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    せ・あーむ

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    せ・あーむ

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    小説書けるようになりたいから一月中は一日三十分小説書こーう!って決めたやつ、とりあえず五日続いたから誉めて。

    1/1/21 7:48 (628)

    寂雷がどぽもちを拾う話(元旦だから)

    時刻は午後九時過ぎ。
    患者やその付き添いの人たちが忙しなく出入りしていた昼間と違い、シンジュク中央病院は静まり返っていた。こんな時間に正面入り口から病院を訪れる人はほとんどいない。
    神宮寺寂雷は、非常灯だけ光る待合室を通り自動ドアを抜け外に出た。
    そのままいつもの通り駐車場まで歩こうとし、ふと足を止める。

    病院入り口の周りに植えてある茂みに隠すように、所々よれている段ボールが置かれていた。

    寂雷が気になったのは、その段ボールから微かに聞こえる声。
    まるで小動物のような消え入りそうな声は、子猫や子犬のそれとは少し違う。きっと夜遅くの静かな時間帯でなければ聞き逃していたことだろう。何か生き物が捨てられているのではと思い、駆け寄ってその段ボールの中を覗き込んだ。
    するとそこには、申し訳程度に水の入った小皿と、一匹の小さなもちが入っていた。

    もちとは、手のひらサイズのぽてっとした体系とまるでお餅のような質感、そして「もち!」という鳴き声が特徴的の生き物で、H歴になってからペットとして買う人が急増していた。

    しかしそのもちは、寂雷が普段見ているもちより一回り小さい気がする。
    赤茶色の髪の毛は所々泥で汚れており、小さく震える体は痩せていて翡翠色の瞳は濁っている。獣医でない寂雷も、このもちがかなり弱っているのだと一目でわかった。
    このままここで朝まで生きているかも怪しい。しかし、この時間に駆け込める動物病院など少ないだろう。

    寂雷は、震えるもちにそっと手を差し出した。

    「私の家に来るかい?」

    1/2/21 6:55 (924)

    寂雷はシンジュクディビジョンにある高級マンションの上層階に暮らしていた。この年になると縁組の話が持ち出されることも増えたが、過去に大切な助手を亡くしてからは誰かと必要以上に親しくすることもなく、ここ数年は一人で暮らしていた。

    部屋に入り、そっと段ボールを床に置く。その中で震えるもちは、少し力を入れれば簡単に潰されそうなくらいひどく痩せていた。体力もほとんど残っていないのか、少しでも段ボールを揺らすところんと仰向けに倒れてしまう。
    寂雷は虚ろな瞳でこちらを見上げるもちに向かって、優しくゆっくりと話しかけた。

    「お腹が空いているでしょうから、まずはご飯にしましょう。」

    もちの主食は人間と同じだと聞いている。辛い物や酸っぱい物などの刺激物は個体によっては拒絶してしまうが、お米やケーキなどは大体が好んで食べる。
    寂雷は、炊いてあったお米をスプーン一杯分掬い、充分に冷ましてからもちに差し出した。もちはすんすんと匂いを嗅いだ後、小さな口で少しずつ食べ始めた。よほどお腹が空いていたのだろう。もちの体の三割くらいあったご飯が、一気にその半分まで無くなった。
    人肌まで冷ましたお湯もスポイトで与えると、まるで赤子のように一心不乱に口をつけた。

    「ちゃんと食べられて、えらいですね」

    これで一先ず命を守ることはできただろう。
    しかし、不衛生な段ボールの中にいつまでも泥だらけで放置するわけにはいかない。次は汚れをとらなければ、と段ボールの中からもちを拾い上げようと手を伸ばし、ふと段ボールの隅に小さく手描きの字が書かれているのを見つけた。
    擦れているが、ギリギリ読むことができる。

    『拾ってください 名前は独歩です』

    文字を読んだ寂雷は、らしくなく静かな怒りがふつふつと湧き上がっているのを感じていた。段ボールの中に置かれた小皿を見た時から何となく察していたが、やはり捨てられたのか。先ほどご飯とお水を与えた時の様子も、いくらか人間に慣れているように感じた。今まで飼い主の家で愛されて育てられ、急に僅かな水分だけ与えられ寒い外に放置されたこのもちは、一体どのくらいの絶望を感じただろう。

