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DOODLE引退クラステ。ステ誕のささやかなお話。君と犬と青空の日スティーブンは食材が入った袋を抱え直して、松葉杖をしっかりと握った。
今日が誕生日だからと、市場の顔馴染みたちがどんどんサービスしてくれたせいで、荷物は随分重たくなってしまった。市場から自宅へ帰るには、坂道と階段を登る必要がある。それが少しばかり厄介だ。
今朝から天気がいいので、クラウスは畑に出ている。いつもはそちらについて行くボーダーコリーのお嬢さんが、尻尾をぶんぶんと振りながらスティーブンの買い物に付き添ってくれている。
「レディ、ゆっくり歩いてくれるかい?」
お嬢さんは心得たと言わんばかりに上向けた鼻をふんふんと鳴らした。クラウスの手でしっかりと躾けられた賢い犬は、人の言葉を理解し、リードを引かずともスティーブンの意を汲んで歩いてくれる。
3108今日が誕生日だからと、市場の顔馴染みたちがどんどんサービスしてくれたせいで、荷物は随分重たくなってしまった。市場から自宅へ帰るには、坂道と階段を登る必要がある。それが少しばかり厄介だ。
今朝から天気がいいので、クラウスは畑に出ている。いつもはそちらについて行くボーダーコリーのお嬢さんが、尻尾をぶんぶんと振りながらスティーブンの買い物に付き添ってくれている。
「レディ、ゆっくり歩いてくれるかい?」
お嬢さんは心得たと言わんばかりに上向けた鼻をふんふんと鳴らした。クラウスの手でしっかりと躾けられた賢い犬は、人の言葉を理解し、リードを引かずともスティーブンの意を汲んで歩いてくれる。
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MOURNINGクラステ。ライゼズ後、NYからHLになった直後のお話。連れ合い「僕は君に、ただついて来たわけじゃない」
スティーブン・A・スターフェイズにそう告げられた日のことを、クラウス・V・ラインヘルツは忘れないだろう。
まだ、この街にヘルサレムズ・ロットだなんて名前はついていない時だった。崩壊したニューヨーク。マンハッタンだった場所。絶望の街。崩落都市。人々はテレビ画面を見ながら、口々にこの街をそう呼んだ。失った繁栄への落胆を込めて。
霧の向こうの合衆国にこの街の状況はまだ届いていないだろう。崩落の大災害が起こったと思ったら、霧の中で一夜にして新しい街が形成されただなんて、誰も信じないに決まっている。
スティーブンはクラウスと並んで歩きながら、ひとつの廃墟を選んだ。ボロボロで壁の一辺がない状態だったが、幸いそこから中に入れる。
3771スティーブン・A・スターフェイズにそう告げられた日のことを、クラウス・V・ラインヘルツは忘れないだろう。
まだ、この街にヘルサレムズ・ロットだなんて名前はついていない時だった。崩壊したニューヨーク。マンハッタンだった場所。絶望の街。崩落都市。人々はテレビ画面を見ながら、口々にこの街をそう呼んだ。失った繁栄への落胆を込めて。
霧の向こうの合衆国にこの街の状況はまだ届いていないだろう。崩落の大災害が起こったと思ったら、霧の中で一夜にして新しい街が形成されただなんて、誰も信じないに決まっている。
スティーブンはクラウスと並んで歩きながら、ひとつの廃墟を選んだ。ボロボロで壁の一辺がない状態だったが、幸いそこから中に入れる。
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MOURNINGクラステ。スティーブン誕生日話。なんでもない日おめでとう「あー・・・、やっと休み」
スティーブンはどさりとソファに倒れ込んで、そのまま動く気力を手放した。苦節一ヶ月、やっと片付けた案件の事故処理まで済ませて、帰宅すらも久しぶりだ。
日付変わってる。今日何曜日だっけ。あぁ、日曜はやっと休める、みたいな話をしたっけ。三日ぐらい前に。
