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    azurem00n

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    azurem00n

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    ブラネロのえろを書いてみたかったんですそこまでいけなかった。じんわり滲むような色気を目指したけどむずかしいね

    まだ夜も明けきらない早朝でも、キッチンではコトコトと鍋が鳴る。
    ゆるくぬるまっていく空気に空腹を刺激する匂いが混じって、ブラッドリーはすん、と鼻を鳴らした。くしゃみで飛ばされてからこちら、ろくに食べずに戻ってきた身には、普段から好ましいこの匂いはいつも以上に染み渡っていく気がした。空腹を助長するものではあるけれど、どこか腹を満たされた安心感もある匂い。いつだってこの匂いは、ブラッドリーにとっては当たり前のものだった。
    普段なら、そのまま味見と言いながらつまみ食いの手が伸びるのだけれど、今日はなんとなくキッチンに入ることができなくて、入り口に身体を凭れさせたまま、ちらちらと揺れるような朝の光に縁取られた身体のラインを目で辿っていく。
    頭のてっぺんから、随分短くなった襟足。北では滅多に見れなかった首元に、薄手のシャツでわかる肩や腰のライン。
    ーーこの男は、昔からこんなだっただろうか。随分と長い間、自分のもとに置いていた気がするのに、会わなかった間にまったく知らない男になってしまったようにも見える。
    拾って、相棒にしてーーその間に伸びた身長も、変わっていく体つきも見てきたはずなのに。離れた時間など、ともに過ごした時間からすれば瞬きほどの時間でしかないのだけれど、その、離れた時間を誰とどう過ごしてきたのかなんて、もちろんブラッドリーは知らない。
    情を交わすような相手が、いたのかどうかさえも。
    「……そんなとこ立ってられると気が散んだけど」
    自分で勝手に想像しておきながら、胸糞悪さに吐き気がしそうで思わず舌打ちすると、それで気づいたと言わんばかりにネロが振り返る。本当は、もっと前から気づいていたはずだ。人の気配には随分と聡いのがネロという男なのだから。
    なんで声かけねぇんだよ、と濡れた手を拭きながらこちらに近づいてくる不機嫌そうな顔も再会してから知ったもののひとつだ。昔はもっと、なんというか、似たような顔をしていても可愛げのようなものがあった気がする。どんなにつっけんどんな態度をとっていても、こちらを慕っているのが滲み出るような。ーーあの顔を見なくなったのはいつからだったのだろうか。
    「すぐ食えるようなもんねぇのか」
    「さっき作り始めたばっかりだよ」
    これでも食ってろ、と焼き菓子を口に当てがわれるのを素直に迎え入れる。じゅわりとバターが溶け出すわりにしつこくなくて甘さも程よい。するりと消えるように軽いのにちゃんと胃には落ち着く。空きっ腹に食べ物が入って、少しだけ体温が上がれば、忘れていた身体の疲れが思い出したようにやってきた。
    「寝る」
    「は?腹減ってんじゃねぇのかよ」
    「できたら起こせよ」
    ぶつくさ言う文句の声は知らぬふりをして部屋へと向かう。
    どうにも今日は、感傷的で自分らしくない。
    何があったわけではない。
    けれど、今日は帰りに雨の街を通ったのがよくなかった。
    共にいた頃の、吹き荒ぶ風も肌を刺すような寒さもない、湿っぽくてしみったれた街。
    誰も彼も俯いて歩くようなそんな街で、ネロはひとりで生きていた。
    自分にはどうしたって肌に合わない、そんな街で。
    どさりと身体をソファーに投げ出す。疲れているから、ろくでもないことを考えるのだ。考え込むなど性に合わないのだから。



    「おい、ブラッド、起きねぇの?」
    身体を軽く揺さぶられたのに抵抗するように、眉間に皺を寄せる。熟睡しないように眠るのには慣れているはずだったのに、どうにも眠気は取れないし、身体も重い。眠る前のくさくさした気分はどうにも晴れていないようだった。
    「なぁ、まじでどっか悪いのか」
    視界に広がるネロの顔は見慣れたものだった。ーーまだ、隣にいたときに。
    身体を起こして、ネロの座るスペースを空けたのに、サイドテーブルにバスケットを置いて立ち尽くしたまま、どこか所在なさげに視線を彷徨わせている。この部屋にくることなど初めてでもないくせに、いつまで経っても慣れないでいることが今日は腹立たしかった。
    「てめえも座れよ、なんか持ってきてくれてんだろ」
    酒なら出す、とサイドテーブルに酒瓶とグラスを呼ぶ。多少は誘いにも乗るようになったとはいえ、それも機嫌の良し悪しで変わるのだから今日とて五分五分ではあったが珍しく今日は素直に隣に座った。好物ばかり詰められたバスケットにも気を良くして、酒を流し込む。
    ーーあぁ、やはり考え込むのなんて性に合わない。欲しいものは力づくで奪う、それこそが信条だった。

