トラキア
hashi22202
DOODLEひろず、アスクに来てから結構長い時間が経ったっぽいトラキア父娘+ファたそのエイプリルフールの話。アリアル成立寸前。こういう関係に落着してくれたらなあと思います。
日が、いつの間にか高くなった。
温んだ大気は柔らかく、胸郭深くまで吸い込みながら、郷里とのあまりの違いに、ときおり物寂しくなりもした。春たけて野の緑が濃くなれば、それはなおさらのことだった。
アスクは彼にとって異邦だが、しかしこうも長いこと暮らしていると、気に入りの場所とはいかないまでも、所定の位置ができるものである。中庭の、ライラックの横のベンチがそれだった。人通りも稀なところで、こういう日にひとり本を読むにはちょうどよい。ツバメが高く飛んでいて、ああいい日和だな、と、こんな男ですら思った。枝では、ようよう蕾が膨らんでいる。数日もすれば、溢れるばかりに花ひらくことだろう。
ふとめずらしく他人の足音がして、トラバントは反射的に目を向けた。視線の先でアルテナが、微かに笑って手を振った。
4765温んだ大気は柔らかく、胸郭深くまで吸い込みながら、郷里とのあまりの違いに、ときおり物寂しくなりもした。春たけて野の緑が濃くなれば、それはなおさらのことだった。
アスクは彼にとって異邦だが、しかしこうも長いこと暮らしていると、気に入りの場所とはいかないまでも、所定の位置ができるものである。中庭の、ライラックの横のベンチがそれだった。人通りも稀なところで、こういう日にひとり本を読むにはちょうどよい。ツバメが高く飛んでいて、ああいい日和だな、と、こんな男ですら思った。枝では、ようよう蕾が膨らんでいる。数日もすれば、溢れるばかりに花ひらくことだろう。
ふとめずらしく他人の足音がして、トラバントは反射的に目を向けた。視線の先でアルテナが、微かに笑って手を振った。
hashi22202
MOURNINGほんのりオカルトにありそうな「時空の食い違いで死んだはずの人に会う話」で、戦前のトラキア王と戦後の息子さんがなんでか出会う話。同じ話なんですが、前半は息子さん視点で、後半はお父さん視点です。ほんのりアリ→アル(779年)
朝、執務室の扉を開けたら、いないはずの父がいた。
”父”は相変わらず顰めっ面をして書類を読んでいたが、ふと顔を上げて、
「なんだ、おまえか」
と、ぼそりと言った。どう返していいかわからなかったので、
「はい、私です」
と、つい間抜けなことを言うと、そうか、とだけ言われた。”父”はしばらく目の間を揉んでから、少しばかりこちらの顔を眺めていたが、やがて書類に視線を戻した。あまりにも日常的な動作であったから、アリオーンには何も訊けなかった。そうして息子の見ている先で、”父”は長々とため息をついた。
「相変わらず勝手を言う」
まったくあの馬鹿は。そう言って”父”は、書類に署名をしたためた。それから、もう一度、やはり深々と息をついた。そうしてため息混じりに、いくつかの決裁を片付けていった。その苦り切った様子が、アリオーンにはめずらしかった。その”父”の、奇妙に悄然とした姿は、あのときのことを思い出させた。
7699朝、執務室の扉を開けたら、いないはずの父がいた。
”父”は相変わらず顰めっ面をして書類を読んでいたが、ふと顔を上げて、
「なんだ、おまえか」
と、ぼそりと言った。どう返していいかわからなかったので、
「はい、私です」
と、つい間抜けなことを言うと、そうか、とだけ言われた。”父”はしばらく目の間を揉んでから、少しばかりこちらの顔を眺めていたが、やがて書類に視線を戻した。あまりにも日常的な動作であったから、アリオーンには何も訊けなかった。そうして息子の見ている先で、”父”は長々とため息をついた。
「相変わらず勝手を言う」
まったくあの馬鹿は。そう言って”父”は、書類に署名をしたためた。それから、もう一度、やはり深々と息をついた。そうしてため息混じりに、いくつかの決裁を片付けていった。その苦り切った様子が、アリオーンにはめずらしかった。その”父”の、奇妙に悄然とした姿は、あのときのことを思い出させた。
hashi22202
MOURNINGわしはもう疲れたのだの後、最後の戦いに出るトラキア王の話(一人称わしは作っている派)
名前が呼び上げられたとき、彼らは誇らかに頷いた。トラキアでも、屈指の古兵である。懐かしい男たちだった。慕わしい男たちだった。これまで、必死になってトラキアに尽くしてくれた者たちだった。ーーしかしだからこそ、彼らには生存が許されなかった。彼らの穂先は、いつも血で汚れていた。特に、北トラキアの男の血で。
出撃の意味を、彼らは最期まで理解することがないだろう。だから彼らはこの本土決戦という重要な局面で、王の直属として起用されたことに、輝かしい顔を見せていた。いつもそうだった。我らが王、我らが希望、我らが祈り。あらゆる苦難と汚辱に塗れながらも、ずっと彼らは眩い瞳のまま、おのれを見つめていた。いつかこの王が、この国を救ってくれるのだと。いつか報われる日が来るのだと。頽れることなく、貧困にも、惨めにも俯くことなく、誇りをもって前を見据えていた。彼らの、輝かしくつつましい未来を胸に。
