月に囚われた男
ninosukebee
MOURNING『月の裏側に咲くひなぎくの下には』サンウクがいっぱい。月に囚われた男パロディ、SFジェホサンやおいSS(に収まらなかった)
没供養、推敲できてませんごめんなさい基地を遠く離れたローバーに搭載されたナビゲーターは、先程から『サラン採掘地区外に出ます』としきりに警告している。しかしサンウクの隣でハンドルを握るジェホンは、ためらうことなく一心にローバーを走らせた。はたして通常活動区域を脱出したローバーはなにごともなかったかのように沈黙し、そこでようやくジェホンがアクセルペダルから足を離す。
「ルナ社の月面管理区域を出ました。これで彼らに知られることなく地球との長距離間通信が可能です。さあ、どうぞ」
ジェホンに促され、サンウクはおそるおそる携帯通信機器の電源を入れた。たしかめるように、ゆっくりと番号を打つ。指が覚えきっているそのナンバー、サンウクの育った孤児院、懐かしきグリーンホームを思って。震える指で最後のボタンを押す。数コールの後、若い女性の声が応答した。
「はい、こちら児童養護施設グリーンホームです。ご用件をお伺いします」
「あ、——」
記憶にあるものより幾分大人びて聞こえたその声に、咄嗟に息が詰まるのを、サンウクは堪えられなかった。モニターに映った女性の顔にかつてともに暮らした少女の面影を見て、思わず画面に手を伸ばす。
「あの、もしもし? 6330