小栗ビュン
DOODLEお題「本当は怖いんだ」二月二十日卒業まであと少し。
先日の雪は、自由登校の期間には引越しの準備を手間を取らされた。専門学校へ入学して、一人暮らしをする準備をしている。
この期間、誰とも会わなかったわけでもなくて、勿論西谷とは会っていたし、大地やスガ、清水とも会ったりした。体育館に覗きにも行ったし、引退してからもジャージを少しだけ着た。こうして自分が移り変わっていく日々に、雪の日は思い返させるのだった。
これでいいのだろうか。
本当はもっと、西谷と過ごす時間があるべきなのでは無いか。
更に考えは進んでいく。
東京へ発った後、西谷は高校生活をスポーツで過ごし、そして可愛い彼女を見つけたりして、俺との日々は次第に薄くなっていくのでは無いかと思えて来るのだった。しんしんと積もる雪は、そんな考えの静かな蓄積に思えたものだった。
1802先日の雪は、自由登校の期間には引越しの準備を手間を取らされた。専門学校へ入学して、一人暮らしをする準備をしている。
この期間、誰とも会わなかったわけでもなくて、勿論西谷とは会っていたし、大地やスガ、清水とも会ったりした。体育館に覗きにも行ったし、引退してからもジャージを少しだけ着た。こうして自分が移り変わっていく日々に、雪の日は思い返させるのだった。
これでいいのだろうか。
本当はもっと、西谷と過ごす時間があるべきなのでは無いか。
更に考えは進んでいく。
東京へ発った後、西谷は高校生活をスポーツで過ごし、そして可愛い彼女を見つけたりして、俺との日々は次第に薄くなっていくのでは無いかと思えて来るのだった。しんしんと積もる雪は、そんな考えの静かな蓄積に思えたものだった。
小栗ビュン
DONE東西真ん中バースデー!!大人時代からさらに十年後の東峰旭とモブ女子の会話。
十年後のバースデー「東峰さん、お疲れ様でした。」
春の新作の発表を無事に終えることができて、そのお披露目ショウが終わった会場でただ立ち尽くしていた時だった。後輩の女子社員から労いの言葉を貰い、ふと我にかえる。
「ありがとう、細かいところも手伝ってもらえて、本当に助かった。」
いつの間にか後輩が出来て、追い抜かれたりする焦りも感じて、あっという間の十年間だった。ヘーゼルナッツのような色の柔らかい髪が、微笑んだ際に揺れた。
「お疲れ様でした、先輩。」
「ありがとう。」
それからちらほらと後輩がやってくる。片付けを手伝ってくれる事務所の後輩達を見ていると、つい最近まで一緒にコートの中にいたあいつらを思い出す。あの時から、倍の年齢を生きている。三十代はあっという間だなんて言うけれど、全くその通りだった。俺は最初に入ったデザイン事務所に籍を置きながら、フリーの仕事も手がけて生きている。アパレルデザイナーだけあって、皆個性的な服で働いている姿を見ると、あの二色で統一されたユニフォームを着た排球男児が恋しくなるのは何故だろう。大きな仕事を終えた日に限って、何故懐かしむ感情が強くなるのだろう。
2554春の新作の発表を無事に終えることができて、そのお披露目ショウが終わった会場でただ立ち尽くしていた時だった。後輩の女子社員から労いの言葉を貰い、ふと我にかえる。
「ありがとう、細かいところも手伝ってもらえて、本当に助かった。」
いつの間にか後輩が出来て、追い抜かれたりする焦りも感じて、あっという間の十年間だった。ヘーゼルナッツのような色の柔らかい髪が、微笑んだ際に揺れた。
「お疲れ様でした、先輩。」
「ありがとう。」
それからちらほらと後輩がやってくる。片付けを手伝ってくれる事務所の後輩達を見ていると、つい最近まで一緒にコートの中にいたあいつらを思い出す。あの時から、倍の年齢を生きている。三十代はあっという間だなんて言うけれど、全くその通りだった。俺は最初に入ったデザイン事務所に籍を置きながら、フリーの仕事も手がけて生きている。アパレルデザイナーだけあって、皆個性的な服で働いている姿を見ると、あの二色で統一されたユニフォームを着た排球男児が恋しくなるのは何故だろう。大きな仕事を終えた日に限って、何故懐かしむ感情が強くなるのだろう。
小栗ビュン