    ***

    するり、と手首に触れてくる体温に心臓が跳ねる。血管を辿るように這う指先が、どうにも色めいた欲を感じさせる触れ方で、おかしくなりそうだった。そんな温度を持った触れ合いなど自分たちには不似合いのはずだ。共にいた時間の中で、ブラッドリーがそんな目で自分を見ていないことなど、どれだけ思い知らされたと思っているのか。
    相棒なんて言われたところで、愛称で呼ぶことを許されたところで、本当の意味で隣に立てただなんて思ったことはない。
    懐を許されていても、そこに行こうとしたことはないのだ。臆病なくせに、けれどそれでも雛鳥の刷り込みのように、この男に向かっていく感情の色が変わっていくのはあっという間だったのだけれど。
    それなのに、なぜ、今になって。
    まるで誘うかのような指の動きを見ているのが堪らなくなって、思わず視線をあげれば、かち合ったピンクスピネルには酔いの色などまったくなかった。もともと自分よりも酒に強いこの男が、ロックグラスの一、二杯で酔うはずもない。ドク、と走る心臓に反して冷たくなる身体。よくよく自分は迂闊だと、思い知る時にはもう遅い。
    「っ、な、に」
    ーーいっそ、酔いのせいにしてしまえたらよかったのに。
    まるでこちらを貫かんばかりの強さを込めたブラッドリーの瞳は、それをネロに許さない。
    もどかしいばかりの触れ方も、それでいて何も言わないところも、あくまでも自分の意思で、欲で、そうなることを選べと迫っている。
    流されるのではなく、強いられるのでもなく、ネロ自身でブラッドリーを選べ、と。
    そろ、と目を逸らせば触れてくる指に力が入る。
    ひどく喉が乾いて、身動ぎすらも許されていない気がしてくる。こんな、目の色なんて知らない。
    この男から離れたいと思ったのは自分で、そして、今日、この男のテリトリーに足を踏み入れたのだって紛れもなく自分で。
    「ネロ」
    呼ばれる自分の名すら、羞恥を煽ってくるようでどうにもいたたまれない。
    するりと指が手の甲を滑って、とん、と小さく突き放すように左胸に触れられただけで、破裂しそうなほどに痛い。
    苦しい。
    じとりと、背が湿っていくのがわかる。
    喉は息苦しさとともにからからに渇いていく。
    指でも首でもいい。ほんの少しでも動かして、是の意を示すだけでいいのにそれができない。
    だってもう懲りたんだ。
    手を伸ばすこと。
    心を砕くこと。
    どれだけ叫ぼうが、届かないとわかっているのに声を張り上げることも。
    だからもう、諦めたはずだったのに。
    縋るように重ねた手の人差し指にほんの少しだけ力を込める。ともすれば僅かな震えにしか取れないようなそれだけで、この互いに張り詰めた空気の中では充分だった。
    後頭部から引き寄せられて、我慢できないというような荒々しさで、唇が重なる。驚く暇もないくらいにすぐさま舌が割り入って暴れ出す。
    まったく経験がないわけでもない。むしろそれなりには知っている。
    けれどーーこんなのは、知らない。
    この男からもたらされるものは、知るはずもなかったものだ。
    どこかに縋らねば、簡単に溺れてしまう。けれど、縋れるのは己を溺れさせようとしているもの、そのものだ。なんの縁もなく、海のど真ん中に放り投げられたようなものだと思った。溺れまいとあがけばあがくだけ、どんどん深みに沈んでいく。
    ようやく気が済んだのか、ブラッドリーに解放された時にはネロはもう息も絶え絶えという体だった。
    「おまえそんな下手だったか?」
    「うるっ、せぇ、よ」
    飲みかけだった酒を一気に呷る。焼けつくような度数のそれは今のネロには逆効果だった。
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    44_mhyk

