ノースディンは吸血鬼用の姿見の前で、一部の隙も無い己の姿と見合っていた。今夜こそ、と期するものがあるのだが、成功率を上げて臨みたい。
足下でやはり主人の仕上がり具合を確認している使い魔に声をかける。
「協力してもらいたいことがあるのだが」
*
待ち合わせ場所でクラージィと落ち合った。今夜は食事の約束を取り付けてある。
挨拶の直後、クラージィの目がノースディンの胸元に向いた。
「コートに何かついて……動物の毛ではないか?」
「ああ、失礼。うちの猫の毛だろう。ありがとう」
素知らぬふりで礼を述べて服を払う。
「家に猫がいるのか」
「いるが?」
「! 初めて聞いた。どんな子だ。写真を見せてもらえないか」
「…まず店に入ろう」
2955