psycho
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TRAINING11/19ワンライお題【上司・録音】
縢くんと仕事終わりに喋ってる狡噛さんが、佐々山のことを思い出したり、宜野座さんとのことを考えている執監です。
過去と終わり ギノが俺の上司になったのは、全てこちらの至らなさによるところが大きい。もし俺が執行官堕ちなどしなければ、彼はいつまでも同僚であり、親友であり、恋人であっただろうから。それでも、そんなに大切な人と思っていたくせに、譲れないものがあると彼を苦しめたのは他でもない俺だった。情けないことだ、あれだけ愛していると言ったくせに、俺はかつての部下だった、憧れてやまなかった、刑事らしい刑事であった猟犬が残した事件に今も夢中になっているのだから。犯人という亡霊に夢中になっているのだから。
しかし、それでも、ギノの鋭い視線を受ける度に、こちらを傷つけているように見えるくせに自分が傷ついているあの視線を受ける度に、俺はどうしてもあの本当の自分を見せずに生きている彼を愛おしく思うのだった。狡噛、狡噛と俺の名を呼んでくれたあの青年のことを、自分が取りこぼしてしまったものの大きさにおののくのと同時に、彼の秘めた優しさを愛おしく思うのだった。
3758しかし、それでも、ギノの鋭い視線を受ける度に、こちらを傷つけているように見えるくせに自分が傷ついているあの視線を受ける度に、俺はどうしてもあの本当の自分を見せずに生きている彼を愛おしく思うのだった。狡噛、狡噛と俺の名を呼んでくれたあの青年のことを、自分が取りこぼしてしまったものの大きさにおののくのと同時に、彼の秘めた優しさを愛おしく思うのだった。
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TRAINING11/05ワンライお題【文化祭・縁】
何十年かぶりに復活した文化祭で映画を見る狡宜のお話です。
the plup クラブ活動すらない現代の高等課程で、その目玉のような学園祭を復活させようという動きは、どういうわけか数年に一度起こるのだという。それは考査に向けて忙しい生徒を除いての話らしいのだが、まだ人生の全てを決めるそれには関係のない俺も、やはりというかなんというか、皆で一つの何かを成し遂げるという行事には興味が持てなかった。
けれど、狡噛はそうではなかった。そして学年の中心にいる狡噛が心動かされるものには、みんなが心動かされたのだ。
結果的に狡噛を含めた数人が動き、教師の黙認のもと、文化を尊んだらしい秋のこの時期に、シビュラシステムに違反しない限りで前世紀のそれを模倣することになった。とはいえ、それらはフードプリンターで作った菓子を喫茶店方式で売るとか、不用品を持ち寄ってバザーをするとか、芸術家志望の学生が記念にコンサートをするとかの、ごくごく気楽なものだった。もちろん公式の行事ではないため参加しないでも許されたから、俺はその日を勉強に充てることにした。図書室にはそんな生徒も多くいて、だから俺はあの特別教室の中で浮かなかった。外のざわつきは気になったけれど、集中すればすぐに忘れてしまった。忘れたかったのもある。皆に囲まれている狡噛を見るのが、少しつらかったのもある。でも、そんな俺を連れ出した人間がいた。もちろん、狡噛である。俺のたった一人の友人で、親友で、縁があってつい最近恋人になった男が、また俺を外に連れ出してしまったのだ。
3562けれど、狡噛はそうではなかった。そして学年の中心にいる狡噛が心動かされるものには、みんなが心動かされたのだ。
結果的に狡噛を含めた数人が動き、教師の黙認のもと、文化を尊んだらしい秋のこの時期に、シビュラシステムに違反しない限りで前世紀のそれを模倣することになった。とはいえ、それらはフードプリンターで作った菓子を喫茶店方式で売るとか、不用品を持ち寄ってバザーをするとか、芸術家志望の学生が記念にコンサートをするとかの、ごくごく気楽なものだった。もちろん公式の行事ではないため参加しないでも許されたから、俺はその日を勉強に充てることにした。図書室にはそんな生徒も多くいて、だから俺はあの特別教室の中で浮かなかった。外のざわつきは気になったけれど、集中すればすぐに忘れてしまった。忘れたかったのもある。皆に囲まれている狡噛を見るのが、少しつらかったのもある。でも、そんな俺を連れ出した人間がいた。もちろん、狡噛である。俺のたった一人の友人で、親友で、縁があってつい最近恋人になった男が、また俺を外に連れ出してしまったのだ。
haishima_ryo
PAST蘭カミュレンでPSYCHO-PASSパロ。レン編だけ公開しています。
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ピクスペ
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【蘭カミュレン】トリニティースター 朝露に濡れた葉がささやかな風に揺れ、葉先から雫を垂らす。
土に根付いた幹の表面は、微かな木漏れ日を反射させスパンコールを纏ったように煌めいている。
時折、木々達の葉が囁く。
苔むした匂い、腐葉土の香り、澄んだ空気を肺に送る。
神宮寺レンは、鼻歌を奏でているときだけ森の中に居た。
手には鋼鉄の中に潜む《神託の巫女》が握られていようとも、レンの精神は夜が明けたばかりの森の奥へと誘われるのだ。
歌はいい、こんなにも心安らぐ。自分だけの居場所を作ってくれる。
たとえ法に否定されようとも。
《シェパード1からハウンド5へ。もうすぐ積み荷の確認がとれる。……聞いておるのか》
無線から流れる荘厳な声によって、レンの意識は精神の森から腐敗臭のするスラムの路地裏へと引き戻された。
12679土に根付いた幹の表面は、微かな木漏れ日を反射させスパンコールを纏ったように煌めいている。
