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TRAINING美佳ちゃんが煙草の香りに思うこと。宜野座さんと狡噛さんはちょろっと出演で気持ち常霜です。
800文字チャレンジ18日目。
見かえしてやるんだわ(煙草の香り) 私が公安局に勤め出した時、歳は二十にもならなかった。桜霜学園の教育方針に半ばか逆らうようにして公安局入りした私を守ってくれる人などは誰もいなかった。伝説の事件を解決した先輩とはソリが合わず、かといって移動するわけにもいかず、私は自分が埋もれてゆく気がした。でもそれよりも私を揺さぶったのは、一人の男の存在だった。
彼の名前は宜野座伸元という。以前は私と同じ監視官をして、先輩が解決した事件で執行官堕ちした人間。ずいぶん優秀だったのよ、とは二係の青柳監視官の言だが、彼女は宜野座さんと同期というから信用はならない。ただ、多くの猟犬を一人でコントロールして、一人も死なせなかったというのは、私の興味を引いた。私はその頃の宜野座伸元の日誌を読むことにした。別に先輩に言う話でもないし、宜野座さんに許可を取るものでもないから、無断で読んだ。そこにはいつもより厳しい、私の前でいつも笑っている彼とは違う、苛烈な男の人生が描かれていた。
977彼の名前は宜野座伸元という。以前は私と同じ監視官をして、先輩が解決した事件で執行官堕ちした人間。ずいぶん優秀だったのよ、とは二係の青柳監視官の言だが、彼女は宜野座さんと同期というから信用はならない。ただ、多くの猟犬を一人でコントロールして、一人も死なせなかったというのは、私の興味を引いた。私はその頃の宜野座伸元の日誌を読むことにした。別に先輩に言う話でもないし、宜野座さんに許可を取るものでもないから、無断で読んだ。そこにはいつもより厳しい、私の前でいつも笑っている彼とは違う、苛烈な男の人生が描かれていた。
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TRAINING出島のマーケットを夜歩く話。800文字チャレンジ17日目。
月のない夜(あなたのいる夜) 出島は景観整備がほとんどされていないから、夜にマーケットを歩くとほとんど空に月はない。星もないし、店から登る湯気や、煙草の煙なんかで薄くけぶっている。けれど俺はその風景が好きだった。それこそが彼が日本に戻ってきた理由のような気がして。
狡噛が日本に戻って再び寝るようになった時、彼はここでは月は見えないのだなと、少し寂しそうに言った。そりゃあそうだろう、彼が道を作るように進んでいた発展途上国には夜には明かりはない。みな早くに寝て、早くに起きて仕事をする。こんなふうに夜を楽しむのは、電気が通っているところだけだ。
「飲んで帰るか?」
「今日はそうするか」
花城と離れたら本当はすぐにでも官舎に戻らねばならないのに、俺たちは彼女の監視がルーズなのをいいことに聞きなれない言葉を話す店主に勧められて、読めもしない文字が書かれたビールを二本頼んだ。狡噛はそれを温かい夜にぐいぐい飲んで身体を暖かくして、俺の指先に、ベンチに手を置くふりをして触った。俺もそれに同じように触った。あたりにはまだ人がいて、月はなくて、通りに掲げられたぼんやりとした明かりだけが夜市を照らしていた。美しい夜だった。
867狡噛が日本に戻って再び寝るようになった時、彼はここでは月は見えないのだなと、少し寂しそうに言った。そりゃあそうだろう、彼が道を作るように進んでいた発展途上国には夜には明かりはない。みな早くに寝て、早くに起きて仕事をする。こんなふうに夜を楽しむのは、電気が通っているところだけだ。
「飲んで帰るか?」
「今日はそうするか」
花城と離れたら本当はすぐにでも官舎に戻らねばならないのに、俺たちは彼女の監視がルーズなのをいいことに聞きなれない言葉を話す店主に勧められて、読めもしない文字が書かれたビールを二本頼んだ。狡噛はそれを温かい夜にぐいぐい飲んで身体を暖かくして、俺の指先に、ベンチに手を置くふりをして触った。俺もそれに同じように触った。あたりにはまだ人がいて、月はなくて、通りに掲げられたぼんやりとした明かりだけが夜市を照らしていた。美しい夜だった。
