【1】Prelude - 前奏曲 -二十二時を少し回った、水曜日の夜。
人もまばらなホテルのフロントで名前を告げると、チェックインの手続きを経てカードキーを渡される。
エレベーターへ向かう。
ボタンを押すと間もなく、エレベーターの扉が上品な電子音とともになめらかに開いた。
誰も乗っていないガラス張りのエレベーターに乗り込むと、階数を押す。ぐんぐん昇っていくエレベーターから外を眺める。きらきらとした街の明かりが宝石のように散りばめられた美しい夜景に、思わず目を細めた。
地上に広がる、星空のような輝き。
それぞれが光を放っていて、そこにそれぞれの生活があるのだけれど。遠くから見れば個々の事情などは伺い知れず、ただ、まばゆい輝きだけがこちらの目に映るのだ。
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