特別なひとり雪が降り積る地面が踏み荒らされ、所々に血痕が飛び散る。
複数の悪魔によっての怒号が飛び交うそこは、最早魔界よりも地獄とも言えた。
「ハハハッ!!そこだ、やっちまえ!!」
「バカ野郎、狗からやれ!!」
「逃がすなー!!」
鋭い爪が相手を切り裂き、僅かに返り血を浴びる。
舌打ちをしながら口元の血を拭い、真鍮の瞳がイラつきで細められた。
数が増えすぎて、さすがに分が悪い。
(このままじゃただ消耗するだけか…仕方ない)
苦虫を噛み潰したような顔をした後、素早く地面を蹴る。
「─閣下、ご無礼を!」
「は─うおっ!?」
勢いを殺さぬまま主を抱えると、そのまま敵から離れていく。
何やら怒号が飛んで来るが、それに返す余裕などない。並の悪魔たちが人狼族の素早さに敵うはずもなく、一目散に走るとすぐに撒き、やがて先程の騒がしさが嘘のように静かな場所へ着いた。
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