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TRAINING七夕の時思い出す宜野座さんの願い事のお話。800文字チャレンジ16日目。
願いごと(七夕の話) たった一つ願いが叶うというのなら、彼よりも一呼吸先に死にたいと思っていた。そして死ぬ時は看取られたいと思っていた。それは俺が父と母を見て思ったことであり、狡噛が健全な愛情を向けてくれる度に、そんな薄暗いことを思った。狡噛は輝く太陽のようだ。そして俺はその影に入って、暑い日をやり過ごす人間のようだった。狡噛を愛している。最後まで一緒にいたい。けれど、この薄ら寂しい心の中に、俺が死んですぐ彼を引き摺り込みたい、俺はそう思っていたのだ。
「はい、今日はこれで仕事はおしまい。私は上と飲みに行くから、みんな適宜解散してね」
花城がそう言うと、俺たち行動課に所属する三人は、皆それぞれ頷いた。出島に来て長いが、今日はどうしようか。飲みにでも行くか。それとも家に帰って食事でも作るか? デリバリーもいいな。
939「はい、今日はこれで仕事はおしまい。私は上と飲みに行くから、みんな適宜解散してね」
花城がそう言うと、俺たち行動課に所属する三人は、皆それぞれ頷いた。出島に来て長いが、今日はどうしようか。飲みにでも行くか。それとも家に帰って食事でも作るか? デリバリーもいいな。
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TRAINING征陸さんとお母さんのオルゴールと狡噛さんと宜野座さんのオルゴール。学生時代から外務省時代まで続いた二人のお話です。
800文字チャレンジ15日目。
オルゴール(あなたを思うということ) 父が母に贈ったプレゼントの中に、木箱を薔薇模様を彫ったオルゴールがある。母はもう意識を失ってしまったが、まだ薬を打ちつつ俺の世話をしてくれていた頃に、夜中そのオルゴールを鳴らしていたことがあった。エリーゼのために。ベートベンが愛した女のために書いた曲。父は音楽知識も豊富だったから、それを贈ることに何か意味があったのかもしれない。母と示し合わせた何かがあったのかもしれない。けれど俺はそれが分からないで、悲しい曲を夜中、空を見ながら聴く母を、家に帰って来ない父を、そしてそんな両親と暮らしていかねばならない自分を不安に思ったのだった。
だから狡噛がオルゴールをくれた時、それがエリーゼのためにだった時、俺は少し驚いた。何となく父を思わせるところのある彼は(会ったこともないというのに、狡噛は父に似たことをよく言った)、五年目の記念に、と進級したばかりの俺にそう言った。俺はいつものようにあたふたしてしまって、ちゃんと答えられなかったと思う。でもそれをもらった時、俺はもしかしたら、二人に別れが来るかもしれない、と思わずにはいられなかった。狡噛を思って、空を見上げながらオルゴールを鳴らす時が来ると思わずにはいられなかった。そして数年後に、それは現実となったのだった。
936だから狡噛がオルゴールをくれた時、それがエリーゼのためにだった時、俺は少し驚いた。何となく父を思わせるところのある彼は(会ったこともないというのに、狡噛は父に似たことをよく言った)、五年目の記念に、と進級したばかりの俺にそう言った。俺はいつものようにあたふたしてしまって、ちゃんと答えられなかったと思う。でもそれをもらった時、俺はもしかしたら、二人に別れが来るかもしれない、と思わずにはいられなかった。狡噛を思って、空を見上げながらオルゴールを鳴らす時が来ると思わずにはいられなかった。そして数年後に、それは現実となったのだった。
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TRAINING狡噛さんちに初めて泊まる日は案外くだらなことがきっかけだった、というお話。800文字チャレンジ14日目。
