Wisteria 幕間2 quiet talk「I will never let you go.」「Wisteria」について異種姦を含む人外×人のBL作品。
世界観は現実世界・現代日本ではなく、とある世界で起きたお話。
R-18、異種恋愛、異種姦等々人によっては「閲覧注意」がつきそうな表現が多々ある作品なので、基本的にはいちゃいちゃしてるだけですが……何でも許せる方のみお進み下さい。
又、一部別の創作作品とのリンクもあります。なるべくこの作品単体で読めるようにはしていますがご了承を。
※ポイピクの仕様上、「濁点表現」が読みづらいですが脳内で保管して頂けると助かります。もし今後、ポイピクの方で綺麗に表示される様に成りましたら修正していこうと思います。
「I will never let you go.」
「あっ、これ」
倉庫から藤が引っ張りだしてきたのは黒い一本の傘だった。掃除の途中で見つけたそれを、自分にひっついている蛇にも見せる。
「鍵屋が持ってきた奴か」
傘が眠っていた倉庫の中には、鍵屋が持ってきた〝何処かの土産〟も多く眠っていた。鍵屋が持ち寄る土産は、大抵は何の変哲の無いものばかりだが、時折変わった物も持ってくる。これもそんな中の一つだった。
「んっ」
外へ出た藤は留め具を外して傘を開く。バサッと咲き出したのは傘だけではなかった。
「鍵屋がくれたこの変な傘。またこの時期も咲いたね、朽名」
開くと同時に現れたのは鮮やかな色の藤の花だ。ふわりと舞うと傘を差した藤の頬を撫でいく。傘の中から咲いたそれは垂れ下がると花先が藤の肩に着地した。
「綺麗だね」
胸元に居た蛇は藤の身体を伝い登り、ぐるりと傘の中を見渡していく。そして肩口に落ち着くと、花雨の隙間からひょこりと顔を出した。そんな様子に登られた当人の表情が和らぐ。
花見をしながら少し休憩しようと、そのまま縁側に腰を掛けた。
❖ ❖ ❖
「寒いな」
蛇がふるっと身体を震わす。庭は春の様に色とりどりの花々や青々とした植物が茂っているが、今日は少し空気が冷えているらしい。
「花達は元気に咲いているけど、今日は少し肌寒いね」
半透明に透過した体を引きずり、するりと藤の膝の上へ移動する。もぞもぞと居心地を整えると、くるっと丸く円を描く。膝の上で丸まった白い背を、自身の細い指先で優しく撫でる。それがまた心地が良いのか、満足そうにするとウトウトとし始めた。
「朽名。俺と同じ名前の、この花の意味を知ってる?」
「意味か?」
問いかけられ、眠気を含んだ顔で藤を見上げる。
「うん。この間トウアに教えて貰ったんだ」
二人で何気ない会話に花を咲かす。
だが、蛇は寒気からか、何時の間にか藤で暖をとりながら居眠りをしていた。蛇の居眠りに気づいた藤はふふっと柔らかな笑みを一つ零すと、布団がわりにそっと掌を円の上に被せる。
心地良さそうに眠っている蛇から顔を上げ、自慢の庭を見渡す。此処に来た当初よりも華やかさを増したその庭は、朽名が藤をこの場所へ連れてこなければ生まれなかった景色だろう。
(初めて出合った時に朽名が歓迎してくれなければ、俺はあのまま村に帰って殺される道しかなかったんだ。……朽名はきっと、贄として落とされたあの時とても困ったんだよね)
空を覆っていた雲間から差し出した陽の光が、白い背に降りかかる。陽で反射した白い鱗がきらきらと光を振り散らした。
(残る事を選んでもすぐに送り返さずに、置いておく事を選んでくれた。〝食べる〟なんて言ったのは朽名なりの優しさだったんでしょ? あの時は冷たい死しか見えていなかったから……)
生を産む性で逸らされた死は、今はもう何処にも居ない。自身のお腹の中に飲み込んで、すっかり消化してしまった。
(きっとあのままだったら朽名に死を求め続けたかもしれない。追い出されていたら自分で死を選んでいたかもしれない)
贄として差し出されるまでは冷たさしか知らなかった。
死者や色んな者達が迷い込むこの隠世で、藤は知らなかった沢山のものを知った。返せるものが少ない自分と共に移り、多くの優しさと居場所を蛇が教えてくれた。初めて手放したくないと思った相手が、今も自分と同じ時間を過ごしてくれている。
〝お願い〟を聞いてくれる神様のお願いをこれからも聞いていきたい。あの時結んだ〝契り〟を手放したくない。大好きで大切な相手を奪われたくない。だから――
(俺は朽名と一緒に生きていきたい。契る事で昔と姿が変わってしまっても、共に此処に居る事で人とは違う存在になったとしても)
この先何かが起きたとしても決して離れない。
……恋に酔っているのか、相手に酔っているのか。自分はどちらに溺れてるだろう。
「絶対に離さないよ」
零れ出てしまったか細い囁き声が風と共に揺れる。近くで触れる花の雨が、溢れてしまった言葉でほんのりと赤くなる頬を誤魔化してくれる。花と花の遣り取りを知らずに、相も変わらずに蛇は眠る。
自分から離れない白に胸を撫で下ろす。どうやら気恥ずかしい言葉を聞かれずに済んだみたいだ。
「……寝ててよかった」
- 了 -