一度目にした瞬間から、その心はあっという間もなく容易に奪われた。
歴史の長さと精巧さを兼ねる建物が立ち並ぶ街が、雲の中を抜けて眼下に広がる。その中央にそびえ立つ塔──エッフェル塔がこの街のシンボル。古きよき伝統と、夢の未来への革新を同時に発信していく世界最先端の芸術の都・フランスのパリに、遥か遠く東の海の向こうから一機の旅客機が降り立った。
ひとあし地につければ、澄み渡る鮮やかな青天に迎えられ、初夏の乾いた風が爽やかに頬をかすめていく。おそるおそる踏み入る街は、視界に映るものすべてに興味を引かれるほど芸術美にあふれている。駅から始まり、通りに面する店の看板、ショーウィンドウ、街灯、アパルトマン、通りの反対側や少し遠くに見える美術館、公園、寺院、教会……。それらに施される装飾や彫刻に目を奪われ、心のシャッターが間に合わない。これほどの西洋文化を東の国で体感するのはなかなか難しい。この街全体がひとつの大きな美術館のようだ。想像していたのより規模の違いに圧倒される。
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