Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    #フォガパン

    いとう

    DOODLE前回の続きですけん
    アデニウム 短く不格好な歪の幹を晒してそれは生きていた。わたしにはこれが丁度良いのでどうぞお気になさらず、そんな声が聞こえてきそうなほど華麗な花が少しだけ風に揺れた。情熱的なのにどこか初々しく、しっとりと水に濡れた花びらはあらゆるものの心を奪うには十分すぎるのだろう。手を伸ばしそれに触れると表面に生えた産毛にも似た淡い毛先が真っ先に出迎えた。それ以上触れていいのか拒否しているのか理解することもなく、花の根元を潰すほどに強く掴み、その完成されていた形を破壊した。視線を向けた指先に残るそれは問いかける。
    わたしが好きなのでしょう。
    その通りだよ、と心の中だけで愛を告げてから自分が存在すべき場所に戻るため、指で輪を作りくわえて笛で馬を呼んだ。従順で愛らしい馬は大きな体格で足を砂に取られることなく小刻みにステップを踏む。いい馬だった。人懐こいし音に怯むこともない。彼とは長い付き合いだったが、その右前脚には限界が近づいて来ていた。不治の病とも言われるそれは確かに彼を蝕んでいた。馬の年齢は人間の4倍の早さで進んでいくという。ひとりでは馬に乗ることもできなかった頃からずっと一緒だったが、最後にするのであれば俺の我儘に付き合わせたかった。
    6579