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    ふすまこんぶ

    @Konbu_68
    ワンクッションイラスト/小説置き場

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    ふすまこんぶ

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    オリ旦那氏×将軍という謎のカプに目覚めてしまったので勢いで書きました。
    クーデター後、処刑された将軍と、残された旦那氏、息子娘たちの話です。長男目線。短い。
    ⚠️死ネタ

    記念に「パパ見て!貝がら拾った!」
    「綺麗だねえ」
    「ママ〜お兄ちゃんが私のヒトデとったあ!」
    「海にまで来て喧嘩をするな!」
    パラソルの下で、のんびりと砂浜で妹たちと喋る父と、波打ち際で弟の首根っこを掴む母。末の妹は、そんな騒ぎのすぐ近くにいるにもかかわらず、砂で城を作って遊んでいた。
    天気が良いからだろうか、その風景はとても眩しく見えた。

    そんな記憶を夢に見たのは、きっと、本日付で母の処刑が行われるからだ。



    5年ぶりに訪れた実家は、妹3人の手入れのおかげか、思っていたより埃が少なかった。きょうだいがこうして全員揃うのも久しぶりで、お互いに顔を見合ってはぎこちなく笑みを浮かべた。唯一の弟はピシアに所属している俺を何年も避けていたが、声をかけると安心したような表情をしたので、こちらもホッと胸を撫で下ろした。
    母の体は、処刑されたその日のうちに棺に入れられて届けられたが、「ベッドに寝かせてあげようか」との父の言葉に従い、両親用の大きなベッドに寝かせることにした。
    棺の蓋を開けた時、やけに古いデザインの軍服を着ていることを不思議に思うと同時に、大柄だったはずの体が小さく見えて、胸が締め付けられた。
    弟と2人で、母の体を持ち上げる。何十年ぶりに触れた体は酷く冷たかった。
    「あれ、その服……」
    母の体をベッドに横たわらせた時、父が口を開いた。
    母が着ている、少しくたびれて色褪せた、緑色の軍服。父はそれを見た途端、慌てて近くのクローゼットの中を漁る。
    「パパ?」
    上の妹が声をかける。父が取り出したのは、母の軍服と同じくらい時代遅れの、グレーのスーツだった。もう年でよたつく父を、上の妹が手伝って着替えさせる。
    スーツを着終わった父は、ゆっくりと母の側に膝をついて、もう動かないその左手を握った。
    「おかえり、ギルモアくん」
    この数年、両親は別居状態だった。
    母は、クーデターを起こす少し前から、自分の荷物を運び出してピシア本部で暮らしていた。ピシアの事務局に勤めている俺に、わざわざ音頭を取らせて引っ越しをさせたのだ。全く、家族を良いように扱ってくれるなあと不満を抱いたのを覚えている。
    だが、別居しても、全く連絡を取らなくなっても、母は住民票は移さなかったし離婚届を出そうともしなかった。
    父も、離婚しようともしたいとも言わず、家族で暮らしたこの家に留まることを選んだ。
    「僕の方が先に死ぬと思ってたのに」
    父がぽつりと呟く。
    父は昔から体が弱かった。体調が変動しやすく、調子の良い時は家族で外に出かけられたが、悪い時はずっとリビングのソファで寝込んでいた。医者から、出産に耐えられるか分からないと言われる程だったらしい。
    普段は書斎で小説を書いていて、書籍化した時は嬉しそうに教えてくれたけど、対象年齢がちょっと高めの内容で、子供の頃は読んでも分からなかった。母が本についての感想を言っているところはついぞ見たことがなかったが、母は父の新作が出るとすぐに自分で買って読んでいた。
    病弱な文学青年だった父と、殺しても死ななさそうな気難しい軍人の母が何故結婚したのかは、俺たちきょうだいには分からない。見合い結婚だった、と父から少しだけ聞いたことがある。
    「2人だけに、してくれないかな」
    人形のような母の手をさすりながら、父は言った。何年も会えなかった分、2人きりの時間が欲しいのかもしれない。俺たちはそう思った。
    最後に俺が部屋を出て行こうとすると、父に呼び止められた。
    「後のこと、頼んでも良いかい?」
    多分、俺が1番年上だからそう言ったんだと思う。それは、母の葬儀に関することだと考えた俺は、頷いて答えた。
    「ああ。2人でゆっくりしなよ」
    扉を閉めて、リビングできょうだい揃って会議を始める。
    葬儀をどうするか相談している最中、電子銃の発射音が鳴り響いて、嫌な予感がした俺はすぐさま寝室に駆け込んだ。
    母の上に、父が覆いかぶさっていた。
    父の右手には、護身用だと言ってクーデター直後に持つようになった、小型の電子銃が握られていた。
    末の妹は青ざめた顔で父の体を揺すった。
    「パパ、パパ!」
    反応はない。父の脈をとれば、あるべき拍動は既に失われていた。
    「ど、どうしよう、救急車……」
    狼狽える弟。俺は静かに言った。
    「いや……先生を呼ぼう」

