badger_0107
DONE■LXHワンライのお題だった「黑咻」「あたたかい」をお借りしてます■映画軸師弟
■捏造もりもり
暖暖和和 余韻嫋々と渡る笛の音に目を覚ます。
「ショ」
幾度か瞬き、潜りこんで眠っていた、ぼく/小黒の懐からもぞもぞと抜け出た。暗く埃っぽい廃屋を、身体全部を使ってぐるりと見回す。石の床に即席で造った竈の中で小さな炎が揺れているが、灯りの届く範囲に人影はない。
「ヘイショ」
埃を巻き上げて軽く弾みながら、扉が朽ちて落ちた玄関へ向かう。沓摺へ跳び乗って、中庭へ目を凝らした。
「ショ~」
庭木が野放図に枝を伸ばし、手入れもされぬまま瓦が抜け落ちている月亮門が口を開け、蛾眉の月に照らされる荒れた光景の中に、ただ一つ座す人影がある。長年の風雨と苔にくすんだ青秞の磁鼓橙に腰を下ろして、端然と笛を奏でている。柔らかな音に誘われて近くまで行き、しかし距離は保ったままで、大きな目を凝らした。気づいた無限が笛から唇を離して、静かに首を巡らす。目が合うや、微笑みかけられた。
3971「ショ」
幾度か瞬き、潜りこんで眠っていた、ぼく/小黒の懐からもぞもぞと抜け出た。暗く埃っぽい廃屋を、身体全部を使ってぐるりと見回す。石の床に即席で造った竈の中で小さな炎が揺れているが、灯りの届く範囲に人影はない。
「ヘイショ」
埃を巻き上げて軽く弾みながら、扉が朽ちて落ちた玄関へ向かう。沓摺へ跳び乗って、中庭へ目を凝らした。
「ショ~」
庭木が野放図に枝を伸ばし、手入れもされぬまま瓦が抜け落ちている月亮門が口を開け、蛾眉の月に照らされる荒れた光景の中に、ただ一つ座す人影がある。長年の風雨と苔にくすんだ青秞の磁鼓橙に腰を下ろして、端然と笛を奏でている。柔らかな音に誘われて近くまで行き、しかし距離は保ったままで、大きな目を凝らした。気づいた無限が笛から唇を離して、静かに首を巡らす。目が合うや、微笑みかけられた。
muki_rururu
PAST2020/pixivサルベージ羅小黒戦記ログ③ pixivにまとめたのは2021年6月なんだけどほぼ2020のものです 後半にいくほどなんかネト……としてる
注意:未成年の軽度な性的消費(性的な視線の滲み) 34
桜道明寺
DONETwitterまとめ・1残香【君閣の窓辺で老君がささやかに花見をする話】
ふわと入り込んだ外気に、甘い香りを感じた。老君は振り向くと、かれの忠実な下僕が手に下げた一枝の桃花を見やって、わずかに眼を細めた。
「おや、どうしたんだい」
かれの下僕——諦聴は眉ひとつ動かさぬまま、つと手を伸ばして、老君にその枝を手渡す。花の香りが柔らかく鼻先を包んで、擽ったいような気分になる。
「折ってきたのかい? 悪い子だ」
笑い含みに問うてはみたものの、そうでないことは切り口を見れば明らかだった。すぱりと斜めに走った鋭利な切り口は、最初から飾ることを目的に切り離されたものだと見当がつく。花も五分咲きで、まだ散るような頃合いではない。それでもあえてそう言ったのは、かれの下僕が花を贈るにはあまりにも憮然とし過ぎていたからだ。人に花を贈るのに、その表情はないだろう。ついからかいたくなるのはかれの悪い癖だが、諦聴は、そんな主の視線からふいと目を逸らすと、
6238ふわと入り込んだ外気に、甘い香りを感じた。老君は振り向くと、かれの忠実な下僕が手に下げた一枝の桃花を見やって、わずかに眼を細めた。
「おや、どうしたんだい」
かれの下僕——諦聴は眉ひとつ動かさぬまま、つと手を伸ばして、老君にその枝を手渡す。花の香りが柔らかく鼻先を包んで、擽ったいような気分になる。
「折ってきたのかい? 悪い子だ」
笑い含みに問うてはみたものの、そうでないことは切り口を見れば明らかだった。すぱりと斜めに走った鋭利な切り口は、最初から飾ることを目的に切り離されたものだと見当がつく。花も五分咲きで、まだ散るような頃合いではない。それでもあえてそう言ったのは、かれの下僕が花を贈るにはあまりにも憮然とし過ぎていたからだ。人に花を贈るのに、その表情はないだろう。ついからかいたくなるのはかれの悪い癖だが、諦聴は、そんな主の視線からふいと目を逸らすと、
InkLxh
DONE3月、通販申し込みしてくださった方にお付けした無配でした。桜と師弟。薄青い空を、幼い子が見上げている。
空には細やかな桜の花弁が散り、風を受けている。小黒は私の見ているところで、私を見ず、只、空を見ていた。
人の手の行き渡らない自然のはざまで生まれ、育った時間は決してすべてが柔らかく穏やかなものではなかっただろう。けれど今、大木から降り落ちる桜を見つめる瞳は世界の小さな美しさを捉え、硝子玉のようにかがやいている。それをあの子はどう思っているのだろうか。倖せだと、感じているだろうか。
その瞳を覗き込みたくなった。桜という、私からしてみればもう何度見たか分からない、季節の象りを前にしてかがやく魂を、遠くから見ているだけではきっと飽き足らない。私の心にはそういう、たまに現れるしたたかな欲があった。あの子と過ごすようになって、まろみのある指を握り起き、眠ってを繰り返す毎に、欲は確かなものになっていった。
あの子が生きている歓びを感じているとき、そばにいたい。
あの子が見つめ、感じるものを、私も見て、なにかを思いたい。
そんな風に思っては、こうして季節の巡るときに、小黒と外に連れ立ち、見慣れた光景を見てはそこにいるあの子のたたえる笑みの暖かさを身に沁みさせ、 958