    周りの人に仏とまで言われている寂雷が怒りを露にすることは珍しい。そのくらい、この不憫なもちに愛着がわいていた。

    1/3/21 9:02 (862)

    寂雷は、怒りは顔には出さず段ボールの中のもちをそっと掬いあげる。
    寂雷の手のひらにすっぽり収まった、独歩という名前のもちは、落ち着かないのか目を瞬かせ丸い手足をよじよじと不器用に動かした。

    近くで見ると、こちらを見つめる瞳は瞼に半分隠されているが綺麗な翠玉色だ。汚れを落とせば更に澄んで見えるだろう。目の下には、丸っこい顔つきには似合わない隈が濃くしみついているが、いつかこの家に慣れて、安心して眠れるようになってほしいな、と寂雷は考えた。

    お風呂場で、洗面器にシャワーでお湯をためる。
    溺れないように水位を五センチくらいに調節し、独歩の体をゆっくりお湯の中に下ろした。火傷しないように充分温度をぬるくしたが、それでもびっくりしたらしい。独歩はしばらく寂雷の手の中で、お湯から脱出しようともがいていた。

    「大丈夫、気持ちいいですよ」

    寂雷が落ち着きのある声で話しかけながら、もう片方の手でお湯を洗面器から掬い上げ独歩の体にかける。
    そのうちお湯の心地良い温度に慣れたのか、固くして震えていた体を弛緩させ、支えている寂雷の手にもたれかかる。これ幸いと寂雷は、泥と埃にまみれていた独歩の髪の毛や体を優しく洗った。

    独歩がうとうとしゆっくりとまばたきし始めた頃に、ようやく綺麗になった。

    寂雷が思った通り、目やにがとれた独歩の瞳はつぶらで、赤茶色の髪とのコントラストのおかげでより清んで見える。少し癖のある髪の手触りもさることながら、所々に瞳と同色のハイライトが入っているのにもまた目を惹かれる。
    そんな独歩が、文字通り自分の手のひらの上で無防備にこちらを見上げてくるのは何とも愛らしかった。

    ボロボロの段ボールは次の資源ごみの日に出そうと折り畳み、細々とした物を入れるために使っていた背の低いかごにタオルを敷き簡易的な寝床を作る。そこに、冷えないようにとブランケットで包んだ独歩をそっと寝かせた。

    温かいお風呂に入り、ぽかぽかの体で毛布に包まれた独歩は既に目がほとんど開いていない。

    「おやすみなさい、独歩くん。」

    寂雷は、最後にもう一度独歩の頭を撫でた。

    1/4/21 6:56 (1010)

    こうして、一人暮らしだった寂雷の家に住人が増えた。
    寂雷の温かい部屋で充分な睡眠と栄養バランスの良い食事を与えているうちに、独歩の目の下の隈も薄らぎ、拾った当初よりずいぶんと健康的になった。

    二週間も経てば、寂雷も少しずつ独歩のことが分かってきた。
    ただのご飯よりケチャップライスの方が好きだということや、大きい音が苦手で寂雷がドライヤーで髪を乾かしている間はいつも自分の寝床の毛布の中に隠れてしまうことなど。
    寂雷も、一日の勤務の終わりに独歩が迎えてくれると思わず口元がゆるむ。それくらい、独歩は寂雷の生活に癒しを与えてくれた。

    職場に連れていくことはできないので日中は家に置いていくしかないが、その代わり寂雷が仕事から帰ると寂雷にべったりになる。
    ただいま、と声をかけるともち!と元気に返事をし、食事後に日課の読書をする寂雷の肩の上によじ登り一緒にページを眺める。本の内容は理解できていないと思うが、自分を信頼してくれていることが分かる独歩の甘えっぷりが、寂雷は好きだった。