    SPOILERイベスト読了!ブラネロ妄想込み感想!最高でした。スカーフのエピソードからの今回の…クロエの大きな一歩、そしてクロエを見守り、そっと支えるラスティカの気配。優しくて繊細なヒースと、元気で前向きなルチルがクロエに寄り添うような、素敵なお話でした。

    そして何より、特筆したいのはリケの腕を振り解けないボスですよね…なんだかんだ言いつつ、ちっちゃいの、に甘いボスとても好きです。
    リケが、お勤めを最後まで果たさせるために、なのかもしれませんがブラと最後まで一緒にいたみたいなのがとてもニコニコしました。
    「帰ったらネロにもチョコをあげるんです!」と目をキラキラさせて言っているリケを眩しそうにみて、無造作に頭を撫でて「そうかよ」ってほんの少し柔らかい微笑みを浮かべるブラ。
    そんな表情をみて少し考えてから、きらきら真っ直ぐな目でリケが「ブラッドリーも一緒に渡しましょう!」て言うよね…どきっとしつつ、なんで俺様が、っていうブラに「きっとネロも喜びます。日頃たくさんおいしいものを作ってもらっているのだから、お祭りの夜くらい感謝を伝えてもいいでしょう?」って正論を突きつけるリケいませんか?
    ボス、リケの言葉に背中を押されて、深夜、ネロの部屋に 523

    cross_bluesky

    DONEエアスケブふたつめ。
    いただいたお題は「ブラッドリーを甘やかすネロ」です。
    リクエストありがとうございました!
    「ええっ! ブラッドリーさん、まだ帰ってきてないんですか?」
     キッチンへとやってきたミチルの声に、ネロは作業の手を止めた。
     ブラッドリーが厄災の傷で何処かに飛ばされたと聞いたのは、ちょうど五日前の夜だった。
     北の魔法使いたちが向かった任務自体はあっさりと片が付いたらしい。しかし、あろうことか帰る途中でミスラとオーエン、そしてブラッドリーの三人が乱闘を始めてしまった。そしてその最中にブラッドリーがくしゃみで飛ばされてしまったというわけだ。
    『いつものように少ししたら戻ってくるじゃろう』との双子の見込みは外れ、未だ魔法舎にブラッドリーの姿は見当たらない。余程遠くに飛ばされてしまったのだろうか。
    「まだみたいだな。どうした? あいつに何か用事でもあったのか?」
    「えっと……実は新しい魔法を教えてもらおうと思ってたんです。ブラッドリーさんは強いから大丈夫だと思うけど……あ、魔法の話はフィガロ先生には内緒にしていてくださいね?」
    「あはは、わかったわかった。まあ心配しなくてももうすぐ何でもない顔して戻ってくんだろ。ほら、口開けてみな」
     ネロは鍋の中身をスプーンですくってミチルの方へと差し 2029

    cross_bluesky

    PROGRESSパラロイ本(ブラネロ)の冒頭部分。
    CRITICAL ERROR 鳴り響くエラーメッセージ、動かなくなるボディ。辛うじて稼働していた聴覚センサーが最後に拾ったのは、見知らぬ男の声だった。

     高層ビルの真ん中を薄紅色の花弁が舞い、眩しい光と音に溢れたネオン街──フォルモーントシティ。そこでは人間の他に、アシストロイドと呼ばれる人の手によって作られた機械たちが暮らしている。
     整備と機械化の進んだハイクラス・エリアとは違い、階級社会の底にあるワーキングクラス・エリアには治安の悪い場所も決して少なくない。法の目をかいくぐった非合法な店が立ち並ぶ中、管理者不明のアシストロイドたちはメンテナンスもされず、ただ使い捨ての道具のように各々の役目を全うすべく働かされていた。
     ──フォルモーント・シティポリスのもとに大規模な麻薬取引のタレコミが入ったのは夕方過ぎのことだった。ワーキングクラス・エリアの歓楽街の一角で、違法アシストロイドたちと引き換えに、隣接したシティから大量のドラッグが持ち込まれるという。人の形を精巧に模したアシストロイドは高値でやり取りされるのだ。特に違法アシストロイドは、人の心に取り入りやすいよう愛らしい見目をしているものが多いから尚更。
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