友人以上恋人未満(恋人以上友人未満) 友達だ、と意識するのにはそれほど時間はかからなかったし、恋人だ、と意識するのにもそれほど時間はかからなかった。狡噛は同級生で友人で恋人で、いつかパートナーになる男だって俺は真剣に思っていて、だから恋人になるまでの焦ったいラブコメディ映画の感覚なんて、俺は彼と一緒にいても分からなかった。
苦しく思うようになったのは、むしろ彼と恋人になってからだった。彼が他の誰かと喋っているだけで苦しい、彼が他の誰かから告白されているだけで苦しい、狡噛は夜寝る前に必ず俺におやすみの挨拶と愛してるの挨拶をしてくれるが、俺はその贅沢なメッセージをもっても、学校が始まるまで悶々とした。学校が始まってもデバイスを見ては悶々とした。恋人ならずっとデバイスを繋げて寝て、起きて挨拶をするのに、狡噛はなぜかそれをしてくれなかったからだ。これはまぁ、同じクラスの女子たちで流行していることなので、狡噛は知らないのかもしれないけれど。
826苦しく思うようになったのは、むしろ彼と恋人になってからだった。彼が他の誰かと喋っているだけで苦しい、彼が他の誰かから告白されているだけで苦しい、狡噛は夜寝る前に必ず俺におやすみの挨拶と愛してるの挨拶をしてくれるが、俺はその贅沢なメッセージをもっても、学校が始まるまで悶々とした。学校が始まってもデバイスを見ては悶々とした。恋人ならずっとデバイスを繋げて寝て、起きて挨拶をするのに、狡噛はなぜかそれをしてくれなかったからだ。これはまぁ、同じクラスの女子たちで流行していることなので、狡噛は知らないのかもしれないけれど。
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TRAINING狡噛さんが初めてプロポーズした日の話。800文字チャレンジ13日目。
未来予想図(プロポーズ)「厚生省に上がったら、一緒に住まないか?」
狡噛がそう言ったのは、俺が部下の文句を言いながらランチを口に運んでいた時のことだった。俺は少しの間ぼうっとした。それは少し考えにくいように思えたからなのだが、何年もずるずると学生時代から付き合っていて、先のことを考えないのも、そう言われればおかしいような気もする。
「それは友人として? 恋人として? それとももっと深い間柄として?」
公安局のランチスペースじゃなく、外の店を選んだのはこれか、と俺は思う。狡噛は少し赤い顔をしていて、それは寒空の元可愛らしく俺に映った。これじゃあまるでプロポーズを催促しているみたいだな、なんて思う。恋人としてじゃなく、もっと先に進みたいっていうんなら俺だってやぶさかじゃない。俺は魚のフリッターを食べる。狡噛はパンをちぎる。プロポーズみたいなものは何度もされているが、直接こんなふうに言われようとしていたのは初めてのことだった。最近は血生臭い事件が多くて、俺たちは駆り出されてばかりだったし。
972狡噛がそう言ったのは、俺が部下の文句を言いながらランチを口に運んでいた時のことだった。俺は少しの間ぼうっとした。それは少し考えにくいように思えたからなのだが、何年もずるずると学生時代から付き合っていて、先のことを考えないのも、そう言われればおかしいような気もする。
「それは友人として? 恋人として? それとももっと深い間柄として?」
公安局のランチスペースじゃなく、外の店を選んだのはこれか、と俺は思う。狡噛は少し赤い顔をしていて、それは寒空の元可愛らしく俺に映った。これじゃあまるでプロポーズを催促しているみたいだな、なんて思う。恋人としてじゃなく、もっと先に進みたいっていうんなら俺だってやぶさかじゃない。俺は魚のフリッターを食べる。狡噛はパンをちぎる。プロポーズみたいなものは何度もされているが、直接こんなふうに言われようとしていたのは初めてのことだった。最近は血生臭い事件が多くて、俺たちは駆り出されてばかりだったし。
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TRAINING思ったより父親の思い出がない宜野座さんが自分たちのことも忘れてしまうのかもなと悩むお話。800文字チャレンジ12日目。
