はねた
TRAININGふくだてが気になっています。スタンドバイミー 兄ィがな、と少女は言った。
ベンチのうえに両膝を抱えて、その目はまっすぐに前を向いている。ベンチの陰になった、地面には藤色のスニーカーがひと組きちんと揃えられていた。大雑把なように見えて、座面を土足で踏みつけにしないところが育ちの良さをあらわしている。
夜だった。
こどもたちの去ったあとのグラウンドはどこかうら寂しい。地面にスパイクの跡がいくつか、夜間照明のしたくっきりと浮かびあがる。整地って結構たいへんなんじゃがなと、そんなことを考えながら弁禅はおうと相槌を打つ。
冬も間近とあってあたりは冷えている。
どこかで虫の鳴き音がした。
ジャージ一枚羽織ったきりの軽装ではさすがに骨身にこたえる。寒いのうとぶるりとおおきく身震いすれば、かたわらで少女がきょとんとした。大仰な身振りをすればこどもはたいてい笑うものなのに、まっことお嬢さん育ちよのと弁禅はこっそり感心する。
4338ベンチのうえに両膝を抱えて、その目はまっすぐに前を向いている。ベンチの陰になった、地面には藤色のスニーカーがひと組きちんと揃えられていた。大雑把なように見えて、座面を土足で踏みつけにしないところが育ちの良さをあらわしている。
夜だった。
こどもたちの去ったあとのグラウンドはどこかうら寂しい。地面にスパイクの跡がいくつか、夜間照明のしたくっきりと浮かびあがる。整地って結構たいへんなんじゃがなと、そんなことを考えながら弁禅はおうと相槌を打つ。
冬も間近とあってあたりは冷えている。
どこかで虫の鳴き音がした。
ジャージ一枚羽織ったきりの軽装ではさすがに骨身にこたえる。寒いのうとぶるりとおおきく身震いすれば、かたわらで少女がきょとんとした。大仰な身振りをすればこどもはたいてい笑うものなのに、まっことお嬢さん育ちよのと弁禅はこっそり感心する。
はねた
TRAININGあくあしについて語る平さんと福田さんをかきました。きみはいいこ「阿久津がね」
平がそう言うのを、福田は黙って聞く。
空は晴れていた。寮舎に添い生えた木々が、風にさやかに揺れていた。
監督をまえにして、平はもう自分の話をすることはない。その顔はすっきりとして、けれどどこかにサッカーへの未練を残している。あるかなきかの、それを辿れなくなったなら自分は監督として終わりだなとそんなことを頭の隅で考えた。
「阿久津が寮に入ってきてしばらくして、フリールームにごきぶりが出たんですよ」
ごきぶり、と鸚鵡返しにすれば、平はハイとどこか得意げに笑う。苦手ですかと続けて聞かれたのは自分の顔がゆがんでいたせいかと、福田はつるりと頬をなでる。
「まあ、すきではないな」
「俺もです」
平は笑ってそう言った。
1969平がそう言うのを、福田は黙って聞く。
空は晴れていた。寮舎に添い生えた木々が、風にさやかに揺れていた。
監督をまえにして、平はもう自分の話をすることはない。その顔はすっきりとして、けれどどこかにサッカーへの未練を残している。あるかなきかの、それを辿れなくなったなら自分は監督として終わりだなとそんなことを頭の隅で考えた。
「阿久津が寮に入ってきてしばらくして、フリールームにごきぶりが出たんですよ」
ごきぶり、と鸚鵡返しにすれば、平はハイとどこか得意げに笑う。苦手ですかと続けて聞かれたのは自分の顔がゆがんでいたせいかと、福田はつるりと頬をなでる。
「まあ、すきではないな」
「俺もです」
平は笑ってそう言った。
はねた
TRAININGaoasのつきしまさんとふくださんを書きました。つきあってはいない。
つきしまさんのことが知りたくてならないきょうこのごろです。
colors 夜は冷えている。
昼間はこどもたちの賑やかな声が絶えないクラブハウスも、八時を過ぎればしんとしていた。ときおり耳をかすめるのは自分のめくる紙の音ばかり、日中は指導があるからとついついあとまわしにしてしまった書類がいま机上に山と積まれている。
事務室は広い。向かい合わせになった机がずらりと列をなした、その片隅に月島はいた。クラブの経営が苦しいわけではないけれど、数年の社会人生活で節電は身に染みついている。明かりは頭上の蛍光灯ひとつきり、ほかはひっそりとして暗い。薄闇にパソコンやプリンタの電源ランプがちいさく浮かんでいた。空調も切っているから、ジャージを羽織ったばかりの喉元が肌寒い。
残業ってガラでもないんだけどねえ、と肩をたたきつつ月島は立ちあがる。目処はまだつきそうになかった。コーヒーでも買いにいこうかなと上着のポケットを探る、と、そのときドアの開く音がした。
3588昼間はこどもたちの賑やかな声が絶えないクラブハウスも、八時を過ぎればしんとしていた。ときおり耳をかすめるのは自分のめくる紙の音ばかり、日中は指導があるからとついついあとまわしにしてしまった書類がいま机上に山と積まれている。
事務室は広い。向かい合わせになった机がずらりと列をなした、その片隅に月島はいた。クラブの経営が苦しいわけではないけれど、数年の社会人生活で節電は身に染みついている。明かりは頭上の蛍光灯ひとつきり、ほかはひっそりとして暗い。薄闇にパソコンやプリンタの電源ランプがちいさく浮かんでいた。空調も切っているから、ジャージを羽織ったばかりの喉元が肌寒い。
残業ってガラでもないんだけどねえ、と肩をたたきつつ月島は立ちあがる。目処はまだつきそうになかった。コーヒーでも買いにいこうかなと上着のポケットを探る、と、そのときドアの開く音がした。