カールの城下町にある宿で、ヒュンケルは2人掛けのソファに座っていた。ラーハルトは少し離れた窓際に寄りかかり、外の様子を黙って見つめている。威勢の良い声が聞こえるから、行商人か大道芸人でも来ているのかもしれない。何を見ているのか、訊いてみようとヒュンケルは口を開きかけた。
「できるか?」
ヒュンケルの問いが言葉になるよりも早く、ラーハルトの言葉がヒュンケルの耳に届く。
「何を?」
ラーハルトの唐突な問いかけに、ヒュンケルは少し驚いた様子で聞き返した。ヒュンケルの問いはーハルトの声とともに、ヒュンケルの中でかき消された。
「ウィンク」
とラーハルト。
「できるぞ」
「……そうか」
ラーハルトの声は、意外そうな響きがあった。ヒュンケルは、もしかしたらラーハルトはウィンクができないのではないかと思った。
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