たぶん、僕は忘れてしまうだろう 父との思い出はほとんどない。元々あの人は家に帰らない人だったからかもしれないが、例えばセーフハウスで過ごした日々が俺の一生の思い出になったように、俺がずっと覚えていられるのは、ほんのわずかなものなのだろう。今日狡噛が俺の髪の毛を褒めてくれたこととか、筋肉の付け方を教えてくれたこととか、夜は旅先で覚えた料理をしようと約束してくれたこととかは、俺は多分すぐに忘れてしまうのだろう。大切にしているセックスの最中に言われた言葉も最近じゃルーティーンになってあやふやだし、俺が本当に覚えているものは、彼に捨てられた時のことだとか、彼と再会して初めてキスをした時のことなどだった。印象的なことしか、俺の頭は覚えていてくれない。それが苦しみを含むものであっても、覚えていてくれない。ただ幸せな思い出だけを、この頭は覚えていてはくれない。
930時緒🍴自家通販実施中
TRAINING最終考査が終わって旅行に行く学生時代の狡宜です。東北に行きます。
800文字チャレンジ11日目。
冬の星座(モラトリアムのキス) 学生時代、最終考査を終えて二人で旅行に行ったことがある。本当は大人の許可が必要で、IDだって就業証明があるものじゃなきゃいけなかったのだが、狡噛はどこかに手を回して(多分廃棄区画だろう)本物と見紛うばかりのIDを俺に用意した。旅行先に選んだのは、東北に近い、人が住むぎりぎりの地区だった。もう少し行けばハイパーオーツ畑といったところだ。そこはひなびた温泉宿で、女将も不思議がっていた。もうここらには何もありませんよ。名物の祭りもあったんですけどねぇ、シビュラシステムの命令で、みぃんな宿を仕舞ってしまって。私ももうそろそろ終わりにする予定です。
美味しい料理をたくさん食べて、掛け流しの湯に浸かって、そのまま寝るのかと思ったら、狡噛は俺を散歩に誘った。女将は懐中電灯を持たせてくれたのだが、それはとても狡噛の散歩には役に立った。何せ彼は林の中の一本道を歩き、光などなかったから。
807美味しい料理をたくさん食べて、掛け流しの湯に浸かって、そのまま寝るのかと思ったら、狡噛は俺を散歩に誘った。女将は懐中電灯を持たせてくれたのだが、それはとても狡噛の散歩には役に立った。何せ彼は林の中の一本道を歩き、光などなかったから。
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TRAINING監視官時代から外務省時代まで。変わったことと変わらないことがある二人の話。
800文字チャレンジ10日目。
抱きしめたい(雑踏) 俺たちを知らない人しかいない雑踏の中で、不意に抱き締められることがあった。信号が赤に変わって、立ち尽くすしかない時に、彼は後ろから俺を抱き締め、甘えるように鼻をこするのだった。周りの人間は何も言わない。だって俺たちはただの通りすがりで、狡噛慎也と宜野座伸元が抱き合っているなんて、誰も知るところにないから。あの時、狡噛が何を考えていたのかは分からない。ただ見知らぬ誰かに俺を自分のものだと主張するのが、彼の幼い独占欲であることは分かった。でも、俺なら自分を知る人の前でも抱き合えるのに、彼はそうではないらしい。
「あなたたちって、本当によくくっつくわね。そんなに寒いの? 部屋の温度を上げましょうか?」
935「あなたたちって、本当によくくっつくわね。そんなに寒いの? 部屋の温度を上げましょうか?」
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TRAINING学生時代の狡噛さんと宜野座さんのラブレターにまつわるお話。800文字チャレンジ9日目。
手紙(ラブレター) 狡噛は変にアナクロなところがある男だった。授業はほとんど重ならなかったが、教師の講釈をタブレットにまとめるでなくノートに書き写したり、そして今ではほとんど見ない小説を読んでいたり。だからからなのか、狡噛にかぶれた少女たちは、彼と同じ本を読みたがった。そしてその本に感化された少女たちは、狡噛に手紙を書くのだった。愛しています、好きです、そんな簡単な、けれど想いを込めたラブレターを書くのだった。狡噛の靴箱には、いつだってラブレターが詰まっていた。俺はそれに胸を痛めながら、彼が学生鞄にそれを入れるのをじっと見た。そしてその手紙はどこに行くのだろうかと、俺は思うのだった。