時折、木々達の葉が囁く。
苔むした匂い、腐葉土の香り、澄んだ空気を肺に送る。
神宮寺レンは、鼻歌を奏でているときだけ森の中に居た。
手には鋼鉄の中に潜む《神託の巫女》が握られていようとも、レンの精神は夜が明けたばかりの森の奥へと誘われるのだ。
歌はいい、こんなにも心安らぐ。自分だけの居場所を作ってくれる。
たとえ法に否定されようとも。
《シェパード1からハウンド5へ。もうすぐ積み荷の確認がとれる。……聞いておるのか》
無線から流れる荘厳な声によって、レンの意識は精神の森から腐敗臭のするスラムの路地裏へと引き戻された。
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TRAINING10/29ワンライお題【木枯らし・ふわふわ】
東京で事件を解決した後ホテルに泊まった狡噛さんと宜野座さんが、ノナタワーを見て縢くんを思い出すお話です。外外です。
君を喪う 木枯らし一号が関東に吹いた時、俺たちはたまたま公安局との合同捜査で現地にいた。そんな日に懐かしい面々との再会もそこそこに俺たちは仕事に向かうことになったのだが、その任務については守秘義務があるし、霜月もいい顔をしないだろうからここでは割愛しておこう。
ただ、俺たちに割り振られたのは厄介な仕事だったことは確かだ。だからこそ行動課が呼ばれたのは分かっていたが、街中や廃棄区画を走り回らされたし、慎導らとともにドローン頼りでない、熱心な聞き込みまでやらされた。そのおかげで無事犯人は捕まり事件は解決し、俺と狡噛は今、騒がしい喧騒が消えた夜の東京で、霜月がとってくれたホテルにいる。
てっきり潜在犯である俺たちは執行官官舎にでも押し込められると思ったのだけれど、外務省とパワーゲームをする公安局は俺と狡噛、そして須郷を他省庁の特別捜査官であることを重視したのだろう。その結果がこのホテルなのだろうと、俺はいやに豪華なアメニティを見て思った。公安局にツテを持つ入国者が開いたこのホテルは、嫌味なくらい何もかもが丁重で重厚感があり、そして高級だった。
2761ただ、俺たちに割り振られたのは厄介な仕事だったことは確かだ。だからこそ行動課が呼ばれたのは分かっていたが、街中や廃棄区画を走り回らされたし、慎導らとともにドローン頼りでない、熱心な聞き込みまでやらされた。そのおかげで無事犯人は捕まり事件は解決し、俺と狡噛は今、騒がしい喧騒が消えた夜の東京で、霜月がとってくれたホテルにいる。
てっきり潜在犯である俺たちは執行官官舎にでも押し込められると思ったのだけれど、外務省とパワーゲームをする公安局は俺と狡噛、そして須郷を他省庁の特別捜査官であることを重視したのだろう。その結果がこのホテルなのだろうと、俺はいやに豪華なアメニティを見て思った。公安局にツテを持つ入国者が開いたこのホテルは、嫌味なくらい何もかもが丁重で重厚感があり、そして高級だった。
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TRAINING10/22ワンライお題【明るい・髪】
朱ちゃんが来る前の執監のお話。狡噛さんはほとんど出てきません。唐之杜さんとお話する宜野座さんが色々考えるお話。前の作品の対になっています。
春が過ぎる 明るい青の色を灯していた瞳が暗くなってゆくのを、俺はただ見つめているだけだった。曲がりなりにも恋人だったのに、まるで他人事のように彼が堕ちてゆくのを見ていた。狡噛は俺にとっての光だったというのに、その光が消えてゆくのを、ただぼんやりと眺めているだけだった。
違法なストレスケア薬剤の密売ルートの摘発を行うのは、今回が初めてだったわけではない。売人はいくらでも現れるし、廃棄区画で主に行われる薬の製造を止めることはできないからだ。もし本当に違法薬物の売買を止めたいのなら廃棄区画を潰してしまえばいいのだろうが、それは厚生省が許さなかった。あそこはある種の隔離施設だったからだ。
製造元の工場を突き止めた時は、正しくは唐之杜が突き止めた時は高揚すらした。俺は何かに向かって突き進んでいなければ生きているという実感が湧かなかった。それは、狡噛が佐々山の最後の事件に執着しているのと同じ理由なのだろう。そして俺の瞳もきっと、彼と同じように暗く光っているのだろう。
2966違法なストレスケア薬剤の密売ルートの摘発を行うのは、今回が初めてだったわけではない。売人はいくらでも現れるし、廃棄区画で主に行われる薬の製造を止めることはできないからだ。もし本当に違法薬物の売買を止めたいのなら廃棄区画を潰してしまえばいいのだろうが、それは厚生省が許さなかった。あそこはある種の隔離施設だったからだ。
製造元の工場を突き止めた時は、正しくは唐之杜が突き止めた時は高揚すらした。俺は何かに向かって突き進んでいなければ生きているという実感が湧かなかった。それは、狡噛が佐々山の最後の事件に執着しているのと同じ理由なのだろう。そして俺の瞳もきっと、彼と同じように暗く光っているのだろう。
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TRAINING10/15ワンライお題【メンタル・派手】
朱ちゃんが来る前の憔悴しきっている執監のお話。事件現場に突入した宜野座さんが怪我をして意識を失い、そんな宜野座さんに話しかける狡噛さんです。ちょっと暗め。
永遠ことあれかし ギノが俺に隠れてメンタルケア薬剤を飲んでいることは知っていた。
監視官は厳しい仕事だ。狭い部屋に押し込められた執行官よりもずっと自由がなく、ただ事件を解決することだけを考えて一日が終わる。精神をすり減らして辞めてゆく者も多かったし、出世に固執していたというのに執行官に堕ちる者、矯正施設送りになる者もいた。それでもギノはぎりぎりの場所で、その地位にしがみついていた。まるで自分にはそれしかないと言わんばかりに、まるでそれしか自分には求められてはいないと言わんばかりに。