    切りの良いところまで本を読み終え、今日はこのくらいにしておきましょう、と本を閉じる。
    気が付くと独歩は、寂雷の肩の上で眠りについていた。落とさないようにそっと肩から手のひらに移動する。
    綺麗な瞳は今は瞼の下に隠れていて見えないが、その代わり舌が出しっぱなしだ。悪戯心で舌につんつんと指で触れてみると、少し眉を顰め身じろいだが、起きる気配はない。その姿があまりに無防備で、愛らしい。

    寂雷は独歩をそっと寝床に寝かせてあげた。

    ずっと一緒にいられますように、なんて柄にもなく願いながら。



    ある休日の昼、寂雷の元に荷物が届いた。
    寂雷がネット通販で注文した医学書だ。寂雷が箱の中から本を取り出していると、ふと独歩が少し離れた所からこちらをじっと見つめているのに気が付いた。

    新しい本が興味深いのか、とも思ったが、それにしてはいつもと少し様子が違う。いつもの甘えたな視線ではなく、まるで拾った当初の、警戒と怯えを織り交ぜたような表情で、体も小さく震えている。

    「独歩くん?」

    思わず寂雷は青ざめる独歩に手を差し出す。
    いつもなら、手のひらに乗って良いよという合図なのだが、それどころか独歩は必死に後ずさった。
    しばらく見つめあったのち、独歩は寂雷から目をそらし部屋の隅に移動した。

    その日はずっと独歩は寂雷と目を合わさず、部屋の隅で震えていた。



    それから、独歩の体調が著しく悪化した。

    1/5/21 6:59 (907)
    「独歩くん、ただいま」

    夕方仕事から帰った寂雷は、独歩の寝床となっている小さなかごに向かって呼びかける。
    少し前なら、よじよじとブランケットの中から這い出し、寂雷が帰ってきて来た嬉しさを隠し切れない仕草で元気にもち!と返事をしていただろう。
    しかし、ここ数日は呼びかけても何も反応がない。寂雷がそっと毛布の塊を撫でると、塊がびくっと震えたので、寝床の中にいることは間違いない。

    甘えてこなくなっただけなら、寂雷が寂しいだけで済むのだが、もっと深刻なことに独歩は食欲も落ちていた。
    拾ってばかりの頃はお腹が空いていたのか、独歩はよく食べた。体が小さい分一般的なもちよりは食べる量は一回り少ないが、それでも寂雷が与えるご飯は何でも喜んで食べた。
    しかし数日前を境に、食べる量がめっきり減ってしまった。好物だった焼き鮭の身を細かくほぐしてスプーンで差し出しても、恐る恐る口を開けて小さく齧りつくだけで、なかなか食が進まない。比較的食べられた時も、しばらくすると戻してしまうことが多々あった。独歩の体重はすっかり出会った頃まで落ちてしまった。

    その上睡眠も満足にとれていない。
    ある日寂雷が深夜に帰宅し、独歩の様子を見るためにそっとの寝床の毛布を捲ると、怯えた顔の独歩と目があった。前は寂雷の手のひらの上でもすやすやと眠れていたのに、最近は深く眠りについているところを全く見ていない。

    どこか悪いのではと思いいくつもの動物病院を訪れてみたが、独歩を診察した獣医は皆、不安やストレスによる不調だと診断した。前の飼い主の事を思い出しているのだろうか、とか、この家は居心地が悪いのだろうか、など考えを巡らせてみたが、解決策は思い浮かばない。
    結局、時間が解決してくれるという獣医の言葉を信じて、睡眠薬や栄養剤を与えることしかできなかった。

    寂雷が独歩を拾ってひと月経ったある休日の朝、心なしか独歩はいつもより調子が良かった。
    相変わらず食べる量は少ないが、昨夜は二、三時間浅い眠りにつくことができたようだ。寂雷は、久しぶりに独歩を手のひらにのせた。

    「独歩くん、今日はお散歩に行こうか」

    虚ろな目でこちらを見上げる独歩は、思ったよりもずっと軽かった。
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    せ・あーむ

