DROPS
chimi_no_rabai
PAST【2022.04発行「drops」より】凍土エルネスト+凍土パスカル
(再録本の再録……)
雪解けのように 一目その姿を見て、厳しくも美しい故郷エスカトルそのものだ——そう強く感じた。
方舟にやって来たのは巨神戦役の英雄であり、エスカトルの先代族長でもある、つまり僕の父だ。
その報せは瞬く間に方舟中へと広まった。
(父上が、やって来た……)
喜ばしい事であるはずなのに、なぜか心にどんよりと重たいものが広がる。とにかく気持ちを落ち着けたくて向かった屋上庭園、そこで父の友人だったというフーゴから背中を押してもらった。
『僕から見たら、君たちは親子そのものさ』
父をよく知る彼が言うのなら、そうなのだろう。
エントランスには人集りができていた。その中心にいる男の頭には、僕と同じ冠が添えられている。
族長の証、僕にとっては重くて煩わしくて仕方なかったそれも、父の頭上ではしっかりと輝いているように見えた。
1433方舟にやって来たのは巨神戦役の英雄であり、エスカトルの先代族長でもある、つまり僕の父だ。
その報せは瞬く間に方舟中へと広まった。
(父上が、やって来た……)
喜ばしい事であるはずなのに、なぜか心にどんよりと重たいものが広がる。とにかく気持ちを落ち着けたくて向かった屋上庭園、そこで父の友人だったというフーゴから背中を押してもらった。
『僕から見たら、君たちは親子そのものさ』
父をよく知る彼が言うのなら、そうなのだろう。
エントランスには人集りができていた。その中心にいる男の頭には、僕と同じ冠が添えられている。
族長の証、僕にとっては重くて煩わしくて仕方なかったそれも、父の頭上ではしっかりと輝いているように見えた。
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PAST【2022.04発行「drops」より】破壊者とイロンデール
ネコチャン 方舟内、円卓の間。ここでは本来交わることのない無数世界の破壊者同士が顔を合わせる。クロウ、ヴァローナ、コルネイユ、ウーヤがたわいもない話に花を咲かせていた。
「ねえねえ! 誰かイロンデール見てない?」
そこに現れたのは、シュカだ。
「いつもふらっとどこかに行っちゃうんだから!」
何やら不満げにその頬を膨らませている。
「まるで猫ちゃんの話みたいに聞こえるわね。イロンデールは秘密主義だもの。クマちゃんもそう思わない?」
ヴァローナはいつも傍らに置くぬいぐるみに——、いやクマちゃんにもそう問いかける。
ヴァローナも「クマちゃん」を始め秘密が多いが、イロンデールもその出自など明かされていないことが多い。
「確かに、こちらから構えば噛みつかれるが、放っておくと機嫌を損ねるからな」
1458「ねえねえ! 誰かイロンデール見てない?」
そこに現れたのは、シュカだ。
「いつもふらっとどこかに行っちゃうんだから!」
何やら不満げにその頬を膨らませている。
「まるで猫ちゃんの話みたいに聞こえるわね。イロンデールは秘密主義だもの。クマちゃんもそう思わない?」
ヴァローナはいつも傍らに置くぬいぐるみに——、いやクマちゃんにもそう問いかける。
ヴァローナも「クマちゃん」を始め秘密が多いが、イロンデールもその出自など明かされていないことが多い。
「確かに、こちらから構えば噛みつかれるが、放っておくと機嫌を損ねるからな」
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PAST【2022.04発行「drops」より】破壊者とイロンデール
いいイロンデールの日 今年もまた、やってきた。
ここ数日、何処となく落ち着かない方舟を見渡して、イロンデールはそう思った。
「逃げないでちゃんと待ってなさいよ!」
朝、食堂で会うなりそう言ってきたのはシュカ様だった。誰が、何から、なのか、全く詳細を欠いた言葉である。しかし、その言葉で俺は今日行われる何かを確信した。
ここに集まる連中は、何かと祝い事を好む。複雑に世界が入り組んだここでは、各々が自分の世界の祭りや祝い事を持ち込み、あれこれ理由をつけて一騒ぎしている。祭りは嫌いではないし、神事にも馴染みが深い。誰かが祝われる姿を見るのも悪くないと思う。しかし、それが自分のこととなれば、話は別だ。
そもそも、俺に誕生日なんてものはない。大昔、それこそサイラスに拾われてすぐの頃は数え年だなんだと言って正月に祝ってもらったような気がしなくもないが、そんなことも記憶の彼方だ。だから、正直祝われるのは慣れていない。どんな顔をしていいのか分からない。
1763ここ数日、何処となく落ち着かない方舟を見渡して、イロンデールはそう思った。
「逃げないでちゃんと待ってなさいよ!」
朝、食堂で会うなりそう言ってきたのはシュカ様だった。誰が、何から、なのか、全く詳細を欠いた言葉である。しかし、その言葉で俺は今日行われる何かを確信した。
ここに集まる連中は、何かと祝い事を好む。複雑に世界が入り組んだここでは、各々が自分の世界の祭りや祝い事を持ち込み、あれこれ理由をつけて一騒ぎしている。祭りは嫌いではないし、神事にも馴染みが深い。誰かが祝われる姿を見るのも悪くないと思う。しかし、それが自分のこととなれば、話は別だ。
そもそも、俺に誕生日なんてものはない。大昔、それこそサイラスに拾われてすぐの頃は数え年だなんだと言って正月に祝ってもらったような気がしなくもないが、そんなことも記憶の彼方だ。だから、正直祝われるのは慣れていない。どんな顔をしていいのか分からない。