監視官は基本的に執行官の監督にあたる立場にある。猟犬を使い、彼らに犯人の思考をトレースさせ、自分たちは色相を悪化させないまま事件を解決するのだ。だが彼はどういうわけか、自分でドミネーターの引き金を引くことが多かった。それは監視官としては珍しいことだった。今の一係の監視官は彼だけで、それでも脅威的な検挙数を誇るのは、ギノの存在によるところが多い。だが、まるで彼は自傷するようにドミネーターの引き金を躊躇なく引き、犯人を執行してゆく。俺はそれを見るたびにいつ自分に向かってドミネーターの引き金に指をかけるのか気が気じゃなかった。執行官の俺が言ってもしょうがないのだろうけれども、俺はかつての恋人を心から心配していた。そしてそんなある日に、彼はあろうことか任務中に犯人と揉み合いになり派手な怪我を負ったのだった。
3080監視官は厳しい仕事だ。狭い部屋に押し込められた執行官よりもずっと自由がなく、ただ事件を解決することだけを考えて一日が終わる。精神をすり減らして辞めてゆく者も多かったし、出世に固執していたというのに執行官に堕ちる者、矯正施設送りになる者もいた。それでもギノはぎりぎりの場所で、その地位にしがみついていた。まるで自分にはそれしかないと言わんばかりに、まるでそれしか自分には求められてはいないと言わんばかりに。
監視官は基本的に執行官の監督にあたる立場にある。猟犬を使い、彼らに犯人の思考をトレースさせ、自分たちは色相を悪化させないまま事件を解決するのだ。だが彼はどういうわけか、自分でドミネーターの引き金を引くことが多かった。それは監視官としては珍しいことだった。今の一係の監視官は彼だけで、それでも脅威的な検挙数を誇るのは、ギノの存在によるところが多い。だが、まるで彼は自傷するようにドミネーターの引き金を躊躇なく引き、犯人を執行してゆく。俺はそれを見るたびにいつ自分に向かってドミネーターの引き金に指をかけるのか気が気じゃなかった。執行官の俺が言ってもしょうがないのだろうけれども、俺はかつての恋人を心から心配していた。そしてそんなある日に、彼はあろうことか任務中に犯人と揉み合いになり派手な怪我を負ったのだった。
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TRAINING10/10〜10/11開催『全国一斉色相調査会』、及びプチオンリー『二人の係数24時』のウェブ展示作品です。任務が終わって報告書を書いている怪我をした宜野座さんに、狡噛さんがコーヒーとマフィンを買ってくるお話です。イベント開催おめでとうございます!
コーヒー&チョコチップマイフィン「ねぇ、その怪我大丈夫なの?」
もう少しで朝だという時間帯に、行動課のオフィスで書類仕事に励んでいると、花城はそう言って胸に抱えた情報共有用のタブレットを静かにデスクに置いた。そこには先ほど逮捕した男の情報が載っており、それは今まさに俺が上に上げる報告書に必要だったものだった。俺は「ありがとう」と言い、タブレットからデータを吸い上げる。
「あなたが頑丈なのは知ってるけど、絵面が危ないのよね。また医務室に行ったら? その包帯は目立つわ」
花城は額を指さし、すぐには俺から離れなかった。俺の容姿が、いや、頭に包帯を巻き、生身の手に止血テープを貼った部下の姿が気になったのだろう。とはいえ、絵面のわりにはそれほど怪我がひどいわけではない。数日経てば傷跡も消えてしまうようなものだ。ただ出血量が多かったので、念入りに手当てをされてしまっただけで。
4260もう少しで朝だという時間帯に、行動課のオフィスで書類仕事に励んでいると、花城はそう言って胸に抱えた情報共有用のタブレットを静かにデスクに置いた。そこには先ほど逮捕した男の情報が載っており、それは今まさに俺が上に上げる報告書に必要だったものだった。俺は「ありがとう」と言い、タブレットからデータを吸い上げる。
「あなたが頑丈なのは知ってるけど、絵面が危ないのよね。また医務室に行ったら? その包帯は目立つわ」
花城は額を指さし、すぐには俺から離れなかった。俺の容姿が、いや、頭に包帯を巻き、生身の手に止血テープを貼った部下の姿が気になったのだろう。とはいえ、絵面のわりにはそれほど怪我がひどいわけではない。数日経てば傷跡も消えてしまうようなものだ。ただ出血量が多かったので、念入りに手当てをされてしまっただけで。
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TRAINING10/08ワンライお題【気晴らし・ダイエット】
厄介な仕事を終えて狡噛さんの部屋をビールを持って訪ねた宜野座さんが、狡噛さんに過去について語られるお話です。
need to be in love なんとはなしに狡噛の部屋を訪ねることはよくある。それは時に友人としてであったり、時に恋人としてであったりしたが、気晴らしを求めてということも少なくなかった。何せ彼の部屋には多くの希少な古本があり(日本語翻訳されていないものも多く読めるものは少なかったが)、紙のスリーブに入ったレコードや父が残した酒に負けないくらいのブランデー、そして今や色相悪化を理由に流通していない映画のディスクがあった。俺はそれを旧式のプレーヤーで見るのが好きだった。最新の流行映画にはない砂嵐ですら、芸術のように思えたからだ。レコードもよかった。かすかな雑音が、まるで耳のすぐ側で囁いているようだったから。
今夜もドアを開けたら、レコードプレーヤーから耳に馴染むなめらかで軽やかな女の歌声が聞こえてきた。三オクターブの声域を持つ、アルトの声の美しさ。狡噛が気に入るには少し甘すぎる声。批評家にロマンチックすぎると評価されたにもかかわらず、何度もグラミー賞を取りやがて殿堂入りした兄妹のポップ・ソング・グループ。世界的人気を得た彼らだったが、けれどヴォーカルが無理なダイエットから拒食症になり亡くなり、活動は突然終わりを告げる。彼女の死は摂食障害を世界にしらしめるものとなった。