彼の同級生がいたずらを思いついたのは、狡噛があまりにもラブレターをもらっていたからだろう。ラブレターで狡噛を呼び出して、待ちぼうけさせてやろう、という馬鹿ないじめだった。全国一位の男には敵わないから、せめてそんな男でも手に入れられないものがあることを教えてやる、ということなのだろう。俺は話を聞いても、それを狡噛には伝えなかった。ただ俺は狡噛が傷つくとどうなるのか少し気になった。そんなこと、どうでも良いことなのに。
1008彼の同級生がいたずらを思いついたのは、狡噛があまりにもラブレターをもらっていたからだろう。ラブレターで狡噛を呼び出して、待ちぼうけさせてやろう、という馬鹿ないじめだった。全国一位の男には敵わないから、せめてそんな男でも手に入れられないものがあることを教えてやる、ということなのだろう。俺は話を聞いても、それを狡噛には伝えなかった。ただ俺は狡噛が傷つくとどうなるのか少し気になった。そんなこと、どうでも良いことなのに。
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TRAINING宜野座さんが好きと気づいた時の狡噛さんは混乱したのか、たくさん読んだ本の言葉をようやく理解したのかというお話。800文字チャレンジ8日目。
一目惚れ(あなたに気づいた日) 狡噛は俺の名前すら知らなかった。顔も何も知らなかった。ずっと学力考査で彼の二番手についていたというのに、この男は俺が殴られているところを見るまで宜野座伸元を認識しなかった。最初のうちはムカついたし、彼の他人への無関心さには驚いたが、付き合うちに狡噛の欠けた部分に気づいた。そしてそれを補おうとして、興味を持った他人に傾倒していく様とか。
佐々山を追いかけて、今のようになってしまった友人は、誰に習ったのかも分からない言葉で俺に愛をささやく。
「ギノ、お前が欲しがってた食パン」
ある日狡噛は紙袋に入ったそれを一斤俺に渡した。聞けば情報屋を使い走りに使ったのだという。駄賃を持たせたから大丈夫だと彼は言うが、そんな問題ではない。
909佐々山を追いかけて、今のようになってしまった友人は、誰に習ったのかも分からない言葉で俺に愛をささやく。
「ギノ、お前が欲しがってた食パン」
ある日狡噛は紙袋に入ったそれを一斤俺に渡した。聞けば情報屋を使い走りに使ったのだという。駄賃を持たせたから大丈夫だと彼は言うが、そんな問題ではない。
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TRAINING狡噛さんが熱を出して仕事を休む話。令和なので感染するようなことは(ほとんど)しません。
鬼の霍乱です。
800文字チャレンジ7日目。
熱(高熱) 狡噛が高熱を出した。
それは普段から不摂生をしている彼にとっては当然のことのようにも思えたし、彼のあまりにも強い生命力を知っている身からすると、鬼の霍乱ではないかとも思った。今彼は俺とは離れて自室のベッドで養生している。すぐにでも訪ねたい気分だったが、二人も倒れられては困るから、見舞いには行くなとの花城に命令された。だったら俺はじっとしているしかない。彼の分のデスクワークが回って来たから、そんなに日まではなかったのだけれども。
狡噛の熱は三日ほど続いた。その間も連絡は取らなかった。デバイスを使えば接触せずとも語り合えるというのに、彼の体力が削られることを恐れて見舞いの言葉は送らなかった。なんて不誠実な恋人なのだろうか。そうは思ったものの、見舞いの言葉なんて限られている。いくらか身体を気遣って、最後はお大事に、だ。花城が面会を止めるくらいの高熱なのだから苦しいに決まっている。そんな中で定型文を読ませたくない。
