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    (仮)

    こえ🏔

    PROGRESSエヴァとチレッタ
    5月に出す本の冒頭部分(仮)です
    Queen of Solitude 一面の銀世界、そう言えば美しい。だが北の国の自然は、万物に牙を剝く獣のごとく凶暴であった。
     真っ白な雪が、一年のほとんどを通して大地を覆い尽くしている。この国は、春と秋を知らない。雪の下に眠っていた青い草が、わずかに太陽の光を見る短い夏が終われば、すぐにまた冬が襲ってくる。分厚い雲が垂れ込めて空が白く煙り、冷たい風が吹き荒ぶと、人々はふたたび永遠のように長い冬が訪れたことを知る。はらはらと舞っていた雪は、いつの間にか勢いを増し、際限なく大地に降り積もる。草も花も、山も村も等しく白に覆い隠され、しずかに冷たい凍雪のなかへ埋もれていく。
     ただ、北の国の雪は深々と降り積もるだけではない。次第に威力を増していく強い風に雪が乗り、吹雪となって一帯を襲う。吹雪は、この国でもっとも恐れられているもののひとつだ。それなのに、北の国では一年のうちで吹雪の日がもっとも多い。すでに堆く雪が積もった真っ白で冷たい大地に、激しく氷の粒が吹きつけるさまは、暴力的と形容するに相応しい。風の音は、まるで猛獣の咆哮のようだ。吹雪は、あらゆるものの命を奪っていく。人間にも、魔法使いにも、等しく猛威を振るうのだ。そんな国で、人がひとりで生きていくことはできない。魔法使いの庇護のもと、彼らの機嫌ひとつで命が失われる恐怖に怯えながら、ひっそりと暮らさなければならない。
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    mochikuinee

    PROGRESS3/17 俺の兄者の新刊「眠れぬ夜に一服」のサンプル(仮)です。
    眠れぬ兄者とそんな兄者を見守る弟が夜な夜な茶を飲む話です。全年齢にしようか、成人向けにしようかまだ悩んでいます。
    (膝髭)眠れぬ夜に一服 身動ぐ気配がする。
     既に灯りは落とされ、真っ暗闇に包まれた部屋の中。布団を二組繋ぐように敷いて仰向けになった膝丸は暗闇に小さく漏れる衣擦れの音を聞いていた。
     隣に横たわるのは兄の髭切だ。すっかり布団に包まってしまっていて見えないが、寝ているのか、それとも眠れないのか、枕へ頭を擦り寄せる音や掛け布団の中で手だか足だかを僅かに動かす音が微かに聞こえてくる。寝ているのであれば随分と騒がしい夢を見ているのだろうが、膝丸が耳を澄ますと時折ため息のように重たい呼吸が聞こえてくるので、恐らく眠れないのだろう。
     髭切には時折こうして眠れない夜があるらしい。膝丸が初めにそれに気がついたのは、遠征から帰ってきた日の夜だった。帰りは夜になると伝えてあったので、てっきり先に寝ているものかと思っていた兄が、膝丸が寝る準備をしていると突然むくりと起き出してきたのでぎょっとした。起こしてしまったかと焦る膝丸に、髭切は「なんだか寝付けなくてね」と静かに笑ったので、それはこれ以上膝丸が気にしないようにという髭切の優しさかと思っていたのだが、そういうことが二、三度続いてようやく、ただ本当に寝付けない日があるようだと気がついた。別に日常的に眠りが浅いとかそういうわけではないらしい。一度寝てしまえば、そのあとは朝までぐっすりと寝ているし、更にいうならば別に不眠症というわけでもないようだ。きちんと眠れる日の方が多い。けれど時折こうして眠れない日がある。理由は髭切自身にもよくわからないと聞いているが、体に異常があるということはない。手入れをしても改善するわけでもなく、こうして気まぐれのように不意に眠れなくなるのだそうだ。ただ近くで見ている膝丸が思うには、雨の日の前であったり、朝晩の寒暖差が続いたりとそういう時に眠れなくなっているように思えた。季節の変わり目などは特に、膝丸でも身体の僅かな違和感を感じたりするのだ。そういう違和感が髭切へ眠れないようにいたずらするのだろうと考えることは容易である。
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