2871今夜もドアを開けたら、レコードプレーヤーから耳に馴染むなめらかで軽やかな女の歌声が聞こえてきた。三オクターブの声域を持つ、アルトの声の美しさ。狡噛が気に入るには少し甘すぎる声。批評家にロマンチックすぎると評価されたにもかかわらず、何度もグラミー賞を取りやがて殿堂入りした兄妹のポップ・ソング・グループ。世界的人気を得た彼らだったが、けれどヴォーカルが無理なダイエットから拒食症になり亡くなり、活動は突然終わりを告げる。彼女の死は摂食障害を世界にしらしめるものとなった。
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TRAINING10/1ワンライお題【靴・スパイス】
喧嘩をした後狡噛の部屋を訪ねた宜野座が、散らばった靴を見つけて…というお話です。狡噛が宜野座の機嫌をとっています。
愛しき草原 狡噛の部屋にゆくと、見たこともない量の靴が散らばっていた。いや、これは散らばっているというか、靴箱を開いて放り出した、と言った方が正しいかもしれない。スニーカー、ブーツ、ローファーに正装用の革靴、それらが玄関を埋め尽くしているのだ。俺はまず何事かと思った。誰かが泥棒に入ったかと思った。けれど金になりそうな置物は取られていなかったことから、犯人は存在しないように思えた。いや、犯人の目的は金目のものではなかったのかもしれない。俺たちが一般人より持っているものといったら一番に情報だ。ということは、これはデバイスを狙った犯行かもしれない。だがそれにしても、靴箱を漁るなんて間抜けな泥棒だが。
「狡噛、いるのか」
3157「狡噛、いるのか」
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TRAINING9/24ワンライお題【やわらかい・ゴリラ】
本を読んでいる狡噛さんと話す宜野座さんです。※ダイムの生死に触れている場面があります。
苦痛のない穴にさようなら とある仕事が終わったある日の夜、コーヒーを淹れている俺の側で、狡噛はいつものようにソファで本を読んでいた。いつもと違うのは、彼が眼鏡をかけていたことだ。まだ老眼には早いだろうに、戦場で目をやってしまったのだろうか? 俺はそんなことを思い、マグカップを二つ手にして彼の側に座った。
「何を読んでるんだ?」
湯気の立つマグカップをローテーブルに置き、俺は尋ねる。すると狡噛は眼鏡を外して、「とあるゴリラの一生についての話さ」と言った。
「ゴリラ? 探偵ごっこの次は霊長類研究でもするのか?」
彼はここ数日イギリスの推理小説に夢中になっていたので、俺はそうからかった。だが、彼はそれに惑わされることもなく、俺に説明を続ける。
2586「何を読んでるんだ?」
湯気の立つマグカップをローテーブルに置き、俺は尋ねる。すると狡噛は眼鏡を外して、「とあるゴリラの一生についての話さ」と言った。
「ゴリラ? 探偵ごっこの次は霊長類研究でもするのか?」
彼はここ数日イギリスの推理小説に夢中になっていたので、俺はそうからかった。だが、彼はそれに惑わされることもなく、俺に説明を続ける。
常夏🐠
DONEPSYCHO-PASSパロの執行官とら×監視官ふゆパロ┊原作程度のグロ描写があります┊原作見てないと設定解らんと思う全部混ぜて黒になるなら(とらふゆ)『エリアストレスの急上昇を確認。当直の監視官は直ちに執行官を連れ、現場へ向かってください』
「……オレのペヤング」
チッと舌打ちをして、男――公安局刑事課に所属する監視官・松野千冬は仕方なしに立ち上がった。給湯器の下まで持っていったペヤングをビニール袋に放り込んで机の上に置くと、ジャケットを羽織って小走りに廊下を抜けていく。
千冬は公安局に勤める監視官だ。シビュラシステムという全知全能と言っていいほど優れたAIによって住民の精神衛生が保たれているこの世界だが、時折精神が不安定となり周囲の人間に害を与える者や、システムに反抗して犯罪を起こす者が現れる。そんな事態が起きた際に現場に急行し、鎮圧をするのが公安局の仕事だった。千冬の属する一係には何人かの同僚がいるが、交代で休みを取っていることもあって今日は二人しか出勤していない。そもそも今日は内勤だけで外勤は三係の持ち回りのはずなのだが、聞けば三係は一時間ほど前に湾岸の方で起きた事件の対処に当たっていて不在とのことだった。
6716「……オレのペヤング」
チッと舌打ちをして、男――公安局刑事課に所属する監視官・松野千冬は仕方なしに立ち上がった。給湯器の下まで持っていったペヤングをビニール袋に放り込んで机の上に置くと、ジャケットを羽織って小走りに廊下を抜けていく。
千冬は公安局に勤める監視官だ。シビュラシステムという全知全能と言っていいほど優れたAIによって住民の精神衛生が保たれているこの世界だが、時折精神が不安定となり周囲の人間に害を与える者や、システムに反抗して犯罪を起こす者が現れる。そんな事態が起きた際に現場に急行し、鎮圧をするのが公安局の仕事だった。千冬の属する一係には何人かの同僚がいるが、交代で休みを取っていることもあって今日は二人しか出勤していない。そもそも今日は内勤だけで外勤は三係の持ち回りのはずなのだが、聞けば三係は一時間ほど前に湾岸の方で起きた事件の対処に当たっていて不在とのことだった。
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TRAINING9/17ワンライお題【宇宙・かわいい】
仕事終わりに空を見上げる狡噛さんと、そんな狡噛さんの昔のことを思い出す宜野座さんのお話です。
