窓が開けられているのは、病院特有の匂いに気が滅入りがちになる患者の気分を少しでも軽くするためだった。
なにか道具を使わなければ届かないほど高い所に窓があるのは、思い余った患者が飛び降り、もしくは逃げ出す事態を防ぐため。
――つまりこの病室は、『そういう』患者専用の部屋だった。
「やあ。起きてたね」
軽いノックの後に続いて部屋に足を踏み入れた青年は穏やかに笑った。
視線の先には、壁に背を付けてぽつんと座る少女がひとり。
少女は青年を感情のこもらない目で一瞥すると、手元で続けていた作業を再開させた。機械的に。
その行動に意味があるのかどうかは分からない。ただの破壊衝動であるのか、一定の心を落ち着かせる効果があるのか黙々と――
5756