確かにチョコだけどさー…カフェで向かい合う仁は納得の行かない顔だ。新は首を傾げ、注文したチョコケーキをぱくり。こんなに美味しいのに、口に合わなかったんだろうか。
「ケーキは美味しいけど、そうじゃないんだよな」
「何が違うんだ」
「今日はバレンタインだし、それっぽいやつがほしかったの」
「それなら君の隣に山ほどあるじゃないか」
紙袋を指差す。座席に着くまでチョコが詰め込まれた紙袋を両肩に抱えていたくせに何を言う。校内で貰ったチョコが重いだろうから、その場で食べれるカフェにしたのに。モテ男の考えることはよく解らない。
一口に切り分けたケーキを口に運ぶ。コーヒーにも紅茶にもほどよく合う甘さでおいしい。
「この中にお前のはないじゃん」
拗ねてる理由が子どもみたいでまた面倒くさい。それなら……
対面から腕を伸ばして仁のナイフを手に取り、手付かずのケーキを一口大に切り分けていく。フォークに突き刺さるそれを、食い入るように見つめる二つの目。
「ほら」
これでどうだ。ぽかんとした顔の前に、フォークを突き出す。新の嫌がらせに、端正な口は素直に食いついた。
「うん、美味い」
「そうか」
へらりと緩んだ顔に頷いて、一緒に完食した。
2024.2.15