熱帯夜 ESビル七階、ニューディ事務所のフロア内をあんずは忙しなく歩き回っていた。
「あんずさん、今日は花火大会の日だ」
そこへ突然、腰に手を当てた斑が現れあんずの目の前に立ち塞がった。目を吊り上げて、怒ったような態度だ。
「……ああ、隣の町で開催されるってポスター貼ってありましたね。迂回路の看板見ました」
ワンテンポ遅れて返事をするあんずは、斑の相手をするのも億劫そうに視線を合わせることもしない。
「君は今年、花火を見たかあ?」
「はい。仕事で何度か」
「あんずさんは仕事熱心だから、花火が上がる音しか聞いてないとか、カメラ越しに見たとかいう話を聞いたんだが」
「まさか。ちゃんと見てますよ」
「目が泳いでるなあ」
「………。ちゃんと見てましたよ。設営の合間にですけど」
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