断章あるいは染められぬ黒 いつもの喧騒に満ちた十三王の間。扉を潜った偏執王は、この数日見かけなかった堕落王の姿に「あらぁ?」と声を上げた。
つまらなそうな顔をしている男の隣に腰を掛け、テーブルに肘をついてその鉄色の仮面を覗き込む。
「お人形ちゃんと遊んでたんじゃないの〜?」
「時間切れで向こうの粘り勝ち」
手のひらを上にかざして、堕落王は肩をすくめた。
「三日間は充分に楽しませてもらったけどね」
「なにやったのー?」
「そりゃ」
白い布で包まれた指を一本ずつ折って数える。
「切って燃やして抉って開いて潰して、と一通り」
気に入りの『おもちゃ』をいくら誘惑してもなかなか堕落してくれない。だから向こうの望む情報を対価に、死という終わりがない苦痛と快楽を与えて侵し染め上げようとした。なのに、あの子供は耐えきってしまった。
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