「嫌〜い、嫌〜い、お前なんて大嫌〜い♪」
せっかくの休日だからと、自宅のソファで本を読みながらくつろいでいたら、窓からやってきた大男、もとい五条悟、もとい恋人が先ほどから機嫌よく不穏ワードをぶつけてくる。
今日が何の日かは把握していたので「大事になりそうな、わけわからん嘘はつくなよ」と開口一番に伝えたらこのザマである。
嫌いが嘘だから逆に好きという意味。だとは分かるが、学生でもあるまいに、こうしつこく繰り返されると多少苛立ってもくるものだ。
「ずっと嫌い〜♪」
「俺は好きだよ」
「え」
「だーい好きだよ、悟」
手元の文字列から目を離さないまま、甘ったるい声で告げれば、ソファの周りをウロチョロしていた悟に本を取り上げられる。そしてそのまま膝に乗り上げられた。先ほどまでの上機嫌はどこへやら、口をへの字にして、目隠しのままだって分かるほど不満げな顔をしている。
「それはさ、狡いよ」
「大好きだよ、悟。ずっと一緒にいようね」
にっこり笑って甘言を連ねる。本当のことだし、恋人に向かって嫌い嫌い言う相手への意趣返しだ。
すると、背に手を回されてきつい抱擁。忙しい恋人の、久しぶりの香りと体温が心地良くて抱き返す。耳元で囁かれる声は低い。
「全部嘘にするつもり?」
「今日は嘘をついても良い日ではあるけど、嘘をつかなきゃいけない日じゃないし」
「は〜〜性格悪っ!嫌い!」
「うそつき」
もう余計なことを言うなとばかりに塞がれた唇は甘い。甘い、言葉だけを聞いていたい。どうせろくな死に方などできないのだから、我々は。