1275それは普段から不摂生をしている彼にとっては当然のことのようにも思えたし、彼のあまりにも強い生命力を知っている身からすると、鬼の霍乱ではないかとも思った。今彼は俺とは離れて自室のベッドで養生している。すぐにでも訪ねたい気分だったが、二人も倒れられては困るから、見舞いには行くなとの花城に命令された。だったら俺はじっとしているしかない。彼の分のデスクワークが回って来たから、そんなに日まではなかったのだけれども。
狡噛の熱は三日ほど続いた。その間も連絡は取らなかった。デバイスを使えば接触せずとも語り合えるというのに、彼の体力が削られることを恐れて見舞いの言葉は送らなかった。なんて不誠実な恋人なのだろうか。そうは思ったものの、見舞いの言葉なんて限られている。いくらか身体を気遣って、最後はお大事に、だ。花城が面会を止めるくらいの高熱なのだから苦しいに決まっている。そんな中で定型文を読ませたくない。
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TRAINING怪我をした狡噛さんとそれ以来悪夢を見るようになった宜野座さんの話。一人で乗り越えられるけど一緒にいたいな〜という感じのお話です。
800文字チャレンジ6日目。
昨日見た夢(花の銃弾) 夢見が悪くなったのは、狡噛が俺を庇って怪我をした日からだった。怪我自体は大したものではなかった。ただの銃弾のかすり傷だ。だがその場所が問題だった。こめかみ、もう数ミリずれていたら、失明どころか命さえ危うかったところ。狡噛はこんなのは紛争地帯じゃ日常茶飯事だと笑っていた。しかしそんな場所を知らない俺にとっては、やはり恐怖でしかなかった。
夢の内容は色々だ。狡噛が死んでしまうものが多いが、彼がそもそも俺の人生に存在しなかったものもあった。その世界では俺は無事に監視官を務め上げて厚生省の官僚となっていた。ただ父と和解することは最後までなく、彼は現場で死んでいたが。夢の話は狡噛には話さなかった。ただでさえ縁起が悪いし、それほどまでに弱っていると見られたくなかった。もちろん花城にも話していなかったのだが、彼女はどうしてか目の下にクマを作った俺を呼び出すと、よく眠れるサプリメントよと、私も使っているのと錠剤を渡してくれた。俺は眠るのが怖いんだ、と言った。花城はそれを聞いてこれは重症だといった顔をしたが、それ以上追及しなかった。狡噛と話し合え、ということなのだろう。
1165夢の内容は色々だ。狡噛が死んでしまうものが多いが、彼がそもそも俺の人生に存在しなかったものもあった。その世界では俺は無事に監視官を務め上げて厚生省の官僚となっていた。ただ父と和解することは最後までなく、彼は現場で死んでいたが。夢の話は狡噛には話さなかった。ただでさえ縁起が悪いし、それほどまでに弱っていると見られたくなかった。もちろん花城にも話していなかったのだが、彼女はどうしてか目の下にクマを作った俺を呼び出すと、よく眠れるサプリメントよと、私も使っているのと錠剤を渡してくれた。俺は眠るのが怖いんだ、と言った。花城はそれを聞いてこれは重症だといった顔をしたが、それ以上追及しなかった。狡噛と話し合え、ということなのだろう。
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TRAINING二人は人前で仕事のこと以外喋っているのか問題。二人きりの時にしか喋らないのか案外そうでもないのか…。
ちょっとすけべです。
800文字チャレンジ5日目。
ありがとう(おしゃべりはベッドの中で)「あなたたちって、本当に何も喋らないのね。あ、私とじゃなくて、あなたたち二人きりの時の話」
花城はそう言うと、出島のカフェテリアの中でレモンティーを傾けた。もう底に甘ったるい砂糖が残っているだけで、後はほとんどが水だ。俺はそんな上司の言葉を受けて、彼女の買い物に付き合ったことにやや後悔した。狡噛も同じだっただろう。仕事があるからと来なかった須郷だけが、このややこしい状況から逃れられたのだから羨ましい。
「女の買い物に言葉は必要か?」
「違うわよ、あなたたちが二人きりで何も喋らないのが問題ってこと! 良いカップルカウンセラーを紹介しましょうか? 解決するかも」