流石に労働基準法違反だろ。いや、わかってるとも。秘密結社に労働基準法なんかないってことぐらい。そもそも俺は経営者側だし。でも疲れるもんは疲れるよ、流石に。
泥のように眠りたい。シャワー・・・、もういいや。めんどくさいし。
快適な寝心地と差し込む朝日で目が覚めた。いやいや、そんなはずはない。ソファで寝落ちたんだから、こんなにふかふかなはずないだろ。起きたくない。
3059スティーブンはどさりとソファに倒れ込んで、そのまま動く気力を手放した。苦節一ヶ月、やっと片付けた案件の事故処理まで済ませて、帰宅すらも久しぶりだ。
日付変わってる。今日何曜日だっけ。あぁ、日曜はやっと休める、みたいな話をしたっけ。三日ぐらい前に。
流石に労働基準法違反だろ。いや、わかってるとも。秘密結社に労働基準法なんかないってことぐらい。そもそも俺は経営者側だし。でも疲れるもんは疲れるよ、流石に。
泥のように眠りたい。シャワー・・・、もういいや。めんどくさいし。
快適な寝心地と差し込む朝日で目が覚めた。いやいや、そんなはずはない。ソファで寝落ちたんだから、こんなにふかふかなはずないだろ。起きたくない。
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MOURNINGクラステ。ザップ加入後のお話。再録短編集「Stand by Me!」収録。
ガラクタ街の小部屋に『お前ここで死ぬつもりか?』
ザップ・レンフロという男がHLに入ったのは、崩落から間もなくだった。
彼はほぼ、崩落を見ていたと言っても過言ではない。彼は師と共に、崩落真っ最中に紐育に到着した。
崩落中はマンハッタン島へ入れなかった為、対岸から霧に覆われていく街を見ていたのだと言う。そして、HLが誕生した瞬間、混乱に乗じて海を渡った。はっきり言って馬鹿だ。こいつも、こいつの師匠も。
「なぁ、ライブラってここ?」
スティーブンが先日やっとオープンしたばかりのコンビニから帰ってくると、仮事務所の前にザップが立っていた。
顔は知っている。あと、噂も。その程度の関係だ。本部から、HLにいるらしいとの話を聞いたのが三週間ほど前だっただろうか。すぐにこちらと合流するよう指示が出たはずだが、今まで一体何をしていたのやら。
15674ザップ・レンフロという男がHLに入ったのは、崩落から間もなくだった。
彼はほぼ、崩落を見ていたと言っても過言ではない。彼は師と共に、崩落真っ最中に紐育に到着した。
崩落中はマンハッタン島へ入れなかった為、対岸から霧に覆われていく街を見ていたのだと言う。そして、HLが誕生した瞬間、混乱に乗じて海を渡った。はっきり言って馬鹿だ。こいつも、こいつの師匠も。
「なぁ、ライブラってここ?」
スティーブンが先日やっとオープンしたばかりのコンビニから帰ってくると、仮事務所の前にザップが立っていた。
顔は知っている。あと、噂も。その程度の関係だ。本部から、HLにいるらしいとの話を聞いたのが三週間ほど前だっただろうか。すぐにこちらと合流するよう指示が出たはずだが、今まで一体何をしていたのやら。
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MOURNINGクラステ。引退後のお熱スティーブン。性癖。再録短編集「Stand by Me!」収録。
Good night, honeyクラウス・V・ラインヘルツは愛妻家である。
これはもう、街中における共通認識であり、確定事項だ。
「旦那、嫁さんはどうした?」
市場に店を構える馴染みの八百屋の主人は、珍しくひとりのクラウスに目を丸くした。
仲睦まじいにもほどがあるこの夫婦は、いつもふたりでぴったりと寄り添って買い物に来る。お互いの買い物の為にちょっと離れる事はあっても、たいてい目の届くところにいる。
というのも、クラウスの愛する妻は足が悪いからだ。何かあってはいけないと、過保護に過保護を塗り重ねたような夫は必ず買い物に付き添い、荷物を持ち、よろけようものなら担いで帰る勢いだ。
