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    #天城燐音

    amagiPhosphorus

    m_matane_

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     あの頃。僕らが生まれたてみたいに何も知らなくて、それでも赤ん坊とは呼べない程度には傷まみれだった頃。
     17歳の燐音くんはいつだって怒っていた。知識や常識がない故に納得できない事象が多く、それにぶつかるたびに怒った。周りにも、ものを知らなさすぎる自分に対しても。野菜の値段に怒り、電車の優先席に座る若者に怒り、ポイ捨てされているゴミに対して怒った。自分の常識と世間の常識の中でぐらぐらと揺れながら、プライドをすり減らしながら、それでも声を上げた。
     怒るといっても声を荒げて暴れまわるわけではなかった。かたちのいい目をしっかり開いて、青いくらいにひかる白目にぎらっと怒りを宿して、理解の範疇外の対象を見つめた。その様子を見るたびに僕は、彼の心に小さな傷がついていく音が聞こえたような気分になった。失望して、怒って、それでも赦したくて立ち上がり続ける燐音くんに、「きれいごとだけじゃ世の中は回らないっすよ」と言ってあげられたらどれほど良かったんだろう。とはいえ、そんな残酷なことを誰も言えやしなかったに違いない。少なくとも僕には到底無理だった。背筋を伸ばして、透き通った眼で物事を見る彼を曇らせたくなかった。
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