翠蘭(創作の方)
DONE入学直後契約以前の篠のお話滲む赤色 指先が赤く濡れた。
本土から離れた離島に存在する五社学園では、勉学の他に「神殺し」が義務づけられている。簡単に言えば、神と呼ばれる人外のそれと、命のやり取りを行わなければならない。神は詠手と呼ばれる学生の血のみを喰らい、舞手と呼ばれる学生にしか倒すことはできない。詠手は舞手を補助することが可能で、契約を結ぶことにより舞手の治療・強化を行うことが出来る。
詠手は読んで字の如く、詩を詠むことで強化や防衛、補助を行うことが出来る。その力は想像力に左右される部分がある。
東雲篠は詠手だ。入学して一月も経たない、この戦場に駆り出されたばかりの、大人びた少女である。現在、困ったような顔をして、息を潜めている最中であった。
1859本土から離れた離島に存在する五社学園では、勉学の他に「神殺し」が義務づけられている。簡単に言えば、神と呼ばれる人外のそれと、命のやり取りを行わなければならない。神は詠手と呼ばれる学生の血のみを喰らい、舞手と呼ばれる学生にしか倒すことはできない。詠手は舞手を補助することが可能で、契約を結ぶことにより舞手の治療・強化を行うことが出来る。
詠手は読んで字の如く、詩を詠むことで強化や防衛、補助を行うことが出来る。その力は想像力に左右される部分がある。
東雲篠は詠手だ。入学して一月も経たない、この戦場に駆り出されたばかりの、大人びた少女である。現在、困ったような顔をして、息を潜めている最中であった。
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DONE華軍企画内企画『彼岸(悲願)の向日葵』での別サイドの話。忌々しい日差しの中、向日葵が姉妹を見つめていた。しにたがりの話「お前は違う」
同じ顔、同じ声、同じ背丈。少女の首を絞めながら、はっきり告げる。
「お前は違う、あの子じゃない。あの子は死んだんだ」
もがき苦しむ少女の首を絞め上げながら、叫ぶ。力の込められた手は細く、このままでは首と共に折れてしまうのではないかとさえ思わせた。
「私の知らないところで、私が知らない場所で、あすかは死んだの、私を置いて逝ったの。貴女はいつもそう、私の事をおいて先に行ってしまう。なんでも私より出来て、だから飛び級して先に高校生になって」
少女の顔が歪む。
「私信じられなかったの、貴女が死んだって聞かされて、でも遺体は戻ってこなくて。貴女と離れて一年も経ってなかった、早く帰ってきてほしくて仕方なかった、なのに」
1487同じ顔、同じ声、同じ背丈。少女の首を絞めながら、はっきり告げる。
「お前は違う、あの子じゃない。あの子は死んだんだ」
もがき苦しむ少女の首を絞め上げながら、叫ぶ。力の込められた手は細く、このままでは首と共に折れてしまうのではないかとさえ思わせた。
「私の知らないところで、私が知らない場所で、あすかは死んだの、私を置いて逝ったの。貴女はいつもそう、私の事をおいて先に行ってしまう。なんでも私より出来て、だから飛び級して先に高校生になって」
少女の顔が歪む。
「私信じられなかったの、貴女が死んだって聞かされて、でも遺体は戻ってこなくて。貴女と離れて一年も経ってなかった、早く帰ってきてほしくて仕方なかった、なのに」
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DONE華軍企画内企画、「彼岸(悲願)の向日葵」の自宅の話幸せな夢を断つ話 終 たくさんの向日葵の中に、少女と、両親を見た。幼い娘が母に抱かれている。父が姉の手を引いて、隣を歩いていた。両親は笑って、姉と、腕の中の幼子を見ている。
姉が少女に手を伸ばす。
「かよー!」
かよ、と呼ばれた幼子は、自身に向かって伸ばされた手をぎゅっと握り、笑った。
きっと、これは夢なんだと、姉の手を握りしめながら夏宵は思った。
夏宵は確かに幼いかもしれないけど、今は十二歳だ。抱かれるほどの年齢じゃない。それに、彼女の両親はもういない。この記憶から暫く経った後、ふたりを庇って死んでしまったらしい。よく覚えていないのだ。それからは姉とふたりきりだったが、姉は、今年の二月から行方をくらましてしまった。
