ここからガッコから帰宅して早々どうかと思うが、俺はショウと自宅に帰ってきてそのまま部屋に雪崩れ込んで部屋の鍵を閉めた。
乱雑に鞄を投げ捨て、お互いにベッドに倒れ込む。
俺は、一度だけショウと肌を交わらせた事がある。
同性だし和解したとはいえ違う族の総長同士が身体を交わらせる関係だという事は相当な衝撃事実だろう。
しかし、期待される程甘い関係であるという事は決してなく、最中も結構マウントの取り合いだったりして寧ろ辛味成分多めである。
「相変わらずがっつく事しか出来ないのかお前は」
「はあ?誘っておいてよく言うぜ」
「勘違いしてるだけだろ」
「照れんなよショウ。子供じゃねぇんだから」
「まだ未成年ろうが」
「あーもういから黙ってろ」
そう言って強引に塞がれた唇は獣みたいに噛みつかれ舌先を絡め取られる。
時折じゅうっと啜り、混ざり合った唾液を飲み込む。
もっと余韻のあるキスは出来ないものか。
とはいえ息の制限されたキスははっきりとした意識さえもぼんやりとさせる。
目を閉じて感覚を研ぎ澄ませば、服をちゃっかりと剥がし取りにかかる俺の手をショウは制止させた。
「なんだよ」
「今日はお前が下だ」
「はぁ!?なんでだよ」
「なんでもだ下は俺の性に合わない」
「そこは合えよ!ショウだけによ!!」
「つまんねぇ事こいてんじゃねぇ。とにかく今日は俺が上だ」
意味わかんねぇのはこっちだ。
自然な流れとはいえショウだって初めてのセックスの時は随分気持ちよさそうに感じていたし、満更下が嫌なわけでもなかったからすっかりその気になっていた。
なのにだ。
「下がそんなに嫌かよ?」
「……ああ、嫌だ」
「なんでだよ。…そんなに…俺とのセックス嫌いか?」
我ながらあざとくしゅんとした様子でショウに訴えかけてみれば、仏頂面のままショウが答える。
「…ああ、嫌だ」
思いの外、真面目に冷たく突き刺さる言葉が反応として返ってきて俺は唇を噛み締めた。
「……そうかよ…じゃあもう終わりだな」
半ば突き放すようにショウから離れた俺はショウの鞄を拾い本人に向かって投げ捨てる。
「すまなかったな、あの時は無理矢理抱いたりなんかして」
ああ、なんで俺はこんなに拗ねてるんだ。
いいや、拗ねているのではない。
多分これはショックなんだと思う。
勝手にショックを受けて勝手に怒ってる。
子供だと思われてんだなと思うと素直になれなかった。
「……邪魔したな」
ショウは何事もなかったかのように乱れた服を直してドアの前で止まる。
振り向きもしないまま一言。
「……今度連れて上がる時は健気で可愛げのあるgirlにするんだな」
「………」
どこか低いトーンで言い放つショウをそのまま見過ごすことが出来なくて、俺は思わず駆け出してショウの腕を掴んだ。
掴んだはいいがどう声をかけるべきか分からず手に力が篭る。
「…ごめんショウ…少し餓鬼っぽかった」
「…………」
「…俺は……嫌じゃ、ないから」
精一杯絞り出した言葉は主語が抜けていて何を伝えたいのか自分でも分からなかった。
でもこのまま行かせて仕舞えば変なわだかまりが残るだけだと悟った俺はショウを振り向かせ対面した上で改めて伝える。
「俺は…ショウとこうやって顔付き合わせて触れ合うの…嫌じゃない、からさ…寧ろ…その……好き、っていうかその……」
「…何が、言いたいんだ?」
「それは…つまり……俺は…ちゃんとショウと好き合った触れ合いがしたい!!」
「…………」
言えた。きちんと自分が伝えたい事を。
反応が怖かったが、俺はもう言ったことの取り消しはできない。
嘘は言っていない。
「……やっぱりアホなのかお前は」
「はぁ!?せっかく人が勇気出して言っ……」
言葉の途中で、俺はショウに唇を塞がれた。
自然と閉じた目の奥にショウの顔が思い浮かぶかのような穏やかなキスに俺は酔いしれた。
荒々しいキスよりも断然ショウを近くに感じられるし、息遣い一つ一つがたまらなく恋しくなっていた。
「……ショウ…」
「嫌だと言ったのは……言葉の綾で…お前が嫌だと思ってる事をやるのが嫌だっていうか」
「…うん」
「お前が嫌な事を俺も、強制したくないんでね」
「…そうだな。俺も嫌だ」
おそらく思っている事は同じなんだろうと肌で感じる。
きっと、負い目を感じていたのだと思う。
その場の成り行きとはいえ同性であるショウと肌を交えた事実を。
やっぱり、気持ちは伝え合わないと分からないと思うから。
俺は、俺達は逃げない。
「改めてだけど…俺は…ショウの事ちゃんと、好きでいたいから。だから俺と…」
恋人から始めてください。