天の光は全て星 夜、狡噛は空を見ることが多い。とはいえ出島では高層ビル群が放つ光や、猥雑なネオンなどで、ほとんど星は見えないのだが、それでも彼はベランダに立ってスピネルを吹かし、月や宵の明星を見つめるのだった。
狡噛が星が好きだと聞いたのは、学生時代のころのことだ。彼は一時期取り憑かれたように宇宙の神秘についての本を読みあさっており、それは暇さえあれば教科書を読んでいるような俺が心配してしまうほどだった。あと五十億年したら太陽はなくなるんだ、暗黒物質の正体はまだ解明されていないんだ、生命が誕生するには二十五メートルプールにばらばらの時計の部品を入れて、自然に完成するくらい奇跡的なんだ。素粒子物理学、天体物理学、一般相対性理論、プラズマ物理学、現象学、超弦理論、量子力学。とにかくあのころの狡噛の喋る言葉は意味が分からず、会話をするにも一苦労したのを思い出す。なにせハンバーガーを食べる時ですら、彼は重ね合わせの原理について思考していたのだから。それが収まったのは、彼がまた違った分野に興味を持ったからだったが、あの時は安心したものだ。それは珍しく俺にも理解できる程度の問題で、会話に取り入れることもできたので。
3157狡噛が星が好きだと聞いたのは、学生時代のころのことだ。彼は一時期取り憑かれたように宇宙の神秘についての本を読みあさっており、それは暇さえあれば教科書を読んでいるような俺が心配してしまうほどだった。あと五十億年したら太陽はなくなるんだ、暗黒物質の正体はまだ解明されていないんだ、生命が誕生するには二十五メートルプールにばらばらの時計の部品を入れて、自然に完成するくらい奇跡的なんだ。素粒子物理学、天体物理学、一般相対性理論、プラズマ物理学、現象学、超弦理論、量子力学。とにかくあのころの狡噛の喋る言葉は意味が分からず、会話をするにも一苦労したのを思い出す。なにせハンバーガーを食べる時ですら、彼は重ね合わせの原理について思考していたのだから。それが収まったのは、彼がまた違った分野に興味を持ったからだったが、あの時は安心したものだ。それは珍しく俺にも理解できる程度の問題で、会話に取り入れることもできたので。
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TRAINING9/10ワンライお題【合宿・月】
外務省の子女たちの合宿を監督することになった狡噛と宜野座が川の近くで取り留めもなく喋るお話です。
死んだっていいわ 深夜、川べりでのキャンプファイヤーに気を良くした学生が、メディカルトリップでない本物の酒に手を出すのにはそれほど時間はかからなかった。俺と狡噛は確かに彼ら——外務省高官の子女たち——を監督する立場にあったのだが、何せ彼らからは距離があったので、合宿にはしゃぎパーティーを始めた子どもたちに気づくまでには時間がかかった。それに監督といったって、危険な侵入者から彼らを守るのが俺たちに期待される行動であって、健全な合宿生活を送れるようにする教師の役割は求められていない。あくまでも俺たちは彼らの警護を仰せつかっているのであって、その守るべき存在が勝手に馬鹿をやるのなら止める方法はなかった。
ちなみに今回の合宿は、最終考査が終わり、学生生活が終わり、その思い出づくりで行われたものらしい。多くが中央省庁に就職が決まったエリートたちだから本当の馬鹿はやらないだろうが(たとえば違法なストレスケア薬剤に手を出すとか)、アルコールを許すかどうかは微妙なラインだった。酒はその依存性から、現在では煙草と同じく色相を曇らせるものとして扱われている。俺の隣でスピネルを嗜んでいる潜在犯がいい例だ。彼の現在のサイコ=パスは知らないが、俺よりも濁っているのは確かだろう。それに俺も人のことは言えないくらいの色相だ。健全な学生たちが一夜だけ楽しむくらい、見逃してやってもいいのかもしれない。そう思い、俺は報告書に彼らがアルコールを楽しんだのは書いてやらないことにした。
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TRAINING9/3ワンライお題【花火・行方】
雨で順延になってしまった花火大会を残念に思う狡噛さんを、宜野座さんがマーケットに連れ出す話です。ご飯を食べたり、マフィアの末端から聞き出した取引を追ったり、花火をしたりします。
花火の雨 大雨が降って、狡噛が楽しみにしていた花火大会が順延になった。俺は中止になったんじゃない分よかっただろうと思ったのだが、彼はそうではなかったらしく、大きく落ち込んでいた。俺はそれが珍しく、面白く、暗闇の中雨が降りつけるベランダで未練がましくハイネケンの瓶ビールを飲む恋人を見つめながら、さて、どうやって慰めるかなんてことを思っていた。
出島での花火大会は珍しくない。ここでは宗教行事と結び付けられることの多いそれは、クリスマスや新年を祝う時、旧正月を祝う時などに何発も豪華に上がった。思うに狡噛は花火が見たかったのではなく、そういう雑多な行事、東京にいては感じられない移民たちの生の生活が見たくて、それが叶わなくて落ち込んでいるのだろう。
2694出島での花火大会は珍しくない。ここでは宗教行事と結び付けられることの多いそれは、クリスマスや新年を祝う時、旧正月を祝う時などに何発も豪華に上がった。思うに狡噛は花火が見たかったのではなく、そういう雑多な行事、東京にいては感じられない移民たちの生の生活が見たくて、それが叶わなくて落ち込んでいるのだろう。
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TRAINING8/27ワンライお題【きらきら・歯ブラシ】
出島の夜景を見る狡噛さんと宜野座さんが、征陸さんの昔話をするお話です。
光の連なり 歯みがきを終えてリビングに行くと、ベランダに続くガラス窓が開いていた。俺はまた狡噛が煙草を吸いに出たのかと思い、蒸し暑い風が吹き込んで来るその窓をくぐる。するとやはり彼はスピネルを咥え、空になったハイネケンの瓶ビールを足元に置いていた。