DOODLEセクピスパロ設定。水底のカタルシス部活の終わりに、西谷の誕生日が近いという話になって、例のアイスを奢るか、昼飯を奢るか、どうするかなんて話で少し盛りあがった。本人は多分遠慮してアイスでいいと言っていたのだろうが、照れながらもとても嬉しそうにしている顔は自然で可愛いものだった。嬉しいことに、素直に喜べるやつは、きっとどこでも可愛がられる。素直で、正直で、率直な言葉を出せる西谷は、どこまでも真っ直ぐなんだなと思った。
でも、それは一般的な西谷の印象であり、もしかしたら、西谷がそう意識して育ててきた部分かもしれない。
そしてその逆の、人に言えないことや、隠し事で渦巻く体内かもしれない。誰かが寝ている隙にマーキング紛いのことをするような。それを知られたくないという気持ちを持っていたりするような。西谷にも、もう少しドロっとしたものがあるのかもしれない。
8395でも、それは一般的な西谷の印象であり、もしかしたら、西谷がそう意識して育ててきた部分かもしれない。
そしてその逆の、人に言えないことや、隠し事で渦巻く体内かもしれない。誰かが寝ている隙にマーキング紛いのことをするような。それを知られたくないという気持ちを持っていたりするような。西谷にも、もう少しドロっとしたものがあるのかもしれない。
小栗ビュン
DOODLEセクピスパロ設定東西。終わりか続くかは未定です。
水底のカタルシス多分、俺はもう死ぬんだろうなって。
気を失っても、とにかく寒くて、寒くて、心臓が震えているのを感じている。心臓の震えが全身を揺らしていく。出来ていない呼吸が更に上手く出来ずにいるうちに、体が困って悲鳴を上げ始める。そして直ぐに、混濁状態になって震える元気すらなくなる。
この瞬間、死ぬんだろなって思うんだ。
今も。
冷えきって、涙とか多分外に出てしまっている。
そのまま死ぬなら、一度だけでいいから、好きな人とか欲しかったなって思うんだ。中学生みたいな思考だけど、一度ぐらいは誰かを好きになって、結ばれて、自分の両親のような親になりたかった。高校生からそんなこと考えるなんて、少し変でしょう。それでも、この世界はそれが当たり前なんだ。繁殖することが義務みたいなものだから。それなら、好きになった人と、家族になりたかった。
8443気を失っても、とにかく寒くて、寒くて、心臓が震えているのを感じている。心臓の震えが全身を揺らしていく。出来ていない呼吸が更に上手く出来ずにいるうちに、体が困って悲鳴を上げ始める。そして直ぐに、混濁状態になって震える元気すらなくなる。
この瞬間、死ぬんだろなって思うんだ。
今も。
冷えきって、涙とか多分外に出てしまっている。
そのまま死ぬなら、一度だけでいいから、好きな人とか欲しかったなって思うんだ。中学生みたいな思考だけど、一度ぐらいは誰かを好きになって、結ばれて、自分の両親のような親になりたかった。高校生からそんなこと考えるなんて、少し変でしょう。それでも、この世界はそれが当たり前なんだ。繁殖することが義務みたいなものだから。それなら、好きになった人と、家族になりたかった。
小栗ビュン
DONE6話中6話目。東峰旭編。海獣のバラード~その果て~腕の中にいたあたたかい体温。西谷のものとはまた違って、肌の質感も大きも何もかもが違った。俺の子どもの頃とまったく同じ顔をして、俺の顔を楽しそうに触る。まるで父親にさせてくれたような錯覚を与えてくれる。
自分の手から離れていって、本当の父親と母親の元へ戻って行ったところを見て、自分の気持ちが収まるのもまた改めて知った気がした。
あの親子には、あの親子の時の流れがあって、覚悟があって、切望した後にある幸福があった。それはたとえ人ではなくても、人であっても、誰にも重ならないオンリーワンのものでしかない。俺と西谷では得られないものだし、俺と西谷が求めるものとはまた違ったものだと勝手に感じたものだった。
生まれてきた体は、本来の機能を働かせるために生きようとする。けれど、自分を受け止めて繋いでくれる相手の体は、必ず互いの本来の機能を求め合うとも限らない。だから俺達は、惹かれあった。相手が、自分達だったからこうなった。睡眠欲も食欲も、性欲もともに満たそうとする相手だ。
