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    バング

    スドウ

    TRAINING【主→明】シルバーバングルを買ったぺごの小話
    文体の舵取り練習問題3-2
    結局見られなかったけど※名前は来栖暁
    ※700文字に達するまで一文で書く


     来栖暁が手に握りしめている物の正体とは紐であり、その先にはえらく小ぶりな黒い袋が繋がっていて、電車の揺れにつられる様は振り子のようだし、さらさら手触りが良いのはまるでチョコレート菓子の包装のようだとも思ったが、そんな可愛いらしいものでは決してなく、表面に赤色で印字されるのは、テレビCMで幾度と見たことがあっても、今まで――暁の17年の人生で――一度も関わることがなかった宝石店の名前で、数ヶ月前に初めて店内へ足を踏み入れた理由はまさしくきまぐれであったが、そんな過去の自分のきまぐれを感謝し、そして近い未来の自分――数時間後か数日後か――が抱くだろう、軽くなりすぎた財布への嘆きに詫びるが、どの暁も決して後悔しないことはよくわかっていて、このために数ヶ月頑張ってきたんだよなと、うんうん頷き讃えることで自己肯定感を高め、一介の高校生が買える代物でないと語る店員の冷ややかな瞳を記憶から追い出しそうとして、でも店員の予想をひっくり返してやったのは小気味良かったと、記憶の引き出しにいそいそとしまい直してから、袋の中身に思いを馳せれば、靴の爪先で床を叩いて踊りたいような、かと思えば、その場でうずくまって髪をぐちゃぐちゃかき回したいような、はたまた、いつでも一緒・どこでも一緒な鞄の中の相棒が呆れ果てるまで心の内を聞いてほしいだとか、複数の仮面を付け替えるかの如く、感情は忙しなく巡り、そしてそのどれもが一人の男の姿を想って起こることだから性質が悪く、そんな彼の半袖シャツから伸びた腕の先の――無防備な手首に銀の細輪が絡んだ光景を思う度、絶対似合うし、何より俺が見たいからと、あまりの押しつけがましさに我ながら驚くが、この贈り物に相手がどんな顔をするのか興味があるのも本当で、次はいつ会えるだろうかと、車内広告に印字された「明智吾郎」の名を視線でなぞり上げた。
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