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    あいぐさ

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    あいぐさ

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    大学生と社会人で破局した同級生の話を聞いて急に不安になる大学生ファの話。普通の幸せなフィガファウ、息を吐くように現パロ。

    狂愛執心夢心地 その日、同じゼミの女子から年上の恋人に振られた話を聞かされた。社会人と大学生では価値観が合わない、一緒にいられないと言われたらしい。
     へえ、そうか。興味なさげな態度を取りながら、ファウストはそっと胸元に手を当てた。銀のネックレスが肌に触れ、金属のひんやりとした感覚が伝わってくる。
     どくどく、どくどく。心臓の音がやけにうるさい。嫌な汗がつぅと背中を流れていく。眼鏡を掛け直す手も、ほんの少しだけ震えているかもしれない。
     フィガロは、どう思っているのだろうか。いつだって優しく笑う彼を思い出し、急に不安に募っていく。
     彼女と同じく、ファウストにも年上の恋人がいる。自分よりもずいぶんとハイスペックで、優しくて、忙しい社会人だ。
     涼しい顔を装いながらも、内心ではどこか他人事のように思えなかった。
     
     その日、ファウストは一人駅近のタワーマンションに訪れた。コンシェルジュに軽く挨拶をしてエレベーターホールに向かい、慣れた手つきでいつもの階のボタンを押す。
     膨らんだエコバッグには、近くのスーパーで買ってきた食材たちが詰め込まれていた。フィガロの家で料理をするのはずいぶんと久しぶりだ。野菜を切って、肉を焼くだけなので、飾りと化しているあの家の調理器具でも作ることができるだろう。
     ゼミが始まるまで、ファウストは他のゼミ生と共に彼女の愚痴を聞き続けていた。そのせいで、ゼミの間もついフィガロのことばかり考えてしまう。幸い発表はなかったものの、さっぱり集中することができなかった。
     自分は、彼を繋ぎ止める何かをしただろうか。与えられてばかりではないだろうか。ぐるぐる考え続け、気づけば近くのスーパーに向かっていた。
     今日は定時で帰れそう。朝に来た連絡では、彼はそう言っていた。スッキリとしたキッチンで、フライパンの上で肉がじゅうと音を出す。
     こんなことでフィガロの気持ちが変わるわけではないのに。けれど、パッと思いつくのはこれぐらいだったのだ。
     けれど、フィガロは帰ってこなかった。料理を全て作り終わったころ、帰宅がずいぶんと遅くなるとの連絡がきたのだ。思わず落胆の声が出てしまい、慌てて己の口を押さえた。
     あなたのために生姜焼きと、あと味噌汁を作ったんだ。そんなことすら言えず、ファウストは了解のスタンプを押す。すぐに既読になり、先に寝ていて欲しいとのメッセージが続いた。これはずいぶんと遅くなるのだろう。
     仕事が忙しいのは分かっている。けれど、どうせなら一緒に食べたかった。今週のことを緩やかに話して、二人でゆっくり映画でも見て、長い夜をゆっくりと過ごしたかった。
     これは、贅沢なのだろうか。ファウストには分からない。
     広いリビングでぼんやりと一人で夕飯を食べ、食べ終えた食器をゆっくりと洗っていく。食洗機はなんとなく使う気になれなかった。
     一人で過ごす時間は、思考が途切れるたびにちいさなため息を吐いてしまう。
     きっと、これはわがままなのだろう。もしかしたら、この料理も善意の押し付けかもしれない。家に帰ってからは、もう何も食べたくないかもしれない。そういえば最近ダイエットをはじめたと言っていた。夜の食事はダイエットの天敵だ。けれど、どこか義理堅い彼は、この冷めた料理も無理して食べてしまうかもしれない。
     ぐるぐると悪いことばかり考えてしまい、ファウストは再びため息を吐く。ファウストのお腹はもういっぱいで、二人分を食べることは難しい。フィガロのための料理は、軽くラップをしてキッチンの隅に置かせてもらうことにした。食べなければそれでいい。自分が明日食べればいいのだ。
     風呂に入り、ぼんやりとスマホをいじりながらファウストは家主の帰宅を待った。けれど、時計の針がてっぺんで合わさっても、フィガロが帰ってくる様子はない。
     そういえば、彼女は昼間愛想を尽かされてから恋人が帰ってくるのが遅くなったと話していた。自分との約束を反故にして、飲み会に行っていたらしい。今さらそんな話を思い出し、ひどく気が沈んでしまう。
     胸元で揺れるネックレスに触れながら、ファウストはため息を吐く。今日は慣れないことをしたから妙に疲れてしまった。
     ふぁ、と大きなあくびをした後のことは、あまり覚えていない。
     真夜中にスマホを揺らす唯一の通知にも、気づくことはなかった。