1494出撃の意味を、彼らは最期まで理解することがないだろう。だから彼らはこの本土決戦という重要な局面で、王の直属として起用されたことに、輝かしい顔を見せていた。いつもそうだった。我らが王、我らが希望、我らが祈り。あらゆる苦難と汚辱に塗れながらも、ずっと彼らは眩い瞳のまま、おのれを見つめていた。いつかこの王が、この国を救ってくれるのだと。いつか報われる日が来るのだと。頽れることなく、貧困にも、惨めにも俯くことなく、誇りをもって前を見据えていた。彼らの、輝かしくつつましい未来を胸に。
hashi22202
DOODLE戦後10年後ぐらいの息子さん、トラキア城にて息子さんは普通に復帰してトラキア復興をしていると言う前提です
ちょっとだけ捏造キャラが出ます
最後の書類に署名をして、アリオーンは伸びをひとつした。窓の外の陽は未だ高く、影も伸び倦んでいる。春にしては暖かな日で、だから窓の玻璃越しに、温む気配が多分にした。なんとなく身のうちがそわついて、アリオーンはもう一度伸びをした。
めずらしく予定が空いていたから、なんとなくアリオーンは城内を散策しようと思い立った。このところ運動不足が続いている、動いておくのも悪くない。だから長い足を動かして、ざくざくと歩いて行った。おや、花が咲いたな。この樫もずいぶんと伸びたものだ。そんなことをとりとめなく考えているうちに、アリオーンの足は城の一角、人のほとんどこない裏手の方へと向いた。変わらず大きな椎の木が、石造りの壁に、厚い影を投げている。トラキアの城にはこのような、食える実をつける樹木がよく植えられていた。ほんとうに実用的な、無骨な城だった。ーー歴代の主人のように。
1830めずらしく予定が空いていたから、なんとなくアリオーンは城内を散策しようと思い立った。このところ運動不足が続いている、動いておくのも悪くない。だから長い足を動かして、ざくざくと歩いて行った。おや、花が咲いたな。この樫もずいぶんと伸びたものだ。そんなことをとりとめなく考えているうちに、アリオーンの足は城の一角、人のほとんどこない裏手の方へと向いた。変わらず大きな椎の木が、石造りの壁に、厚い影を投げている。トラキアの城にはこのような、食える実をつける樹木がよく植えられていた。ほんとうに実用的な、無骨な城だった。ーー歴代の主人のように。
hashi22202
DOODLEひろず、初詣する召喚師とトラキア王の話完全におっさんリハビリ話である
CPではないです
初詣、行きませんか。
召喚師からの申し出に、トラバントは少々眉根を寄せた。トラバントも君主であった以上、神事に全く縁のなかったわけではない。トラキアは不毛の地で、民はいつも貧しさに疲弊していたが、しかし神に祈ること、乏しいながらも収穫を感謝することは、やはり定例のものであった。そうしてつつましい祭りにはしゃぐ民のことを、彼は目を細めてながめていた。そんな素朴な笑顔を見るたびに、何があっても彼らを幸福にしてやろうと思っていた。ーーたとえその道が、血に塗られていたとしても。
しかしその道は、中途で終わっていた。その結果や先行きに、トラバントはまだ折り合いがつけられていない。ゆっくり考えろ。どうせ時間は山ほどあるし、おのれの決断が遅れて苦しむ民もいない。そんなふうに考えながらも、彼は罪滅ぼしがてらアスクの民のために槍を振るっているのだが、だからこうして、異邦の神事に誘われるのは、彼にとって予想もしないものだった。
2020召喚師からの申し出に、トラバントは少々眉根を寄せた。トラバントも君主であった以上、神事に全く縁のなかったわけではない。トラキアは不毛の地で、民はいつも貧しさに疲弊していたが、しかし神に祈ること、乏しいながらも収穫を感謝することは、やはり定例のものであった。そうしてつつましい祭りにはしゃぐ民のことを、彼は目を細めてながめていた。そんな素朴な笑顔を見るたびに、何があっても彼らを幸福にしてやろうと思っていた。ーーたとえその道が、血に塗られていたとしても。
しかしその道は、中途で終わっていた。その結果や先行きに、トラバントはまだ折り合いがつけられていない。ゆっくり考えろ。どうせ時間は山ほどあるし、おのれの決断が遅れて苦しむ民もいない。そんなふうに考えながらも、彼は罪滅ぼしがてらアスクの民のために槍を振るっているのだが、だからこうして、異邦の神事に誘われるのは、彼にとって予想もしないものだった。
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シアルフィ オイフェ
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ユングヴィ ファバル
ヴェルダン レスター
ヴェルトマー アーサー フィー
フリージ ティニー(セティ恋人)
エッダ セティ
ドズル ヨハン ラクチェ
シレジア コープル
アグストリア デルムッド アレス リーン
トラキア リーフ ナンナ アルテナ フィン ハンニバル