2498姉が少女に手を伸ばす。
「かよー!」
かよ、と呼ばれた幼子は、自身に向かって伸ばされた手をぎゅっと握り、笑った。
きっと、これは夢なんだと、姉の手を握りしめながら夏宵は思った。
夏宵は確かに幼いかもしれないけど、今は十二歳だ。抱かれるほどの年齢じゃない。それに、彼女の両親はもういない。この記憶から暫く経った後、ふたりを庇って死んでしまったらしい。よく覚えていないのだ。それからは姉とふたりきりだったが、姉は、今年の二月から行方をくらましてしまった。
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DONE華軍企画内企画、「彼岸(悲願)の向日葵」の自宅の話幸せな夢を断つ話 六「未? 大丈夫なの?」
目の前で膝を着き、動かなくなった少女に、月待依宵は狼狽えながら手を差し出す。それは、生前の彼女そっくりだった。知り合いであろうと無かろうと、彼女は手を差し伸べる。そういう人だった。
「未、具合が悪いなら、今日はもう帰ろう?」
「……」
返事はない。聞こえていないのだろうか。
「ねぇ、ひつ」
「先輩」
鋭い声が耳に届く。
「月待先輩。──月待依宵、先輩」
「……なぁに?」
突然フルネームで自分を呼ぶ彼女に困惑しながら、依宵は返事をする。
「貴女は、もう、いないんですね」
「……」
依宵は、不意を突かれたのか、声を出せなかったらしい。
「ならば約束通り、貴女を弔わなければ」
1765目の前で膝を着き、動かなくなった少女に、月待依宵は狼狽えながら手を差し出す。それは、生前の彼女そっくりだった。知り合いであろうと無かろうと、彼女は手を差し伸べる。そういう人だった。
「未、具合が悪いなら、今日はもう帰ろう?」
「……」
返事はない。聞こえていないのだろうか。
「ねぇ、ひつ」
「先輩」
鋭い声が耳に届く。
「月待先輩。──月待依宵、先輩」
「……なぁに?」
突然フルネームで自分を呼ぶ彼女に困惑しながら、依宵は返事をする。
「貴女は、もう、いないんですね」
「……」
依宵は、不意を突かれたのか、声を出せなかったらしい。
「ならば約束通り、貴女を弔わなければ」
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DONE華軍企画内企画、「彼岸(悲願)の向日葵」の自宅の話、五話目回想
幸せな夢を断つ話 五「未、ちょっといい?」
思い出すのは昔の、といっても一年も経過していない時期の記憶。月待依宵に久々に再会した夜咲未は、中庭で彼女と対峙していた。
冬に入ってから会う機会が減っていたため、三ヵ月振りくらいだろうか。依宵は、痛々しい姿をしていた。指先には絆創膏、至るところにガーゼを当て、足にも腕にも頭にも包帯が巻かれていた。顔の半分が覆われていて、片目を見ることが出来ない。
一体どうして、何があったのかと、中庭に向かいながら彼女に聞いても、なにも答えてくれない。ただスカートを翻しながら、先を進む。
足を止めた。そこは、よく二人で昼御飯を食べていた場所だった。
2080思い出すのは昔の、といっても一年も経過していない時期の記憶。月待依宵に久々に再会した夜咲未は、中庭で彼女と対峙していた。
冬に入ってから会う機会が減っていたため、三ヵ月振りくらいだろうか。依宵は、痛々しい姿をしていた。指先には絆創膏、至るところにガーゼを当て、足にも腕にも頭にも包帯が巻かれていた。顔の半分が覆われていて、片目を見ることが出来ない。
一体どうして、何があったのかと、中庭に向かいながら彼女に聞いても、なにも答えてくれない。ただスカートを翻しながら、先を進む。
足を止めた。そこは、よく二人で昼御飯を食べていた場所だった。
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DONE華軍企画内企画、「彼岸(悲願)の向日葵」の自宅の話、三話目 疑念の話幸せな夢を断つ話 三 五月の連休明け以降、月待依宵と共に行動することが増えた。最初は依宵が勝手に着いて来たり、戦闘に割って入ったりだったが、いつの間にか、未から彼女の側に行くことが多くなっていた。
