ブブブ…
振動音に気付きスマホ画面を見るとリョータからの着信を知らせる文字。時刻は23時50分、間もなく5月20日が終わろうとしている。
ピッ
『おーいマイ起きてるかぁ?』
「起きてるから電話出たんでしょ」
『それもそだな!』
「それにしても今年はいつもよりちょっと早っかったわね」
『あぁ、うん……何か待ちきれなくて、な』
にゃはは、とリョータが誤魔化すような笑い声をあげる。
いつからか私とリョータで、毎年5月20日から21日に日付が変わるほんの数分前にどちらかが相手に電話を掛けて日付が変わる瞬間にお互いを祝う、ただそれだけの、2人だけの習慣ができていた。
「まぁ分からなくもないけどね、今年は去年とは違うから」
今年はイナさんの弟であるタイセイ君が転校してきて、その直後にアンノウン出現とタイセイ君の適正。それだけでも大事なのに、最近はあんなに適正値の変化が無かったリョータが、切望していたシンカリオン運転士になれた。今年はホントに特別な誕生日。リョータにとっても。
私にとっても…
『…もしもーし、マイ。マイさーん聞いてっか?』
「あ、ごめん、なんだっけ?」
『もうすぐ時間だぞーって言ったんだよ。ぜんっぜん反応ねぇからホントに寝落ちまったかと思ったぜ』
「ごめん、ちょっと感慨深いなって思ってたらぼーっとしちゃったみたい」
『まぁ、別に謝るようなことじゃねえし、起きてたんなら問題ねぇよ』
「うん」
『ほら、あと1分きった』
(20…10…5…)
『マイ、誕生日おめでとっ!!』
「(…0時)お誕生日おめでとうリョータ」
『いやぁ、それにしてもマイ~?』
「な、何よ?」
『まぁた一つ老けちまったなぁ?』
「ちょっと!また言ってる!それを言うならリョータだって歳取ったでしょ!たった今!!」
『ま、俺の方が若いっていいますか?』
「1日くらいでなに若者気取って、子どもじゃあるまいし馬鹿みたい!」
『バカって、誕生日早々にひどいっしょ!』
「…」
『…え、何?さすがに何か言って?』
「…リョータ、おめでとう」
『んっ!?…なんだよ、お祝いはさっき、』
「ほんとに、ほんとうに運転士になれて、おめでとう」
『ぅあ………ぁりがとな』
「で・も・ね?頑張りが一先ず報われたけどリョータの場合の《心》が伴っていなかった訳だからこれからも頑張りなさいよ?また適正値が下がって乗れなくなる事も有り得るんだから、自分の気持ちを誤魔化さないこと!いい?」
『いや普通にいい感じに終わってくれてもよくね?』
「いいから、返事はハイかYES。それ以外は苦情を含め一切受け付けません」
『ハイハイわぁったよ』
「素直でよろしい。じゃあ明日も学校だしそろそろ通話切るわよ?」
『おー、だな。じゃおやすみー』
「おやすみ、また明日(…素直じゃないのは私もなんだけど、ね)」
ピッ
「ったく!好き放題言いやがってマイのやつ………気持ちとか、誤魔化すのやめてもマイは、今までみたいに接してくれるのかよ……」