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    ツイステ垢の思い出⑥

    想いに永訣して、不器用に、終わりの約束を結ばせる 気づいた瞬間に失恋だと思った。
     乾いた笑いが夕焼けに溶けて消える。
     僕はどうやら最悪のタイミングに居合わせてしまったらしい。
     柱の影から顔を出せば、見えるのは伸びた2人の影。そして次の瞬間、顔が重なる。
    「……あれはキス、だよな……?」
     正直混乱している。夕日が眩しくて僕の見間違えじゃないかと信じたいが、何度目を凝らしてもあの二人はエースと監督生に見える。
    「2人はつまり、付き合ってる……ってことか? いや、でも聞いたことないな。っ、まさか僕に内緒で? それとも今付き合い始めたのか」
     声にブツブツと出して、とにかく状況を飲み込もうと必死になるが、同時に湧き上がる悔しいという感情で何も考えられない。あいにく冷静に処理できるほど僕は器用じゃない。そうしてただ一つ導き出せた答えが、「僕はユウのことが好き」だったというものだ。
     失恋した。エースとユウはキスをして恋人同士になったのだ。試合やけんかに負けるのとは違った、心臓の痛くなる悲しみが僕を襲う。
     この場を去ろうとしても足が動かなかった。縫い付けられたように、魅せられたように、僕はただただ赤い夕日を見つめていた。

    「……っ、デュース?」
     ふいに怯えたような声がして視線をずらせば、そこに影を伸ばしたユウが立っていた。
     暑い。熱い。
     ユウの顔が赤く見えるのは、この空のせいか。
    「あ、えっと、もしかして見てた?」
    「えっ」
    「さっきの、その、そこでエースといた時のやりとり」
     見ていた。そう答えることが怖くて、唾を飲み込んだ。監督生の大きな瞳に映る僕は、なんともオドオドしていて滑稽だ。

    「ユウ」
    「なに?」
    「その、顔が赤いのは、つまり、そう言うことなのか?」
     エースと両想いなのか。遠回しでも、そうきちんと伝わったらしい。ユウは耳まで真っ赤にして、ついに僕から目線を外した。
    「やっぱ見てたんだ」


    「なあ監督生」
    「ねえデュース」


     互いに問いかけて、互いに返事はしなかった。
     噛み合わない会話を、それでもお互い気持ちを昇華するように声に出す。


    「今まで全然気づかなかった」
    「今日学園長に言われたの」
    「エースの気持ちも、ユウの気持ちも」
    「私元の世界に帰るよ」
    「残念だけど僕は素直に応援できないんだ」
    「本当は嫌だけど帰らなくちゃ」

    「ごめんユウ、僕はユウのことが好きだ」
    「私エースが好きだから」


     夕日はもう赤く光っていなかった。廊下の先に沈んで、あとはただただ静かな寒けさが残る。
    「デュース、ありがとう。でもごめんね」
     泣きそうな笑顔でユウが僕と目を合わせてくる。
     謝らないでくれ。そう答えたくても、声が出なかった。小さく開けた唇をきつく結んで、初めての失恋を噛み締めた。
     日が落ちて影も消えた廊下には僕達以外居ないようだ。ユウがその場を離れようとした。今度こそ何かを言わなければ、そう焦るほど言葉は何も思い浮かばなくて、僕は無言で立ち去るユウの腕をとっさに掴んで引き止めた。弾かれたように振り返った彼女は、どうしようもない現実に、酷く寂しそうな顔をしていた。
    「元の世界に帰れることになったの。……デュースは、お祝いしてくれる?」
     掴んだ腕が弱々しく震えていることに気づく。とても狡いお願いだ。この手を離したら、彼女は消えてしまって、もう二度と会えないかもしれない。それでも僕に止める権利はないし、ユウは今それを望んでいない。


     素直に何も言葉にできない僕は、期限付きの日常を、泡沫の存在に、永遠を求めることは出来なかった。
    「……ああ、もちろんだ! おめでとう監督生」
    「うん。ありがとうデュース」

     涙を抑えて。きっと泣くのは後でも遅くない。





    終わり
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