ところが、この日は八百屋の主人がきょろきょろと辺りを見渡してもその姿はなかった。
7537これはもう、街中における共通認識であり、確定事項だ。
「旦那、嫁さんはどうした?」
市場に店を構える馴染みの八百屋の主人は、珍しくひとりのクラウスに目を丸くした。
仲睦まじいにもほどがあるこの夫婦は、いつもふたりでぴったりと寄り添って買い物に来る。お互いの買い物の為にちょっと離れる事はあっても、たいてい目の届くところにいる。
というのも、クラウスの愛する妻は足が悪いからだ。何かあってはいけないと、過保護に過保護を塗り重ねたような夫は必ず買い物に付き添い、荷物を持ち、よろけようものなら担いで帰る勢いだ。
ところが、この日は八百屋の主人がきょろきょろと辺りを見渡してもその姿はなかった。
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MOURNINGクラステ。お熱スティーブン。途中で終わる。完成版は再録短編集「Stand by Me!」収録。
dropその日はありきたりな1日だった。いつも通りに出勤して書類と格闘し、いつも通りに出動要請。
銀行強盗が爆破した金庫から飛び交う札束に市民が群がり、そこに運悪く自由の女神サイズのブルドックが居合わせ道路が陥没。要件は市民の救出とブルドックの捕獲。罪のない大型犬を殺しては動物愛護法に反する。
いつも通りつつがなく作戦を終え、事後処理を警察に任せ、後は陥没した道路が塞がっていく様子をニュースで見るだけ、という状況にしてライブらは解散した。
事務所に集合、のはずだった。クラウスはギルベルトの車に乗り、スティーブンにも乗るようにと勧めたが、彼はロウ警部と少し話があると言って単独行動に出てしまった。
そして、今に至る。
7346銀行強盗が爆破した金庫から飛び交う札束に市民が群がり、そこに運悪く自由の女神サイズのブルドックが居合わせ道路が陥没。要件は市民の救出とブルドックの捕獲。罪のない大型犬を殺しては動物愛護法に反する。
いつも通りつつがなく作戦を終え、事後処理を警察に任せ、後は陥没した道路が塞がっていく様子をニュースで見るだけ、という状況にしてライブらは解散した。
事務所に集合、のはずだった。クラウスはギルベルトの車に乗り、スティーブンにも乗るようにと勧めたが、彼はロウ警部と少し話があると言って単独行動に出てしまった。
そして、今に至る。
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MOURNINGクラステ。だらだらするお話。再録短編集「Stand by Me!」収録。
カウチポテトパリパリと軽い音が室内に響く。音の主はソファに転がり、ガサガサと袋を漁ってはまたパリパリと音を立てる。
そんな光景を見たことがなかったクラウスは驚いた。少なくとも、彼がするものではないと思っていた。ザップならともかく。
しかし、悪くはない。たまの休みだ。自由に過ごせばいいし、レンタルの映画を見るのもいい過ごし方だ。そのお供や姿勢など、それこそ当人の自由ではないか。
「いらっしゃい、クラウス」
クラウスが声をかけるより早く、部屋の主がクラウスを歓迎した。ただし、カウチに寝転がったまま、視線は画面を向き、ビール瓶と菓子の袋を手放さず、だ。
「何を食べているのだね?」
「ん?ポテチだよ」
「ぽてち」
「え?知らない?ポテトチップス」
1782そんな光景を見たことがなかったクラウスは驚いた。少なくとも、彼がするものではないと思っていた。ザップならともかく。
しかし、悪くはない。たまの休みだ。自由に過ごせばいいし、レンタルの映画を見るのもいい過ごし方だ。そのお供や姿勢など、それこそ当人の自由ではないか。
「いらっしゃい、クラウス」
クラウスが声をかけるより早く、部屋の主がクラウスを歓迎した。ただし、カウチに寝転がったまま、視線は画面を向き、ビール瓶と菓子の袋を手放さず、だ。
「何を食べているのだね?」
「ん?ポテチだよ」
「ぽてち」
「え?知らない?ポテトチップス」