狡噛はそんなやりとりを花城として、苦い顔になってコーヒーを飲み干した。ここでは大分時間を潰した。そろそろ官舎に戻る時間だ。まぁ、そんなわけで、俺たちは部屋に戻った、のだが。
1037花城はそう言うと、出島のカフェテリアの中でレモンティーを傾けた。もう底に甘ったるい砂糖が残っているだけで、後はほとんどが水だ。俺はそんな上司の言葉を受けて、彼女の買い物に付き合ったことにやや後悔した。狡噛も同じだっただろう。仕事があるからと来なかった須郷だけが、このややこしい状況から逃れられたのだから羨ましい。
「女の買い物に言葉は必要か?」
「違うわよ、あなたたちが二人きりで何も喋らないのが問題ってこと! 良いカップルカウンセラーを紹介しましょうか? 解決するかも」
狡噛はそんなやりとりを花城として、苦い顔になってコーヒーを飲み干した。ここでは大分時間を潰した。そろそろ官舎に戻る時間だ。まぁ、そんなわけで、俺たちは部屋に戻った、のだが。
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TRAININGバラで宜野座さんと仲直りしようとする狡噛さんのお話。800文字チャレンジ4日目。
狡噛さんはかっこ良すぎるからかっこ悪いくらいがちょうどいいなぁと思いました。
花束(花束を君に) バラの花束を抱えて帰って来た恋人に、俺は声が止まりそうになった。というか実際止まった。俺の目は一瞬で品種を見分け(オクラホマだった)、その赤い色から花言葉を探った。あなたを愛します。つぼみがあるから純粋な愛に染まるって意味もある? 狡噛は言葉をなくして突っ立っている俺に、「花売りに押し付けられて」と言った。顔色は変わらない。ならばそうなのだろう。基本的に俺に言い訳はしないし嘘もつかない男だし、だったら哀れな花売りに頼まれて買ったのだろう。時刻はそろそろ十二時過ぎで客も途切れる頃合いだ。
俺はバラを受け取って、とりあえず花をまとめるリボンを解いて包んであった紙を畳んで捨てて、棘がそげ落とされて縛られた茎をハサミで切るべくキッチンに向かった。狡噛は俺についてきて冷蔵庫でビールをあさっている。今日は青島ビール、軽いものがお好みらしい。
943俺はバラを受け取って、とりあえず花をまとめるリボンを解いて包んであった紙を畳んで捨てて、棘がそげ落とされて縛られた茎をハサミで切るべくキッチンに向かった。狡噛は俺についてきて冷蔵庫でビールをあさっている。今日は青島ビール、軽いものがお好みらしい。
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TRAININGお母さんが亡くなった時、海に行った宜野座さんの話。思い出の全ては狡噛に支配されていて消えられない苦しさ。執監時代。800文字チャレンジ3日目。
波打ち際(サマータイム) 恋人と行きたいデートスポットは? もちろん海です、夏の海はロマンチックだもの。俺はそんな若い女の感想を耳にしながら、やがて海を模したプールの宣伝に変わってゆくコマーシャルを一つ無人タクシーの中で見た。途中でナイアガラの滝が出てきた時は笑ってしまったが(あれは川だ)高濃度汚染水で満たされていると分かっていても、彼女らにとっては海は憧れの場所なのだろう。
狡噛が読んでいた本にも海を賛美するものは多かった。詮索はしなかったけれど、事実彼は泳げもしない海を眺めに行っているようだった。誰かに影響されやすい、可愛らしい恋人。
俺は今、母の遺体を引き取りに沖縄に来ていた。そして何かに導かれるように、全てを終わらせると海に行った。多分、学生時代に俺の母の出身が沖縄と聞いた狡噛が、きっと色なんて全然違うんだろうなななんて、そんな馬鹿げたことを言ったからだった。その頃は俺は監視官で狡噛は執行官だったから、俺は意固地になって言わなかったが、彼の言葉はいつだって俺の中にあった。
866狡噛が読んでいた本にも海を賛美するものは多かった。詮索はしなかったけれど、事実彼は泳げもしない海を眺めに行っているようだった。誰かに影響されやすい、可愛らしい恋人。