     トントン、と優しく身体をゆすられている。ほどほどに力強く肩の辺りを叩かれいるが、不思議と嫌な感じはしない。
    「ファウスト、起きて。ここで寝ると身体が痛いよ、ね?」
     優しい声だった。薄目を開ければ、自分を心配する声の主が困ったように笑っている。まだ着替える前なのだろう、少しだけよれたスーツからは知らない匂いがした。
    「……おか……えり」
    「ただいま」
    「うん、おかえり、なさい」
    「あはは、うん、ただいま。待っててくれてありがとう」
     わしゃわしゃと癖毛を撫でた彼は、スーツとネクタイを椅子にかけ、ペタペタと部屋の奥に消えていく。すぐに戻ってきた彼は上下スウェットのラフな格好に着替えていた。
    「ファウスト、キッチンのご飯食べてもいい?」
    「ああ……」
    「やった、ありがとう」
     ハンガーにかけられたジャケットはうん十万円するクリーニング機に入れられる。部屋の片隅で青々と光るランプをぼんやりと見つめていると、チンッとレンジの音がした。
     冷たい麦茶は二つ。ほかほかの生姜焼きをお盆に乗せて隣に座った彼は、眠そうなファウストににこりと微笑む。
     けれど、その笑みが今はひどく心をさざめかせた。
    「迷惑じゃ、ないか」
    「なにが?」
     いただきます、と手を合わせたフィガロは、不思議そうに頭を傾ける。
    「その、勝手に上がり込んで、ご飯まで作って……」
    「全然、すごく美味しそう、本当にありがとう。それに、いつだって金曜日はきみが家にいると思って幸せなんだ。全てを投げ出してしまいたいぐらいね」
     その割には帰るのが遅かったな、なんて。嫌味ったらしい言葉は心の中にしまっておく。たっぷりとタレを肉に絡ませながら美味しそうに食べる男を見ているだけで、負の感情は少しずつ薄れてつつあった。
     それでも、聞かねばならない。寝起きの頭を回転させ、たどたどしい口調で言葉を紡いでいく。
    「その、僕はあなたの負担にはなってはないか」
    「ないよ、なるわけがない。えっと、なにか言われた?」
     勘が良いフィガロの瞳がすっと細められる。これは、絶対に納得するまで離してくれないときの目だ。
     ファウストは全てを話した。それが、フィガロを一番安心させると知っているからだ。
     今まで言いたいことを溜め込んで何度も喧嘩してきた。もう同じことを繰り返すのは懲り懲りである。
     全てを吐き出せば、フィガロは遅く帰ってきたことを謝罪した。詳しくは話さなかったが、どうやら重大なトラブルが続いてしまったらしい。
     そして、彼は隣に座るファウストの身体をそっと抱き寄せた。
    「俺は全部きみが好きでやっているんだ。負担に感じることなんてない。いつも楽しくて嬉しいんだ。いつもありがとう」
    「でも……」
     自分が求める作られたかのような完璧な答えに、ファウストはほんの少しだけ不安になる。そんな気持ちがそのまま顔に出た彼の頬に、フィガロはそっと大きな手を当てた。
    「きみのことが大切なんだ。きみじゃないと合鍵なんて渡さないし、手作り料理を食べることなんてない。ねえ、信じて」
     頬に置かれた手は妙に熱っぽい。真っ直ぐに見つめるその瞳は、優しくもありどこか激しい想いすら感じられる。
     人当たりも良くて誰にでも優しい。けれど、この男は自分の真のテリトリーに人を入れたがらないのだ。その特別な一人になっていることの自覚は充分にある。
    「……別に、疑ってはない。気になっただけだ」
     そう、多分疑ってはいなかった。あけっぴろに全て話せるぐらいの、小さな不安だった。
     そんな小さなモヤモヤでも、彼は必ず拾って安心させてくれるのだ。
     きっと、これは甘えだろう。けれど、そんな風に自分を変えたのはこの男なのだ。
     だから、きっと僕は悪くない。
    「気にしなくても大丈夫だよ。ごめんね、不安にさせて」
    「別に、おまえは悪くないと思うけど……」
     ほら、冷めるぞ。そう言えば、彼はぷにとファウストの頬をつついて、味噌汁をすする。
     美味しい、とどこか幼げな笑顔を見せる彼に、ファウストはふっと笑った。

     少しだけ早く目が覚めると、隣ですぅすぅと小さな寝息が聞こえてくる。少しだけ身体を寄せれば温もりを感じられ、フィガロは小さく微笑んだ。
     指通りのよい髪からは同じシャンプーの香り、ベット脇に置かれたネックレスはプレゼントとして送ったお揃い。寝巻き、それに下着もフィガロが用意したものだ。履いていたスリッパも、学校に使っているカバンも、眼鏡も、全部全部フィガロが一緒に選んだり、買ったものばかりである。
    「負担になるわけなんてないのに」
     ファウストにあらぬ心配をさせてしまった。フィガロは心の底から悔いていた。
     どうやったらこの愛が、気持ちが伝わるのだろうか。ゆっくりと頭を撫でれば、彼はもぞりと身体を動かした。
     ファウストにちゃんと分かってもらわなければ。きみのことが大切だという意味が、ただの言葉だけではないということを。
     そのためには、一体何ができるのだろうか。

     とりあえず今日からファウストを目一杯可愛がろう。言葉だけではなく、行動でも示さねばならない。そして、もう一度手作りの料理をねだってみよう。今度は真剣な紫の眼をじっと見つめていたい。
     お出かけやその他もろもろの計画を頭の中で立てながら、フィガロはにっこりと笑った。
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