交流を重ねるうちに、依宵の両親は、彼女と妹を庇って死んだのだと教えてくれた。相手は人間ではなく化け物だったが、周りに言っても信じてくれなかったという。相手のことが怖くて、そういう風に見えたのだろうと。しかし、五社に来て、それが『神擬』だったのだと知った。
神擬とは、成り損ないのなにか。詠手の血を求める神とは違い、人間の血肉を貪るモノだ。学生には殺すことが出来ないが、大人であれば対応が出来るという。五社よりも本土での目撃が多いが、そもそもの数は少ないため、都市伝説程度の扱いを受けている。
2265交流を重ねるうちに、依宵の両親は、彼女と妹を庇って死んだのだと教えてくれた。相手は人間ではなく化け物だったが、周りに言っても信じてくれなかったという。相手のことが怖くて、そういう風に見えたのだろうと。しかし、五社に来て、それが『神擬』だったのだと知った。
神擬とは、成り損ないのなにか。詠手の血を求める神とは違い、人間の血肉を貪るモノだ。学生には殺すことが出来ないが、大人であれば対応が出来るという。五社よりも本土での目撃が多いが、そもそもの数は少ないため、都市伝説程度の扱いを受けている。
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DONE華軍企画内企画、「彼岸(悲願)の向日葵」の自宅の話、二話目昔の話
幸せな夢を断つ話 二 月待依宵という、赤いリボンの髪飾りが似合う仙狐の生徒は、多くの後輩に優しかったから、すれ違った生徒が彼女に手を振ったり、穏やかに話しかけたりすることが多々あった。彼女自身も、何かあれば後輩を気に掛け、相談を受けたり、時には共闘した。
五社の生徒は、武器を用いて神を戦うことが出来る舞手と、術を使い、舞手を援護する詠手の二種類にわけられる。依宵は舞手だった。一対のハルパーを使って神殺しを行う。彼女は神を殺すことを、弔いであると称していた。
「彼らを殺してあげられるのは、私達しかいないから、だから私にとって、神殺しは弔いなの」
そう、同級生にそう語ったことがある。
2328五社の生徒は、武器を用いて神を戦うことが出来る舞手と、術を使い、舞手を援護する詠手の二種類にわけられる。依宵は舞手だった。一対のハルパーを使って神殺しを行う。彼女は神を殺すことを、弔いであると称していた。
「彼らを殺してあげられるのは、私達しかいないから、だから私にとって、神殺しは弔いなの」
そう、同級生にそう語ったことがある。
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DONE華軍企画内企画、「彼岸(悲願)の向日葵」の自宅の話幸せな夢を断つ話 一 あれほど鮮やかだった世界が、ほんの少し柔らかい色へと変わりつつある。それでも太陽は容赦無く地上を照らしていた。そんな光を反射した、華やかな黄色い花弁が見える。
「一見普通のひまわり畑ですね、綺麗」
小さな少女が呟いた言葉に、隣にいた人物は苦言を呈する。
「校内に、向日葵が咲く場所は、皆無だ。それに、この花の時期は、もう終わっている」
数輪だけなら、花壇で咲いているなら、誰かが種を埋めたのではないかと思うこともできただろう。しかし、二人の視界に映る場所一面に、向日葵は咲いていた。第二グラウンドとテニスコート、そして室内プールが設備されている建物の近く、本来であれは更地である場所に、五メートルはあるであろう大輪の花がたくさん在る。
1933「一見普通のひまわり畑ですね、綺麗」
小さな少女が呟いた言葉に、隣にいた人物は苦言を呈する。
「校内に、向日葵が咲く場所は、皆無だ。それに、この花の時期は、もう終わっている」
数輪だけなら、花壇で咲いているなら、誰かが種を埋めたのではないかと思うこともできただろう。しかし、二人の視界に映る場所一面に、向日葵は咲いていた。第二グラウンドとテニスコート、そして室内プールが設備されている建物の近く、本来であれは更地である場所に、五メートルはあるであろう大輪の花がたくさん在る。