    「先生」は、父が昔からお世話になっているかかりつけのお医者さんだ。
    救急車を呼んだって助からない。父はもう高齢だし、すぐに心拍が止まったということはおそらく急所を撃ったのだ。
    父はきっと……本当に、母と2人きりになりたかったんだ。父だけ病院に搬送して、また2人を引き離すよりは、家で静かに看取る方が良いと思った。
    先生から死亡の宣告を受け、両親の葬儀をまとめて行うまで、目まぐるしい日々が続いた。泣く暇もなかった。
    父は、ずっと前からこうするつもりだったのか、葬儀の手配のやり方や、連絡してほしい人のリストを作って、書斎の机の上に置いていた。
    葬儀当日は2人分の慰問客が訪れた。父には出版社の人や、昔の編集さんたち。母には軍の偉い方や、元ピシアの人たち。あのドラコルル長官も現れた。
    父の死因は自殺だと言うと大体の人は驚いたが、特に親交が深かった人はどこか納得したようだった。
    葬儀が終わった後、実家で遺品を整理していると、父の本棚に見たことのないアルバムが収められていた。
    「何? そのアルバム」
    アルバムを開くと、真ん中の妹が覗き込んできた。
    ぱらぱらとページをめくる。やけに古い写真だ。写っているのは──若い頃の両親だ。まだ結婚する前だろうか、結構色々なところに遊びに行っていたらしい。
    最後のページに、大きめの写真が貼られている。写真館で撮影してもらったものだろうか。きちんとおめかしをした2人が写っている。ムスッとした顔で軍服を着た母と、ニコニコと笑うスーツ姿の父だ。
    「ねえ、このスーツ、最期にパパが着てたやつじゃない?」
    妹が写真の中の父を指差す。
    「確かに……こっちの軍服は、母さんが着てたやつだ」
    写真のそばに貼られた付箋に、コメントが残されている。
    「初めてのお見合い記念」
    達筆な字は父のものだ。
    「……そういえば、2人が死んだ日ってさ、結婚記念日だよね」
    「……本当だ」
    妹の言葉に思い出す。
    そうだ、色んなことがあって頭から抜けていたが、あの日は2人の結婚記念日だった。
    子供の頃は毎年、母がお高いケーキを買ってきて、家族全員で食べていたのを覚えている。俺たちきょうだいが全員実家を出た後も、記念日にケーキを食べたり、プレゼントを贈ったりといった習慣は続いていると、父から聞いたこともある。
    母が何を思って最期にあの軍服に袖を通したのか、父がどんな気持ちで母の手を握っていたのか、今となってはもう知り得ないことだ。
    我が物顔でどこへでも行く母を、後ろからのんびりと父がついていくのは、いつものことだった。
    だから、あの時もきっと、父は母を追いかけたのだろう。
    「後で、ケーキお供えに行こうか」
    アルバムをぱたんと閉じ、妹に言う。
    「良いね。この辺りにおすすめのケーキ屋さんがあるの」
    妹はニッコリと笑って、他の妹たちに声をかけに行った。弟もケーキ屋に着いて来ることになったらしい。
    俺の懐大丈夫かな、と苦笑いを浮かべ、玄関まで行って叫んだ。
    「置いていくぞお前たち!」
    わあ、待って!と年甲斐もなく一目散にかけて来る弟妹を横目に、俺は玄関の扉を開けた。(終)
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