかる。寄り掛かられた主は、はぁはぁっと息を荒く吐くその姿を愛おしそうに見つめては観察する。藤は何度か大きく息を吐いて整えると、赤らめた頬と潤んだ瞳でキッと朽名を睨んだ。
    「ふふっ、悪かった。少し揶揄うつもりが止まらなかったんだよ」
     悪気なく笑う蛇に、むすっとしながら自分を抱きしめている腕を解く。ぷくっと膨れ拗ねている藤が蛇は可愛くて仕方ない。
    「ははっ、本当にお前は可愛い奴だな!」
     笑みを浮かべて頭を撫で続ける蛇に、とうとう藤は怒った。
    「もうっ! そこ座って! 今度は俺が洗うんだから!!」
    「ああ、頼んだ」
     くつくつと笑いながら、するりと薄着を脱ぐと指示された其処へと朽名は腰を掛けた。



    閑話2 「殻落ちる音」

     それを見つけたのは境内で掃除をしている時だった。
     掃き掃除をしていた足元の茂みから、ガサリと一匹の蛇が這い出て来る。何時も自分の側に寄る此処の神様ではなく、よく茂み等で見かける様な蛇だった。
    「あれ?」
     ずるずると藤の足元で引きずるその体は、どうやら脱皮の最中らしく、脱ぎかけの脱皮殻が点々とくっついている。
    「脱皮中……かな?」
    「もし」
    「……?」
    (何処からか声が聞こえて……?)
     きょろきょろと辺りを見渡すが、側には誰も居ない。
    (気のせいかな?)
    「もし、其処の人。下を向きなされ」
    「え?」


              ❖     ❖     ❖


    「って……言われたんだけど……」
     藤は腕の中に先程の蛇を抱えている。頼まれ事をしたのだが、良い解決法が浮かばなかった為にどうしようかと朽名に相談しに来たのだ。
    「……蛇誑しか?」
    「違うからっ」
     蛇が言うには……いや、脱皮中の蛇が言うには、どうやら自分の脱皮殻を取ってほしくて藤へと声をかけたという。
    「取れず、むず痒くて仕方ないのだよ。擦りつけたり巻き付いたりして、胴は何とか取れたのだが……」
    「脱皮不全か? 頭側と尻尾の方にはまだ残っているな。胴にも所々に殻がついてるぞ」
    (蛇が蛇と喋ってる……)
     突然声をかけられて驚きはしたが、特別不思議な事はなかった。
     元居た場所でも人と違った者達が生まれていたし、此方にだって人とは違った者や幽霊や妖怪と言われる者達が居る。何ならば自分が契った相手は神様で、神様と契った自分は恐らく、もう人とは言えないのだろう。

    「どうにも困ってしまっていたらな……そうしたらば近くから音がしてきての。其処へと目を向け覗いたら、柔い笑みで掃除をしている其方の細君を見つけたのだ。其の優しさを秘めた眼差しならばこの問題を解決してくれるのではと直感し、これは好機とその腕に抱かれるべく急いで這って行き声を掛けたのだよ」
     何時の間にか姿を変えた朽名は、藤の腕の中から蛇をガシリと掴むと、ずるっと引き剥がす。
    此奴こやつ、外にでも放り出してやろうか……」
    「……それで取ってあげようとしたんだけど、硬くて中々取れなくて。無理に引っ張ると怪我させちゃいそうだし……どうしよう、朽名?」
     対応が面倒なので両者の言葉は気にせず、現状を伝える為に藤は口を挟む。
    「……桶に温い湯を張れ、藤。此奴を突っ込む」