    DONE
    ホワイトデー イベスト感想瑞希ちゃんがすっごく可愛い!!!!ホワイトデーのお返しをするためにわくわくしながら友達誘って、色々拘りながら飾り付け選んで、子供たちと仲良く一緒にチョコを作って、一人一人心を込めて作ったチョコをみんなに渡して、楽しそうで何よりだよ!!!瑞希ちゃんがこんなに楽しそうなの久しぶりじゃない?彰人と一緒にチョコレートファクトリーに行けて嬉しそうな瑞希も、チョコレートファクトリーであった事を楽しく杏達に話す瑞希ちゃんも、すっごく楽しそうで幸せそうで可愛かった……好き………。

    ただ…………ボクのあしあとイベント読んだ後だと瑞希がどこまで本気で楽しんでるのかおぢさん分からないヨ!!あなた去年の誕生日にみんなのこと「知り合い」って言ってたじゃない??ニーゴのみんなとも距離を置こうとしてたじゃない??いつからちゃんと「友達」って言えるようになったり友達をどんどん遊びに誘うようになったの??ボクのあしあとで「今を楽しまないと」って言ってたし、今のうちにみんなと思い出を作るために焦って無理して楽しんでないか心配になっちゃうよ。でも、ニーゴのみんなはともかく杏や類はずっと一緒にいられるんだから、思い出作りを急ぐ必要は無いと思うんだけど、瑞希って杏や類とはずっと友達でいられると思ってる…?どうなの…?せーちゃんも言ってたけど瑞希が明るい場面を全部瑞希のモノローグ付きで見たい。一見すごく楽しそうだけどどこかで「来年はもうチョコを渡せないかもしれないし…」とか考えてそうで怖いよ。過去の瑞希のイベントは結構瑞希の悩みが垣間見えるモノローグがあったけど、今回のイベントはモノローグもほぼ無くて楽しさ100%!って感じだったから瑞希がどのくらい本気で楽しんでるのかよくわからなくて心配だよ。いや、でも案外本気で楽しんでいるのかもしれない。ボクのあしあとで、秘密がバレるまではみんなと一緒にいられることが分かったんだし、秘密がバレる気配がないうちは結構心から楽しんでるのかもしれない。わかんない。
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    せ・あーむ

    DONE
    いつか絶望の底からイベスト感想イベストで一番気になったのがさ、最終話で瑞希が、えななんがニーゴに入ったころは今よりずっとイライラしてた~みたいなこと言ってたじゃん?ってことは作業中にえななんが「全然違う!こんなんじゃない!」みたいなこと言ってたんだろうけど、今の瑞希なら「あ、えななんまた怒ってる~!」って軽く流せると思うけど、中学生のあの不愛想で不機嫌そうな瑞希にそれができた??瑞希がニーゴに加入したのは中学三年生のどこかだけど、初対面の先輩に名前を聞かれて「さぁね」って返したり屋上から他の生徒を見下ろして「馬鹿みたい」って言ってた冷めた感じの瑞希はニーゴに入った当時どんな感じだったの??ニーゴに入ったら何だかやけにイライラしてる人が画面の向こうにいて、瑞希大丈夫だったか!??大体初対面の挨拶も今の瑞希なら「初めまして!Amiaだよ~!」みたいに元気にすると思うんだけど、中学生の瑞希はどうやって自己紹介したの??ストーリー読んだ感じまふゆと奏と絵名はあの頃からちょっと変わったよね~的なことが言われてたけど瑞希はそれが無かったから、初めから今みたいな明るいAmiaなんだとしたら、あの類と屋上で出会った時の冷めた感じから一転明るい口調になったってことで、これもし後で瑞希と絵名がニーゴに加入した時の話をイベストでするとしたらあの短髪の瑞希ちゃんが明るい声で話してるところが見れるかもしれないってことで、えっそれは是非見たい……奏が「絵名と瑞希が入った時の話は長くなるからまた今度」って言ってたってことは、イベストにできるほど長いんですよね!!ここも今度イベストでやってくれ~~!!
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