いつか来るであろう未来の話 自分たちのセカイでワンダーランズ×ショウタイムは穢れの怪物達と戦っていた。が、戦っているうちにいつの間にか前衛のえむのみが司達から引き離されていた。
「わわっ!」
えむが足を滑らせて転んだ。目の前には穢れの怪物。危機的な状況である。
「えむ、危ない!…類、寧々、そっちは頼んだ!」
司が一方的に2人に指示を出しながらえむの方へと駆けていく。その最中に持つ武器を旗槍から片手剣へと変化させた。間一髪、怪物の鉤爪がえむに当たる前に司は割り込むことに成功する。己の身を守る為に剣を盾代わりに前に出す。すると、剣が強く、大きな光を放つ。その場にいた誰もがその眩しさに目を瞑った。
光は一瞬であった。だが、その一瞬の中でただ一つ、大きな変化があった。司の姿である。グラデーションがかかったその髪は伸びて結われており、白いリボンが付いている。服装も白を基調とした格式高いような衣装へと変わっていた。胸元の白百合が目を惹きつける。手に持つ剣にも白百合の花が一輪、飾られていた。凛とした空気を身に纏い、皆を導く輝きを見る。導く、という一点のみで言うと司が新たな武器である剣を手にした時に同時に身に纏った王族調の衣装にも近い。だがそちらが“王”と例えるとするならば、こちらは“王子”や“騎士”といったような風に感じられる。高貴な雰囲気と司の怪物へと向ける厳しい視線に類達も圧倒されそうであった。全員の視線を集める中、司が口を開く。
「このオレの目の前でオレの大切な仲間達を傷つけようとし、さらに命の危機に晒させるなんて、命知らずで無謀な者がいたとはな。オレがこの場で立っている限り、オレの仲間達へは指一本も触れさせない。纏めて処刑してやる。覚悟しろ」
司はそう淡々と言い放った。えむに鉤爪を向けていた個体だけでなく、類達に向かっていた個体も魔法に掛けられたか術に嵌められたかのように司へと標的を変えた。司の背に庇われたえむ以外の2人は司の目を見つめる。その瞳は爛々と輝いていた。司の“感情”が強く出ている証であった。2人は同時に思う。「あ、あいつら死んだな」と。
(あー…司完全にキレてる…)
(これは僕達も手出ししてはいけないヤツだね。多分僕達が手を出したら余計に暴走する)
(ひぇぇ〜!司くん怒ってるよ〜!これあとであたし怒られるかなぁ…)
目こそ見えないけれど司の空気で状況を悟ったえむはそっと立ち上がりながら後退りする。寧々と類はえむに駆け寄った。
「えむ、大丈夫?治療するよ」
「ありがとう、寧々ちゃん!ちょっと右足が痛いかなぁ?」
二体の怪物を相手している司が口を開く。
「寧々、えむの治療をしてやれ。多分右手首も痛めてる。類、念のため周囲の警戒を。オレが注意を引きつけているが流れ弾が飛んでくる可能性がある。えむ、怪我が治ったら類と共に流れ弾の警戒を。いいな?」
「わかった」
「了解だよ」
「はーいっ!」
司の指示に全員が返事をする。司は改めて怪物達に向き直る。一旦距離を置くと、猛スピードで一気に怪物達へと突っ込んでいった。先程司は3人へと指示を出したが、3人の…特に類の仕事はない模様であった。“感情”と強い想いによって一時的に強化された司は本当に強かった。えむ達だけでなく司本人にも一切の傷は付かない。ただひたすら怪物達のみが傷ついていく。
「はっ!」
司の剣は的確に敵を切り裂いていき、最後にその一閃でコアを突き刺す。これがトドメとなって一体がどろりと溶けていった。
「次はお前だ!すぐにさっきの奴の所に送ってやる」
一対一になったことで怪物側の数的有利は消えた。怪物の攻撃をひらりとかわし時には剣で受け止め、的確な一閃を叩き込む。気がついた時にはもう片方も溶けて消えていた。
戦闘が終わった。治療術を使う為か変身を解除せずに司が3人へと寄ってきた。
「えむ!みんな!大丈夫か?」
「うん!あたし大丈夫だよ!寧々ちゃんが治してくれたし変身を解除しても動き回れると思う!」
「お疲れ様。司こそ大丈夫なの?」
「フフ、司くん強かったねぇ。流れ弾なんて一切飛んでこなかったから僕達も無傷だよ」
そうか、と司が答えると変身は解除され司の姿が元に戻った。長かった髪も元の長さに戻り、服装もいつもの私服だった。
「あ、元に戻った。今の、一体何だったの…?」
「これは憶測だが、えむが危機的な状態になり、オレも焦ったことでか“オレ”がもっと強い力を引き出したみたいだな。オレの可能性や強い想いを纏った姿…なのだろうか?今まで”オレ“が表に出てきてもこういうことは無かったし初めてだからまったくわからん…」
司は困った表情をしながら寧々の疑問に答える。
「わかんないんじゃん。まぁ初めてなら仕方ないか」
寧々とそう話していると、えむが悲しそうな顔で話しかけてきた。
「ねぇ司くん、びっくりさせちゃってごめんね。あそこまで離れていたなんて気が付かなかったの。これからちゃんと気をつけるから!」
「いいや、えむが無事ならそれでよかったんだ。カバーしきれずあんな状況にさせてしまったオレも悪い。重症にならなくてよかった。安心したぞ」
そう言って司はえむの頭を撫でる。えむはえへへ、と安心した表情で撫でられていた。
「司くんが無事で安心したよ。そっちは怪我は大丈夫なのかい?」
「オレは無傷だぞ!安心して欲しい。今も痛みとかも無いし、練習もいつも通り行える」
司はふふん、とドヤ顔で返した。
「司も無事みたいだし、ジャマは入ったけど練習やろっか。カイトさん達のところに行かないとね。あ、えむは足首と手首やってるから念の為そんな動き回らないところ練習しよ」
「えーっ!あたしもう大丈夫なのにー!」
「えむくん、君の運動神経の良さはよくわかっているけれど、もしものことがあって拗らせたらだめだろう。今日は我慢してくれないかい?」
「類の言う通りだぞ、えむ。オレ達だって心配なんだ。今日だけでいいから我慢してくれ」
「はぁい…」
そうわいわい話しながらテントへと向かう。強い想いと“感情”から発生した不思議な力。再び現れることがあるのかどうかさえわからないこの力は、彼らの心の中に強く刻まれることとなった。