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    #ジュナカル

    junacar

    関東礼

    PROGRESS10月発行予定の短編集に収録するサキュバスカルナさんのジュナカルの作業進捗です
    サンプルで出せるところまで
    万華鏡暮らしのかわいい悪魔 完璧な日没を済ました空が薄手のジャケットを着た肩へ懐かしそうに接し、幅の広い影を生んでいた。カルナにはさいしょ、それが誰かわからなかった。若い男だ。後ろ姿では年齢は曖昧になるが、膝から腿にかけての発条が入っているかのような力強さでおおよそ察した。凜々しさの種類も―三十歳を超えた青年には特有の迫力が宿る―まだ柔和で、癖のついた黒髪は僅かな明かりを吸って天使の輪を浮かべている。はっと思い出した。アルジュナだ。四つ年下の従弟がカルナの部屋の前に立っている。褐色の指がインターフォンのボタンを押した。その後しばらくじっと動かなかったから、もう一度ボタンに指を伸ばすと思ったけれど、彼は物言わずドアを見つめ、アパートの階段を廊下の向こう側からおり始めた。カルナがそっと後ろについていき、見下ろすと、アルジュナが一歩道へ踏み出した途端、雨が降り出した。九月生まれの、まだ十九歳の従弟は、六月の雨ののろまな銀糸を振り切って走り出した。会社から帰ってきたばかりのカルナの鞄の中には、バーバリーチェックの折り畳み傘が入っている。鍵をあけ帰る部屋の傘立てに、モスグリーンのラインのプリントされた物が一本。差し出せば良かった。思って、祈るようにカルナは躊躇った。昔、彼を襲ったことがある。しかし、彼は彼に会いに来た。ドアを開け内側から施錠する仕草に、アルジュナの見たかっただろう光景が重なった。カルナが顔を出すのを期待していた筈だ。その通り。本当はもうキッチンで夕食を作っている時間だった。五歳のアルジュナがカルナの髪みたいと言ったとうもろこしのひげを切り、皮を剥き小さな身を芯から外している筈だった。全部彼の顔を見ないままやる。うがいの合間に洗面台の鏡に視線をやれば、舌がじんと疼いた。ウォールナット材の枠に囲まれた真四角の反射面に、カルナの模様がひりひり光っている。薄い舌は生き物の肉にぴったりとはり付くよう細やかにひらつき、神経が通っている。そいつはアルジュナをとてもよく覚えている。白熱灯によって青みを帯びた黄色に変わった光が、カルナの口内に侵入し、粘膜をつやめかせた。模様は口を開きすぎた彼が発した溜息に従弟の名前に含まれるものと同じ音を見つけて痺れ、熱をもつ。そいつはアルジュナを愛している。いや、愛してなんかいない。
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