狡噛が見つめているのは高層ビル群のきらきらとした夜景と、その裏側に位置する猥雑な地域のどぎつい色味のネオンだった。彼はそれを等しく愛しているように思えて、俺はそんな恋人の仕草に安心感を覚えた。
狡噛は等しく人を愛する。博愛主義者と言ってもいい。赤の他人のために大切な全てを捨てられる人間なのだ、彼は。槙島に出会う前の彼を知っている者ならきっとそれを理解してくれると思うが、あの男に出会ってしまった後の彼しか知らない者なら、それも難しいかもしれない。何せ狡噛は長くあの犯罪者に執着していたので、そのせいで自分が身につけてきた者全てを捨ててしまっていたので。
2815狡噛が見つめているのは高層ビル群のきらきらとした夜景と、その裏側に位置する猥雑な地域のどぎつい色味のネオンだった。彼はそれを等しく愛しているように思えて、俺はそんな恋人の仕草に安心感を覚えた。
狡噛は等しく人を愛する。博愛主義者と言ってもいい。赤の他人のために大切な全てを捨てられる人間なのだ、彼は。槙島に出会う前の彼を知っている者ならきっとそれを理解してくれると思うが、あの男に出会ってしまった後の彼しか知らない者なら、それも難しいかもしれない。何せ狡噛は長くあの犯罪者に執着していたので、そのせいで自分が身につけてきた者全てを捨ててしまっていたので。
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TRAINING練習問題⑨問二:赤の他人になりきる
視点は自分と意見の異なる人物にすること。
彼女の赦し 課長室のソファに座り、テーブルで昼食を取っていると、法定執行官となった先輩が現れた。彼女は今は私の部下だ。今までの何でも私に指示をしていた人とは違う。
「一緒に食べてもいい?」
彼女の手には公安局内で売られているサンドイッチの包みがある。私はそれに「いいですよ。私はすぐに終わりますけど」と返し、また弁当に箸をつけた。塩鮭、卵焼き、桜でんぶ、プチトマトにブロッコリー、それから白米にふりかけ。質素なものだ。想像していた課長としての生活とは違い、豪華な昼食を取ることもままならない。
「いいの、一人きりだとさすがに寂しいから。それに私早食いだよ」
先輩が言う。私はそれに胃がきりきりした。私は先輩の祖母を東金に差し出した張本人だ。彼女の仇と言ってもいい。なのに先輩はそんな私に優しくする。消去法で言ったら、あの東金に情報を差し出した人間なんて、頭のいい先輩だから気づいているだろうに。
951「一緒に食べてもいい?」
彼女の手には公安局内で売られているサンドイッチの包みがある。私はそれに「いいですよ。私はすぐに終わりますけど」と返し、また弁当に箸をつけた。塩鮭、卵焼き、桜でんぶ、プチトマトにブロッコリー、それから白米にふりかけ。質素なものだ。想像していた課長としての生活とは違い、豪華な昼食を取ることもままならない。
「いいの、一人きりだとさすがに寂しいから。それに私早食いだよ」
先輩が言う。私はそれに胃がきりきりした。私は先輩の祖母を東金に差し出した張本人だ。彼女の仇と言ってもいい。なのに先輩はそんな私に優しくする。消去法で言ったら、あの東金に情報を差し出した人間なんて、頭のいい先輩だから気づいているだろうに。
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TRAINING練習問題⑨方向性や癖をつけて語る
問一:A & B
二人の登場人物を会話だけで提示する。
AとBの事件「だからさ、それは間違ってるんだ、前提条件がまずおかしい」
「前提条件? 犯人がいる、被害者がいる、それのどこがおかしい?」
「犯人には背景があるべきだろう? なのにこの犯人はとってつけたような犯罪を突然犯しただけで、何の理由もなく女を殺しているんだ」
「無秩序型の犯人かもしれないじゃないか」
「じゃあ無秩序型を再定義しよう。社会不適応で、孤立していて、それほど知能も高くない。外見に無頓着で衛生状態の悪いところに住んでいて、総じて無秩序だ」
「そのままじゃないか。この女は突然殺された。理由もなく。それに犯人が残していった残留物も多い。ダンゴムシにかかればすぐにD N Aが特定される」
「でもダンゴムシはまだデータを寄越さない」
884「前提条件? 犯人がいる、被害者がいる、それのどこがおかしい?」
「犯人には背景があるべきだろう? なのにこの犯人はとってつけたような犯罪を突然犯しただけで、何の理由もなく女を殺しているんだ」
「無秩序型の犯人かもしれないじゃないか」
「じゃあ無秩序型を再定義しよう。社会不適応で、孤立していて、それほど知能も高くない。外見に無頓着で衛生状態の悪いところに住んでいて、総じて無秩序だ」
「そのままじゃないか。この女は突然殺された。理由もなく。それに犯人が残していった残留物も多い。ダンゴムシにかかればすぐにD N Aが特定される」
「でもダンゴムシはまだデータを寄越さない」
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TRAINING練習問題⑧声の切り替え
問二:薄氷
読者に対する明確な目印なく視点人物のPOVを数回切り替えながら書くこと。