8851自分の手から離れていって、本当の父親と母親の元へ戻って行ったところを見て、自分の気持ちが収まるのもまた改めて知った気がした。
あの親子には、あの親子の時の流れがあって、覚悟があって、切望した後にある幸福があった。それはたとえ人ではなくても、人であっても、誰にも重ならないオンリーワンのものでしかない。俺と西谷では得られないものだし、俺と西谷が求めるものとはまた違ったものだと勝手に感じたものだった。
生まれてきた体は、本来の機能を働かせるために生きようとする。けれど、自分を受け止めて繋いでくれる相手の体は、必ず互いの本来の機能を求め合うとも限らない。だから俺達は、惹かれあった。相手が、自分達だったからこうなった。睡眠欲も食欲も、性欲もともに満たそうとする相手だ。
小栗ビュン
DONE6話中5話目。西谷夕編。海獣のバラード~この果て~旭さんは大きな仕事を任されたり、小さな仕事で苦戦したり、時々ぼんやりしながら一生懸命働いていた。その時々というのは、多分自分達と同じ顔をした、あの親子のことを思っているんだろう。それは俺も同じで、この一年でふたつの国をゆっくり回ったけれど、海を見かける度にあの親子や先輩と同じ顔をしたふたりを思い出した。
あの旅は、旭さんとの生活を変えた大事件だった。結局誰にもあの旅のことは話していない。しばらくは、旭さん自身も俺もあの親子の話をすることを控えていたような気がする。信じているけれど、その後がどうなったのか、やはり心の底で怯えていたんだろうと思う。
「元気かな」って呟いて、「きっとめっちゃ育ってますよ」とか話したり、「早く夏になるといいね」って言って自分達と同じ顔をした海獣達を信じることにおさまった。
9312あの旅は、旭さんとの生活を変えた大事件だった。結局誰にもあの旅のことは話していない。しばらくは、旭さん自身も俺もあの親子の話をすることを控えていたような気がする。信じているけれど、その後がどうなったのか、やはり心の底で怯えていたんだろうと思う。
「元気かな」って呟いて、「きっとめっちゃ育ってますよ」とか話したり、「早く夏になるといいね」って言って自分達と同じ顔をした海獣達を信じることにおさまった。
小栗ビュン
DONE6話中4話目。シャチアサヒ編。海獣のバラード~最果て~人の子のユウに海の進み方と目的地を教えてもらって、ダイチとスガと共に慣れ親しんだ海を離れた。北の海は沢山の漁師がいるから、それらに見つからないように、すり抜けるようにして移動する。網だとかにかかっても嫌だし、銛で突かれても死にはしないけど、痛いのは嫌だもんな。
本当にユウと合流出来るのか不安だった。ダイチとスガがついてきてくれたことで、進むにつれてその不安はだいぶ減っていったけれど、合流できたそこでまさか「旭さん」もいるとは思わなかった。本当に俺と同じ顔をしているんだなって思ったし、海の中からでもユウが「旭さん」に大事にされているのは分かったから、とりあえず引っ込んだんだよね。
失恋とはまた違うけど、やっぱりあの子を食っておけばよかったかなとも思ったし、そしたら「旭さん」は俺を恨むだろうし、俺と俺で争うことになるかもね。そういうのは、好きじゃない。争うとか、奪うとか、やっぱりいいことには繋がらないよね。「旭さん」といるあの子の顔を見たら、やっぱり納得出来たし。だからその夜は大人しくダイチとスガと休むことにしたんだ。
8674本当にユウと合流出来るのか不安だった。ダイチとスガがついてきてくれたことで、進むにつれてその不安はだいぶ減っていったけれど、合流できたそこでまさか「旭さん」もいるとは思わなかった。本当に俺と同じ顔をしているんだなって思ったし、海の中からでもユウが「旭さん」に大事にされているのは分かったから、とりあえず引っ込んだんだよね。
失恋とはまた違うけど、やっぱりあの子を食っておけばよかったかなとも思ったし、そしたら「旭さん」は俺を恨むだろうし、俺と俺で争うことになるかもね。そういうのは、好きじゃない。争うとか、奪うとか、やっぱりいいことには繋がらないよね。「旭さん」といるあの子の顔を見たら、やっぱり納得出来たし。だからその夜は大人しくダイチとスガと休むことにしたんだ。
小栗ビュン