    「わぁ……!」
     きらきらとした目で桶の中を覗く。
     朽名の「慎重にな」の声を聞き、少しづつ脱皮を手伝っていく。さっきまで硬く鱗にひっついていた殻はぺりぺりと、そしてするすると綺麗に剥けていき、その感覚が心地良くてぱぁっと嬉しそうに顔を輝かせる。すると唐突に、隣で見守っていた蛇へと顔を向けた。
    「朽名は?」
     期待の眼差しで此方を見てくる。
    「……私はしないぞ。何年も一緒に居るが見た事はないだろう?」
    「そっか……しないのか」
     蛇がそう返すと心なしか残念そうに藤が言う。
    「……」
     藤の指が、湯に浸かる蛇の鱗を辿る。するすると蛇が脱皮していくのを手伝う藤は楽しそうだ。その顔を見ていた朽名は何処かうずうずしてくる。
     何だか面白くない。喜々として他の蛇にその手が触れるのが面白くない。
    「羨ましいのか?」
     ゆるま湯が心地良いのか、くあっと欠伸をしていた蛇が、ちゃぽりと音を立てながら湯から顔を上げて朽名に問う。問われた人物は人差し指と親指で湯を弾き、蛇の顔へ飛ばし掛けた。


    「ああ、感謝する美しき人。この御恩はかなら――」
    「早く帰れ」
     すっかり脱皮が終わり、晴々とした蛇の言葉は朽名の言葉で遮られた。


              ❖     ❖     ❖


     殻が取れ、綺麗になった蛇に達成感を得て無事に元居た場所へ蛇を帰すと、小さな湯舟となっていた桶を風呂場に戻しに行く。
    「ついでにお風呂入ろうかな?」
     気持ち良さそうに湯に浸かる蛇を見ていたら、自分もお風呂に入りたくなってしまった。掃除も終わったので、ついでにこのまま風呂に入ろうと脱衣所に戻る。
     すると突然、部屋に戻っていた筈の朽名が、蛇の姿で自分へと登り口元を舐めてきた。
    「な、なに?」
     狼狽える藤の唇を再びちろりと舐め、体へと巻き付く。
    「今度は私が脱ぐのを手伝ってやろうと思ってな」
    「え?」
     するりと袖口から侵入すると藤の懐へと潜りだし、止める間もないままモゾモゾと、服と肌の間をにゅるりと動き回っていく。人一倍刺激を感じ易い藤は、そのこそばゆさに息を漏らした。
    「んっ、やめてよ朽名……くすぐったい」
     蛇を出そうと襟元を緩めるが一向に出てこようとはせず、スリっと肌を擦られると、加減の良いそのこそばゆさに体が反応する。
    「ぅ、んんっ…ぁっ……つっ、もうっ!」
     一向に出て来ようとしない蛇に耐えきれず、羽織を脱ぎ捨ててはするっと肩まで服を緩めると、懐に手を突っ込んで自分の身を苛めていた蛇をずるりと引きずり出した。だが、捕らえた藤の手からにゅるりと蛇は逃げだし、ふわりと姿を変える。その勢いのまま反対に藤を捕まえると抱き寄せた。
    「このまま脱がして湯まで連れて行ってやろう」
    「自分でやるから!」
     触れてくる手を止めようとしたその手を取られ、くすりと笑われる。
    「ほら、お前も脱がしていいんだぞ?」
     揶揄う様に目の前の蛇が笑うと、藤の手を自分の胸へと当て着物の襟にその指を掛けさせる。顔の赤味を増していくその表情に、愛おしさを感じて笑みを零した蛇は、藤の服をとどめている帯へと手を掛け解いた。

     藤を守っていた最初の殻が床へ落ちていく。二人の声だけが漂っていた空間に、ぱさっと重さを含んだ音が混った。


              ❖     ❖     ❖


     ちゅくっと水音が響く。
     乱れ、脱がされた殻が藤を支えている朽名の腕に辛うじて引っ掛かっている。掌や指の隙間、爪の先まで。朽名の長い舌が、他の蛇に触れていたその手を執拗に舐め這う。ついでと言わんばかりに甲を強く吸われると、チクリと軽い痛みが走り赤い痕を残す。
    「っ、朽名っもうやめっ、んっ」
    「……此方に来てから更に敏感になってないか?」
     クスリと笑い、その吐息が濡れた指先にかかると体は震え、逃れる事が出来ない藤は後に自分の身に起こる出来事を想像してぎゅっと強く目を瞑る。

     そうしてまた一つ、殻の落ちる音が部屋に響いた。




              - 了 -
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