drag dreamtale#7「明るくする必要など、ないのだろう?」
黒いタコのようなナニカが俺に語りかけてきた。
「えっ!?誰だお前!?」
「俺はNightmareだ。お前とは最も近くて、最も遠い存在」
「は?俺もNightmareだが?どういう事だ?」
「いわば、お前とは違う世界線の俺だ。どうだ、分かるか?」
分かるわけないだろうが。世界線?何じゃそら!
「まあそう思うよな兄弟。俺はさっきのお前の強〜いネガティブな思考に引きつられてきたんだよ。」
なんだよそれ。意味分からねえ…
「ところでお前、俺と契約をしねぇか?」
「は?するわけないだろ。こんな、バッと現れてきて、信用もクソもない奴。」
俺はNightmareと名乗る奴をギロッと睨みつけた。
「お前、その溶けた身体だと動くのも戦うのも少し不自由だろう?なら新しく肉体を作れば、強くなれるぞ?どうだ、契約するか?」
胡散臭ぇ………アホ胡散臭い。コイツを信じる訳には行かない。
「まあ、俺と契約しなくてもいい。が、コレは渡しておく。お前が使いたい時に使えば良いよ。じゃあな。」
そう言い、Nightmareと名乗る奴はドス黒い林檎を置き去り、消えてしまった。
こんな黒い林檎を俺に食べさせようとしてたのか……やっぱり信用ならん。
だが、どういう事か俺は林檎を奪った袋の中に入れた。
必要な時も、あるのかもしれないと信じていたのかもしれない。馬鹿みたいだとは自分でも思うけど、やっぱり俺はこの林檎を手放そうとはしなかった。
「…はは。」
先程買ったタバコにライターで火をつけ、タバコをゆっくり吸った。
このタバコ、匂いはドギツいがそれが好きなんだよな。それも好きになれる。
好き………か。
ドリームの事は嫌いなんて言えない
好きとも言えたもんじゃない
俺が俺でいるのがとても申し訳ない
なぜだろう
どうしても好きなのに
この気持ちは、捨てるべきなのか
取っておくべきなのか
今の俺には、そんな事を判断できる頭ではない
このまま二人で幸せになる訳には、行かない
その前に…………………
この世界をほぼ全て、無くしてしまおうか
そうしたらずっと一緒にいられるかな?
「そんな妄想はしない、もっと俺なんかより幸せになれるヤツがいるだろうが」
そもそも、俺たちは一緒にいられる運命じゃないんだ。
離れ離れで、対立する運命。
「ドリームに、会いたい、ッゔ、」
俺の眼から涙が溢れる。
声にならない泣き方で、俺は一人、暗い暗い路地裏で泣いた。
ドリームなんて大嫌いだ。
ドリームはとても大好きな兄弟だ。
その気持ちが俺の中で対立して、胸が苦しい。
「こんなに俺を悩ますドリームなんて、消えて仕舞えば良いのにな、は、はは、………ッ、」
幸せになるにはどうすればいいだろうか。
この世界の住人どもを虐殺したらドリームとしあわせになれるかな?、
そんな事、意志が弱い俺には出来ない。
こんな気持ちにさせた自分なんて大嫌いだ。
こんな気持ちにさせたドリームなんて大嫌いだ。
もう一人の俺には感謝しかない。
こんなに自分と向き合う時間をくれた。
もう一人の俺から貰った林檎を用水路のドブに捨て、俺はまた、ドリームを探しに暗い裏路地の奥の闇に入って行った。
*ケツイ