DONE6話中2話目。シャチアサヒ編。海獣のバラード~大海獣~ダイチとスガが居てくれれば、寂しくはない。
けれど、自分の半分が見つからないままでいて落ち着かない。それが流れついて出会った、ユウだったのもわかっている。
出会ったのが、もう何年前だったかは忘れたよ。
でも、出会ったその時のことは、その日のことは忘れない。
忘れられない。
忘れてしまったら、俺は自分の半分を失ったまま、きっとただ生きるだけだ。
連日変な天気が続いて、波も気持ち悪い動きをしていたある日。寒流と暖流がめちゃくちゃになって、普段は見ない魚や生き物を見かけた日だった。秋刀魚が酔っ払って変な方向に泳いで行ったっけ。大抵は流れに任せて俺たちを素通りしていくんだけど、人魚は人魚同士、出会えたら挨拶もするわけで。「勝手に流れ着いてすんません!」て敬礼するみたいに背筋を伸ばして、俺達に挨拶をしたんだ。変な子だなって、でも可愛いなって思って、胸がくすぐったかった。恋をするのも、一瞬だった。
8653けれど、自分の半分が見つからないままでいて落ち着かない。それが流れついて出会った、ユウだったのもわかっている。
出会ったのが、もう何年前だったかは忘れたよ。
でも、出会ったその時のことは、その日のことは忘れない。
忘れられない。
忘れてしまったら、俺は自分の半分を失ったまま、きっとただ生きるだけだ。
連日変な天気が続いて、波も気持ち悪い動きをしていたある日。寒流と暖流がめちゃくちゃになって、普段は見ない魚や生き物を見かけた日だった。秋刀魚が酔っ払って変な方向に泳いで行ったっけ。大抵は流れに任せて俺たちを素通りしていくんだけど、人魚は人魚同士、出会えたら挨拶もするわけで。「勝手に流れ着いてすんません!」て敬礼するみたいに背筋を伸ばして、俺達に挨拶をしたんだ。変な子だなって、でも可愛いなって思って、胸がくすぐったかった。恋をするのも、一瞬だった。
小栗ビュン
DONE6話中1話目。西谷夕編。海獣のバラード~人の子~世界に同じ顔した人が三人いるという迷信は聞いたことがある。けれど、同じ顔をしたやつとなんて出会ったとこがない。会いたくもない。けれど、恋人と同じ顔した人なら少しだけ見てみたい。
「うちの旭さんの方がかっけぇだろ」って言ってやれるから。
そんなことを考えているうちに、それでは恋人に対して失礼なのかそうではないのか、わからなくなってきて陸路の移動中に眠ってしまっていた。なぜそんなことを考えていたのか。
この時点で、俺はもう、呼ばれていたのかもしれない。
西谷夕は今、北海道を縦断していた。
遡って昨日のこと。
「今度は北海道の先っぽに行ってきます。」
「マジか、締切が迫ってなかったら一緒に行ったんだけどなあ。」
久しぶりの国内の冒険に、心配性の彼氏が安心と悲しみを合わせた複雑な顔をしていた。旭さんは止めても無駄ということを知ってくれている。その上で、時々渡航するのに細心のチェックを俺にしてくれる。毎日の世界情勢が変わるのは肌で感じているし、そんな中で出会う人達との時間がダイレクトに教えてくれる。日本て小せえなってつくづく思うけれど、日本てやっぱ寝る場所にはいいよなって思ったりする。一番の寝床は、旭さんといるベッドだ。それに限る。
10610「うちの旭さんの方がかっけぇだろ」って言ってやれるから。
そんなことを考えているうちに、それでは恋人に対して失礼なのかそうではないのか、わからなくなってきて陸路の移動中に眠ってしまっていた。なぜそんなことを考えていたのか。
この時点で、俺はもう、呼ばれていたのかもしれない。
西谷夕は今、北海道を縦断していた。
遡って昨日のこと。
「今度は北海道の先っぽに行ってきます。」
「マジか、締切が迫ってなかったら一緒に行ったんだけどなあ。」
久しぶりの国内の冒険に、心配性の彼氏が安心と悲しみを合わせた複雑な顔をしていた。旭さんは止めても無駄ということを知ってくれている。その上で、時々渡航するのに細心のチェックを俺にしてくれる。毎日の世界情勢が変わるのは肌で感じているし、そんな中で出会う人達との時間がダイレクトに教えてくれる。日本て小せえなってつくづく思うけれど、日本てやっぱ寝る場所にはいいよなって思ったりする。一番の寝床は、旭さんといるベッドだ。それに限る。