来栖明があけちごろうくんを育てる話⑥おかあさん。まさよしさん、ってだれ?
時には耳に当てた電話の子機を握りしめながら。時には涙と一緒に肩を揺らしながら。
定期的にその名前を呟く母さんに、それが誰なのかを尋ねてしまったことがある。
その名を口にしている時の彼女はいつも泣いていたから、それが誰であるかを聞くのは無神経どころの話ではない。
でもその時の僕はまだそんなことを考えるほどの知能がなかったから。なんでも母に聞きたがる年頃の子供だったから。だから、いつものように聞いたんだ。
今思うと、風邪を引いたとき以上に困らせてたと思う。
けれど母さんは、誤魔化すことなく、でもどこか疲れたような、諦めたような笑みで教えてくれた。
吾郎の、お父さんだよ
っ!
跳ねるように飛び起きた。
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