俺は今、母の遺体を引き取りに沖縄に来ていた。そして何かに導かれるように、全てを終わらせると海に行った。多分、学生時代に俺の母の出身が沖縄と聞いた狡噛が、きっと色なんて全然違うんだろうなななんて、そんな馬鹿げたことを言ったからだった。その頃は俺は監視官で狡噛は執行官だったから、俺は意固地になって言わなかったが、彼の言葉はいつだって俺の中にあった。
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TRAINING喧嘩した二人の話。仲直りしようとする狡噛さんだったが…?!編。狡宜800文字チャレンジ2日目。
いじわる(意地の悪い恋人について) ギノは意地が悪い。たとえばどちらも悪いような喧嘩をした後、彼は数日に渡って視線をそらし、あからさまに俺を避け、そしてデバイスのメッセージすら無視する。そしてその数日間俺は彼に触れることすら出来なくて、ようやく拝み倒してベッドに沈む頃には、もう一週間が過ぎていたりする。俺はこれでも彼を尊ぶようにしているつもりなのだが、どうやら、小さな一言が彼を傷つけてしまったりするようだ。二十年付き合ってそれが分からないというのだから笑ってしまうが、法律家にでも相談すればこれは内縁の夫に対する離婚事案らしいのだから恐ろしくて聞けはしないし詮索もしないのだが。
そして今日も喧嘩をしてしまった俺は途方に暮れてギノの部屋のドアを叩く。通常市民は犯罪者を恐れず鍵を開けっぱなしにするが、移民の多い出島ではかつて東南アジアで見たような、何十にも錠前をつけるのが主流だった。ギノは移民ではないけれど、どうも俺は敵対勢力と見られている気がする。彼を傷つけるもの、彼の辛い記憶を呼び覚ますもの、なぁ、それでも愛していてくれよ。俺はそう願って、「ギノ」とインターフォンに呼びかける。音声は返ってこない。しかし鍵は開いて、俺はあぁ良かったと思い、そして何も手土産のない自分を思い出しこれは説得に時間がかかるぞ、と頭を抱えた。せめて酒くらい持ってくればよかった。
978そして今日も喧嘩をしてしまった俺は途方に暮れてギノの部屋のドアを叩く。通常市民は犯罪者を恐れず鍵を開けっぱなしにするが、移民の多い出島ではかつて東南アジアで見たような、何十にも錠前をつけるのが主流だった。ギノは移民ではないけれど、どうも俺は敵対勢力と見られている気がする。彼を傷つけるもの、彼の辛い記憶を呼び覚ますもの、なぁ、それでも愛していてくれよ。俺はそう願って、「ギノ」とインターフォンに呼びかける。音声は返ってこない。しかし鍵は開いて、俺はあぁ良かったと思い、そして何も手土産のない自分を思い出しこれは説得に時間がかかるぞ、と頭を抱えた。せめて酒くらい持ってくればよかった。
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TRAINING甘々狡宜。800文字チャレンジをやろうかなと思って…どうなるかは謎です!出会いを語りたがらない宜野座さんと無口なちょっと可愛い狡噛さんとフレ様。
須郷さんもいる設定ですが出て来ません…。
Boy Meets Girl(天使の話) 狡噛に初めて会った時の話は誰にもしたことがない。そもそも喧嘩でボコボコにされたところを助けられたというのが監視官時代には不恰好に思えたし、同じ上司のもとで対等に働く今となっては笑い話 ともいかないのが俺の駄目なところだった。役噛は多分、出会いを秘密にしたがる俺をからかわないだろう。それに俺がみじめに殴られていた話なんて彼からすることはないだろうし、たとえ俺がしたって乗ってはこないだろうけれど。
でも、俺は今彼とともに上官と仰ぐ花城に「二人の出会いは?」と真正面から尋ねられていたのだった。それもしたたかに酔っ払って、手がつけられないくらいになった彼女に。また上層部から厄介ごとを押し付けられてしまってやけ酒に走る彼女に。
850でも、俺は今彼とともに上官と仰ぐ花城に「二人の出会いは?」と真正面から尋ねられていたのだった。それもしたたかに酔っ払って、手がつけられないくらいになった彼女に。また上層部から厄介ごとを押し付けられてしまってやけ酒に走る彼女に。