サンシャイン・オブ・ラブ2 ラジオを聴くのをやめた狡噛は、ソファの隣に座り、デバイスを操作する恋人のうなじにキスをした。拒否はされなかった。宜野座は基本的に狡噛の欲望を拒否しない。愛されていると思うが、彼が仕事でヘマをした時は別だった。彼は罰されたいと思っている。狡噛の青い目で、宜野座は罰されたいと思っている。宜野座は狡噛の深い青い目を見つめつつ、自分からワイシャツを脱ぎ始める。それがまるで最初から決まっていたかのように、決まりごとを自分で処しているだけのように。だが、狡噛にとってそれはショックな出来事だった。隙間を埋めるようなセックスが嫌いなわけではない。ただ、そんなものに自分が関わるということを、狡噛は少し恐れているきらいがあった。狡噛は愛を知って生きてきた、いや、愛を疑わず生きてきた。それは宜野座とは全く違った生き方で、佐々山を失った時ですら、執行官に堕ちた時ですら、宜野座の愛を疑うことはなかった。それで無茶もしたし、彼には迷惑もかけただろう。だが狡噛は、それでもやはり自分は愛されていると思っていたのだ。だが宜野座は違った。幼い頃から潜在犯の息子として一人生きて来た彼にとって、狡噛の傲慢とも言える愛情は毒のようなものだった。ラジオを使った愛の告白が嫌だったわけじゃない。あれが彼の本心だと宜野座は断言出来る。もうすぐ夜が開ける/朝日が疲れたまぶたを閉じさせる時/もうすぐ俺の愛するお前の側に行くよ/お前に驚きの全てをやるために向かってるところだ/今すぐダーリン、お前の側へ行くからさ/星たちが降り落ちて来たら、俺がお前と一緒にいるから。きっと歌の通りに夜が明ける時狡噛は宜野座の隣にいるのだろう、いてくれるのだろう。だが、宜野座はワイシャツを脱ぎ、狡噛にまたがりながら、それを信じられないでいた。狡噛は戻ったというのに、いつかこの安寧が破られやしないかと、そう思ってしまったのだ。狡噛はそんな身の入らないセックスをしようとしている宜野座を見て、かわいそうに、と思った。それも傲慢な感想だったが、彼の心からの理解だったのは事実だ。狡噛はそんな可哀想な恋人にキスをしてやりながら歌をつぶやいた。俺ったら、もう随分と長いこと、自分の行くべき場所を待ち続けて来たよ/お前の愛が輝く陽の光の中で。お前は拒否するかもしれないが、理解出来ないというかもしれないが、それが事実なんだ。二人はキスをする。狡噛は優しいそれを
1124時緒🍴自家通販実施中
TRAINING練習問題⑧声の切り替え
問一:三人称限定視点を素早く切り替えること。切り替え時に目印をつけること。
サンシャイン・オブ・ラブ1 狡噛は移民向けのラジオを聴いていた。古いチューナーから漏れ出るそれは、大昔のサイケデリックロックのラブソングだった。もうすぐ夜が開ける/朝日が疲れたまぶたを閉じさせる時/もうすぐ俺の愛するお前の側に行くよ/お前に驚きの全てをやるために向かってるところだ/今すぐダーリン、お前の側へ行くからさ/星たちが降り落ちて来たら、俺がお前と一緒にいるから。狡噛はソファに沈み込みながらそれを口ずさむ。隣に座る宜野座は歌詞を分かっているのか、時折深いため息をつく。きっと浮かれている自分がおかしいのだろうと狡噛は思う。今夜は金曜の夜で、明日は休みだ。それが自分をおかしくさせるのだと狡噛は思う。明日は休みだ、いつまででも寝ていたっていい。どんなに酷いセックスをしたっていい。俺ったら、もう随分と長いこと、自分の行くべき場所を待ち続けて来たよ/お前の愛が輝く陽の光の中で。それは自分のことのように思えたし、そう感じるのは尊大である気もした。エリック・クラプトン、ジャック・ブルース、ジンジャー・ベイカー。イギリスのロック界のレジェンドたちの歌は、投げやりだが耳どころか心にも響く。
953時緒🍴自家通販実施中
TRAINING練習問題⑦視点(POV)
追加問題:一人称で別の物語を書く。
煙草の煙に消えるものは5私が死んだその部屋に、数人の男と一人の女が入って来た。私はこの部屋に突然入って来た銃を持つ、明らかに薬をやっている男に囚われ、殺された。彼らはその男を私が死んだ後に確保した。私はそれを残念に思ったが、それが彼らの限界だったのだろう。だが、長髪の男はまだ何かを考え込んでいるようだった。部屋の隅に立ち、私の血で汚れた部屋を見つめている。その時、彼の後ろについていた男が煙草に火をつけた。私はそれを鎮魂の祈りのようで歓迎したが、長髪の男はそうではなかったらしく、彼に煙草を止めるように言った。そして煙草の男は、携帯灰皿にまだ長い煙草をにじり消した。畳の上には割れた茶碗や、私がまだ手をつけていなかった食事が湯気を立てて転がっている。私はそれを残念に思ったが、私はもう死んでしまっているのだった。彼らは傍観者でしかない。それにあの犯人も人を殺したのだ、公安局によって執行されるだろう。
389時緒🍴自家通販実施中
TRAINING練習問題⑦視点(POV)
問四:潜入型の作者
煙草の煙に消えるものは4そのポニーテールの男、宜野座伸元が部屋の隅に立った時、彼は友人の狡噛慎也の方から煙草の匂いを感じた。それに宜野座は窮屈そうに抗議した。彼は優秀な狙撃手だったが、今回の事件、つまり立てこもり犯が被害者を射殺してしまった事件についてヘマをやらかしていた。そう、犯人を確保するために撃つための銃が、ジャムを起こしたのだ。だから宜野座は部屋のあちこちに飛び散る血を見、畳の上に転がった割れた茶碗を見、まだ湯気を立てる手付かずの料理を見つめて煙草を吸わないように狡噛に求めた。宜野座は元は執行官だったから、今も事件のかけらを探しているのだ。先に現場に入った須郷徹平や花城フレデリカがダンゴムシと呼ばれる鑑識ドローンを操作して事件をあらかた検分し終えてしまっても、それでも自分の嗅覚を信じていた。そして狡噛は煙草を携帯灰皿ににじり消した。彼はこんな時友人である宜野座に逆らわない方がいいと思っていた。それは暗黙のルールで、ヒエラルキーのようなものでもあった。
423時緒🍴自家通販実施中
TRAINING練習問題⑦視点(POV)
問三:傍観の語り手
