爽やかな朝には程遠い【ツバショウ】ツバサと、所謂そういった行為の後は大体ツバサの方が先に寝落ちするパターンが多かった。
御多分に洩れず今もすやすやと鼻ちょうちんでも膨らんでそうな寝息を漏らしながら夢の中にいるツバサを置いてショウはベッドから降りた。
足音を立てないように洗面台まで顔を洗いに向かい、心なしか重い足を擦るように歩く。その音で起きてしまいそうだったが、あいにく普通に歩ける状態じゃない事に若干面倒くさささえ感じる。
ほんの数秒の距離なのに何分も歩いた気分だ。
そっと洗面所のドアを閉めて汗でベタつく顔を水で軽く洗ってからタオルで拭きながら、ショウは自分の緩んだ顔を見やる。
切長で吊り目な目は下がっていて覇気がなくアンニュイな雰囲気だ。
動きすぎたせいで濡れて落ちた髪は本来持っているショウの幼顔を顕している。
指先を自分の顔をなぞりながら口元へ下ろしていくと、しつこく噛みつかれた唇は色味を感じるほど赤かった。
ほんのりリップを塗ったような印象の唇のさらに下、首筋へと目線を落とすと、肌に散る赤い点々にショウは目を細めた。
また懲りずに色んなところに付けて回ってくれたものだ。
そんなことを思いながら服で隠れるかどうか考えていると、隣でカタリと音がした。
起きたのだろうか。
とりあえず戻ってみるか。
寝室へと戻ろうとしたショウだったが、無意識のうちに見えてしまった違う場所の赤い点々に思わず目がいった。
それはちょうど、内太腿のところにありショウはまた目を細めた。
いつの間にこんなところにも付けたのか。
再度思い返してみれば、太腿あたりで何度か痛みを感じた時があったが、それなのだろう。
「……crazyがすぎるぜ」
ぽつりとそう呟いて、ショウは勢いよく洗面所を出た。
そしてベッドで変わらず布団を蹴って寝ているツバサの腹に踵をお見舞いしてやった。
「ぐぼぁっ!いって…ぇ!!」
「やっと起きたかbeast boy」
「なんだよ、ショウかよ…ずいぶん派手な目覚ましだな」
寝起き早々蹴られて痛む腹を押さえて起き上がったツバサは髪が爆発を受けたみたいになっている上に、涎の跡が微かに口元に見てとれた。
自分にも増してだらしない顔だ。
「起きるタイミングをお知らせしてやったのサ。またお昼逃したら嫌だからな」
「まーそうだな…ここで寝るとつい、気持ち良くて寝ちまうんだよな…」
ツバサが自然と零した言葉にショウは一瞬固まってから静かに口を開く。
「…まさかここが俺のベッドだと忘れてはいないだろう?」
「……あ」
ショウの言葉にツバサもハッとしたようで照れ臭そうに頬を掻いた。
なんともむず痒い雰囲気から逃れるようにショウはまたツバサに踵蹴りをお見舞いして差し上げる爽やかなようで騒がしい朝だった。