見ないふり、見えないふり「カイリュー、はかいこうせん」
避けたつもりだったが、少し掠った。光線が脚を焦がす。
「ミュウツー!」
サカキが呼ぶ。心配そうな顔だ。まるで、普通のトレーナーのような。……おまえは、いつも勝者だ。絶対的な勝者であるべきだ。余裕を持った笑みを浮かべていなくてはならない。おまえにそんな顔をさせてしまった事が、何より腹立たしい。
「大丈夫か。傷は……」
「傷など、無い」
「そうか。行ってこい」
確かに負傷した。火傷のような跡が残った。サカキ程のトレーナーが、見落とす筈がない。あれは、見ないふりだ。それならば、私がやる事も、また見えないふりだ。
「遠慮なく行くぞ。覚悟しろ」
怒りを込めて、サイコキネシスを放った。カイリューは動かなくなった。マントの男が、悔しそうに項垂れる。
私は最強のポケモンだ。サカキは、最強のトレーナーだ。その証明のために、我々は戦い続けなくてはならない。