煙草の煙に消えるものは3私が見たのは、狡噛の煙草に抗議する宜野座の姿だった。今回の事件は悲惨だったから、それも仕方ないのかもしれない。私は須郷と共にあらかた事件をダンゴムシを使い捜査を終えたが、宜野座がまだ何か猟犬の嗅覚に頼っていることは分かった。今回の事件は立てこもり犯が被害者を射殺し、それを須郷が確保したものだった。宜野座は狙撃手として隣のビルに待機していたが、彼が役に立つことはなかった。いや、役に立つ機会はなかった。血が飛び散る部屋には、茶碗が転がり、割れ、手付かずの料理はまだ畳の上で湯気を立てている。花城は宜野座と狡噛を見守った。すると狡噛は驚くほど早く煙草を携帯灰皿でにじり消した。宜野座はそれに納得したのか、また事件現場に潜る。私はそれを見て暗澹たる気持ちになった。彼はまだ猟犬であった時代が忘れられていないのだと、そう思ったのだ。
363時緒🍴自家通販実施中
TRAINING練習問題⑦視点(POV)
問二:遠隔型の語り手
煙草の煙に消えるものは2その背の高い男たちが三人、そしてこれも長身の女が一人部屋に入ると、すぐさま立てこもり事件の捜査が始まった。一番歳の若い男と、その上司である女は事件現場を真っ先に検分した。しかしそれほどの収穫はなかった。あちこちに散らばる茶碗は割れ、手付かずの料理はまだ畳の上で湯気を立てていた。それを見ていたポニーテールの男が、煙草を咥えた男に窮屈そうに抗議した。狡噛、やめろと。今回の事件の被害者を救えなかったことを、狙撃手であるポニーテールの男は後悔しているようだった。それに煙草を咥えた男は携帯灰皿で火を消す。彼らは友人同士だったが、こういう時はヒエラルキーが存在した。いわく、不機嫌な友人には逆らわないということだ。
304時緒🍴自家通販実施中
TRAINING練習問題⑦視点(POV)
問一:二つの声
①単独のPOV(三人称限定視点)
②別の関係者一人のPOV(三人称限定視点)
煙草の煙に消えるものは1① 狡噛は宜野座が部屋の隅で立ち止まったのを良いことに、煙草に火をつけた。ずっとヤニ切れだったから、とにかく吸いたくてたまらなかったのだ。ここは事件現場だが、たったそれだけのことで証拠は失われないだろう。花城も須郷も、事件現場を検分し終わった。それにもうこの部屋の匂いは覚えていた。違和感はなかった。しかし当然ながら、宜野座はそれに抗議した。狡噛、やめろと、どこか窮屈そうに。今回の事件は立てこもり犯が被害者を射殺して確保されたものだった。その証拠に、部屋のあちこちには血が飛び散っている。茶碗は転がり、割れ、手付かずの料理はまだ畳の上で湯気を立てている。狡噛はそれにすぐに煙草を携帯灰皿に消した。こういう時、この友人には逆らわない方がいいことを本能的に知っていたからだ。
700時緒🍴自家通販実施中
TRAINING8/20ワンライお題【涼やか・夏野菜】
エアコンが壊れた部屋で酔っ払った狡噛さんが管を巻いて宜野座さんに絡むお話です。
夏のあやまち 狡噛の部屋に入ると、そこは蒸し風呂といってもいいような場所だった。窓は大きく開け放たれているのだが、そこから夕暮れ時の太陽の光が入って来ていて、余計に夏の暑さを感じさせるのだ。窓際に吊るされた風鈴だけが涼しげというか、和の雰囲気を持つ風流なもので、俺はそれだけでこの暑さを乗り切ろうとしている恋人に少々呆れてしまった。
「狡噛、どうしたんだこれは……」
俺は外よりも蒸すここで吹き出す汗を拭いながら、ソファに座る彼に向かって言った。すると狡噛は疲れた顔をして、「ギノ、来たのか」と答えた。あぁ、来たさ、約束していたからな。今日は俺が夕食の当番だったから、出島に新しく出来た日本料理屋のデリで、この暑さでも食べられそうな夏野菜と豚肉の大根サラダや、なすの揚げ浸し、とうもろこしご飯や冷汁なんかを買い求めてこの部屋にやって来た。しかしそれにしてもここは暑すぎる。西日が差しているのを差っ引いても、暖房でも入ってるんじゃないかってレベルだ。
2513「狡噛、どうしたんだこれは……」
俺は外よりも蒸すここで吹き出す汗を拭いながら、ソファに座る彼に向かって言った。すると狡噛は疲れた顔をして、「ギノ、来たのか」と答えた。あぁ、来たさ、約束していたからな。今日は俺が夕食の当番だったから、出島に新しく出来た日本料理屋のデリで、この暑さでも食べられそうな夏野菜と豚肉の大根サラダや、なすの揚げ浸し、とうもろこしご飯や冷汁なんかを買い求めてこの部屋にやって来た。しかしそれにしてもここは暑すぎる。西日が差しているのを差っ引いても、暖房でも入ってるんじゃないかってレベルだ。
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TRAINING8/16 狡噛さんお誕生日おめでとうございますSSです。誕生日に自分で料理を作ろうとした狡噛さんが、あろうことか幼い売春婦を買って理由を知らない宜野座さんが激怒して?というお話です。
真夜中の昼食 誕生日だというのに、狡噛は自分で夕食を作ると言って聞かなかった。俺はそれに少し困惑して——というのもこの日のために出島のホテルを予約していたからなのだが——、けれど言い出したら押さえ込めない彼のことだったので、仕方なく従うことにした。俺たちはもうそろそろいい歳だから、大袈裟に祝うことでもないと思ったのかもしれない。けれどこんな日くらい非日常を味わってもいいのにと、俺は思わずにはいられなかった。
「出島のマーケットで準備するから、連絡したら俺の部屋に来てくれよ」
そう甘くかすれた声で言われてしまうと、俺はもう反論出来なかった。誕生日だ、一体どんなことをしてやろう。何をしたら彼は喜ぶだろうか。俺は勝手な妄想にひたり身体の隅々まで綺麗に洗って、彼からの連絡を待った。だが日にちを跨いでも、狡噛からデバイスにコールが来ることはなかった。
3085「出島のマーケットで準備するから、連絡したら俺の部屋に来てくれよ」
そう甘くかすれた声で言われてしまうと、俺はもう反論出来なかった。誕生日だ、一体どんなことをしてやろう。何をしたら彼は喜ぶだろうか。俺は勝手な妄想にひたり身体の隅々まで綺麗に洗って、彼からの連絡を待った。だが日にちを跨いでも、狡噛からデバイスにコールが来ることはなかった。