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DOODLEpixivにアップしてたの引っ込めたのでこちらに過去ログ31これが夢だということはすぐにエディは理解していた。自分は決して反社会的ではなかったし、暴力沙汰も好まなかった。だから今、この両手が血に染まっていることは夢だとすぐに気づくことができた。骨まで焼けつくような憤怒も。今すぐにでも目の前の男を殺してやりたいと思うほど増幅する殺意も。
「俺はお前なんか知らない」
目前の人物は細身ながら引き締まった青年だろうことが伺える。赤と青のスーツに身を包んだ体は地面に伏していた。エディが、ヴェノムがそうさせたのだ。拳で殴打し、腹部を蹴り上げ、爪で皮膚を裂いた。猫が鼠を嬲る残忍さだった。普段のヴェノムからは想像もできないような行動だっただろう。これが正義の元の鉄槌だったとしても決してここまでするはずがない。そして今はあんなに煩わしかったはずのヴェノムの声は聞こえなかった。何度も呼びかけてもお節介なエイリアンの声はエディの耳にも脳にも届かない。声はなくともエディに響く言葉はあった。それは一つ、『殺せ』。それだけだ。戦意を失った奴にトドメを刺せ。心臓を抉り出せ。脳を食い破れ。到底正気ではない言葉が投げかけられる。どうしたんだというエディの問いかけにも応えない。いくら夢であってもこんな悪夢があってたまるだろうか。
5283「俺はお前なんか知らない」
目前の人物は細身ながら引き締まった青年だろうことが伺える。赤と青のスーツに身を包んだ体は地面に伏していた。エディが、ヴェノムがそうさせたのだ。拳で殴打し、腹部を蹴り上げ、爪で皮膚を裂いた。猫が鼠を嬲る残忍さだった。普段のヴェノムからは想像もできないような行動だっただろう。これが正義の元の鉄槌だったとしても決してここまでするはずがない。そして今はあんなに煩わしかったはずのヴェノムの声は聞こえなかった。何度も呼びかけてもお節介なエイリアンの声はエディの耳にも脳にも届かない。声はなくともエディに響く言葉はあった。それは一つ、『殺せ』。それだけだ。戦意を失った奴にトドメを刺せ。心臓を抉り出せ。脳を食い破れ。到底正気ではない言葉が投げかけられる。どうしたんだというエディの問いかけにも応えない。いくら夢であってもこんな悪夢があってたまるだろうか。
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DOODLEpixivにアップしてたの引っ込めたのでこちらに過去ログ8肌寒い風が吹く、ある日の午後のこと。
エディ・ブロックは二つの花束を腕に抱えて白い墓石の前に立っていた。墓石に刻まれた名前は、ドーラ・スカース。彼女の墓石の前には、おそらく彼女の子供が残していったのだろう手紙と花が置かれている。
手紙の上に乗った無遠慮な落ち葉を払うと、エディも抱えていた花束を添えた。彼女が何の花が好きだったかなど知らないし、子供の名前すらも知らなかった。しかし、彼女は家族に愛されていたのだろう。磨かれた墓石と手紙と花。それだけで十分だった。
彼女を守ることができなかったこと。今になってそれが悔やまれる。もっと彼女のことを知っていれば彼女を守ることもできたかもしれないのにという後悔だけは、エディの胸にへばりつき削ぎ落ちることもない。
3580エディ・ブロックは二つの花束を腕に抱えて白い墓石の前に立っていた。墓石に刻まれた名前は、ドーラ・スカース。彼女の墓石の前には、おそらく彼女の子供が残していったのだろう手紙と花が置かれている。
手紙の上に乗った無遠慮な落ち葉を払うと、エディも抱えていた花束を添えた。彼女が何の花が好きだったかなど知らないし、子供の名前すらも知らなかった。しかし、彼女は家族に愛されていたのだろう。磨かれた墓石と手紙と花。それだけで十分だった。
彼女を守ることができなかったこと。今になってそれが悔やまれる。もっと彼女のことを知っていれば彼女を守ることもできたかもしれないのにという後悔だけは、エディの胸にへばりつき削ぎ落ちることもない。
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DOODLEpixivにアップしてたの引っ込めたのでこちらに過去ログ7「エディ」
低く、唸るような声は凶悪に響くだろう。その声が頭の中に初めて響いたときは怯えたものだった。だが、今はその声は優しく親しげなものに聞こえる。
粗末なアパートの一室に置かれたソファーに腰をかけながらエディはその声に応えた。
「なんだよ。腹でも減ったか?」
シンビオートは直接内側から話しかけてくるのだから、自身も内心で語りかけるだけで会話ができればいいのだが。そう思った場面も多々あったが、最早人目を避けて会話をするのは慣れっこだった。適応力が高いのはいいことだ、と褒めてくれたのがエディの内部に巣食うシンビオートだったのが少々シャクではあったが。そんな他愛もない考えも全てシンビオートには筒抜けなのだろう。ソファーに腰掛けるエディの背後から生えるようにコールタールに似たシンビオートが顔を覗かせた。エディの顔を覗き込んだその表情は一目瞭然。不満を感じていることが分かった。だがきっと、この表情を機敏に読み取ることができるのはエディしかいないだろう。ずらりと並んだ如何にも肉食といった牙が立ち並ぶ裂けた口に、表情のない模様のような瞳。
4390低く、唸るような声は凶悪に響くだろう。その声が頭の中に初めて響いたときは怯えたものだった。だが、今はその声は優しく親しげなものに聞こえる。
粗末なアパートの一室に置かれたソファーに腰をかけながらエディはその声に応えた。
「なんだよ。腹でも減ったか?」
シンビオートは直接内側から話しかけてくるのだから、自身も内心で語りかけるだけで会話ができればいいのだが。そう思った場面も多々あったが、最早人目を避けて会話をするのは慣れっこだった。適応力が高いのはいいことだ、と褒めてくれたのがエディの内部に巣食うシンビオートだったのが少々シャクではあったが。そんな他愛もない考えも全てシンビオートには筒抜けなのだろう。ソファーに腰掛けるエディの背後から生えるようにコールタールに似たシンビオートが顔を覗かせた。エディの顔を覗き込んだその表情は一目瞭然。不満を感じていることが分かった。だがきっと、この表情を機敏に読み取ることができるのはエディしかいないだろう。ずらりと並んだ如何にも肉食といった牙が立ち並ぶ裂けた口に、表情のない模様のような瞳。